【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1096話 リオンの引き渡し

「こ、これはこれは……。Bランク冒険者のタカ――」

「そうだ」

 しばらくして現れたギルドマスターは、小太りの中年男性だった。
 俺は座ったまま彼の言葉を遮り、肯定する。
 ここはギルドの奥にある個室だが、どこから情報が漏れるか分からないからな。
 フルネーム――『タカシ=ハイブリッジ男爵』などと呼ばれることは避けたい。

「……失礼ですが、貴方様が本物である証拠は……」

「ギルドカードが何よりの証拠だろう? あれは古代魔道具の技術を応用したものだ。偽装はできない」

「ですが、万が一という可能性もあります。失礼ですが……その……」

 ギルドマスターの態度がはっきりとしない。
 まぁ仕方のない面もある。
 例えばDランク冒険者と記されたギルドカードを持っている時点で、その者がDランク冒険者であることは示されるし、周囲も当然のようにそれを受け入れるだろう。
 CランクやEランクも同様だ。

 一方のBランクはどうか?
 さすがにBランクにもなれば、少しばかりの疑いも生じてしまう。
 Bランクはかなりめずらしい存在だからだ。

 とはいえ、普通は上級の武具を装備していたり、豊富な魔力や闘気をまとっていたりするので、雰囲気で受け入れられることも多いが……。
 今の俺は『Dランク冒険者タケシ』に扮するため、やや粗末な武具を身に付け、魔力や闘気を抑えた状態だからな。
 ギルマスの態度が中途半端なことになってしまうのも理解できる。

「では、これいうのはどうだ? ――【跪け】」

 俺は重量魔法を発動させた。
 するとギルドマスターの膝が崩れ落ち、床に這いつくばる格好となる。

「うっ!? な、何ですか、これはっ!?」

「ただの重力魔法さ。出力は控えめにしておいたが……。これが本物の証明になるか?」

「……じ、重力魔法? これほどの魔法を使えるとは……! やはり、あの高名なタカ――」

「その名は口にするな。もっと出力を上げてやろうか?」

 俺は少しばかり威圧してやる。
 あまり偉そうなのは得意じゃないが……。
 ヤマト連邦への潜入作戦が控えている今、素性が大っぴらになるのはマズイからな。

「……! お、お待ちください!」

「状況を理解したか?」

「は、はい! 貴方様が確かに『例のあの御方』であることを確認いたしました!!」

 ギルドマスターの声色が急に変わる。
 彼は怯えきった顔をしながら、何度も首を縦に振った。
 ……なんだか、『名前を言ってはいけないあの人』みたいな扱いになっているよな。
 自分で言ったこととはいえ、少し妙な気分になる。
 ま、まぁ大きな問題はない。

「よろしい。ならば、さっさと本題に入らせてもらう」

「な、なんなりと!」

「ダダダ団の頭領であるリオンという男の行方を把握しているか?」

「……い、いえ。現在、行方は分かっておりません。これから総力を上げて捜索する予定ですので、何卒ご勘弁をしていただきたく……」

 ギルマスが怯えきった声で答える。
 いかん。
 切り出し方を間違えたか。
 これでは、頭領を取り逃がしたギルドを俺が責めているような形になっている。
 違う違う、そうじゃない。

「行方不明となっているのは当然のことだな。ギルマスが気に病むようなことではない」

「当然、と言いますと……?」

「なぜなら――彼はここにいるからだ。――【影棺・解放】」

 俺は影魔法を発動させる。
 すると、俺の横に黒い渦が発生した。
 そこから――

「…………」

 ――中年の男が1人、姿を現した。
 男は気絶しており、床に横たわったまま動かない。

「こ、この男はっ!?」

「そうだ。お前たちが必死に探していたリオンという男だ」

 俺は静かに答える。
 これで、ようやく肩の荷が下りた。
 面倒なことは全て冒険者ギルドに押し付けよう。

「まさかっ! すでに確保されていたなんて……!!」

「ま、俺にかかれば造作もないことだ」

「さすが……素晴らしいお手並みでございます!」

 ギルマスは感激しているようだ。
 こんなに早く解決すると思わなかったのかもしれない。

「後の処理は任せた。衛兵隊あたりとも協議して、適切な対応をいい感じにしておいてくれ」

「はっ! 承知いたしました!!」

「一応言っておくが……。くれぐれも逃がすなよ? 頭領だけあって、それなりに強かったからな」

「はい! もちろんでございます!!」

「本当に大丈夫だな? フリじゃないから。逃がすなよ? 絶対に逃がすなよ?」

「ご安心ください! 必ずや!!」

 ギルマスが力強くうなずく。
 これだけ念を押しておけば、心配ないだろう。

「しかし……なぜ貴方様がこの男を?」

「ギルドマスター……お前に1つ、忠告をしておこう」

「はい……?」

「この世には知らない方が幸せなこともある」

「は、はぁ……」

 俺はそれだけ言うと、席を立つ。
 もう用はない。

「俺たちがダダダ団に関わっていたこと――いや、そもそも俺たちがオルフェスにいたことは、くれぐれも内密にしろ。それが長生きの秘訣だ」

「も、もちろんですとも! 貴方様にご迷惑がかかることなどありません! ですが……それではダダダ団に関する功績を記録に残せませんが……本当によろしかったのでしょうか?」

「構わん」

 俺は短く告げる。
 地味ながらも決して小さくはない功績だが……。
 ヤマト連邦への潜入作戦に比べれば、どうでもいいと言わざるを得ない。
 今は目立たないまま出港できるようにしておくのが重要だ。

「それじゃあ、俺は行くぞ」

 俺はそう言う。
 そして、モニカやニムを連れて冒険者ギルドから出ていったのだった。
 次は……秘密造船所のゴードンと話しておくか。

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