【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1064話 キスの恩恵

 異世界の英霊である龍神ベテルギウス。
 彼は強かった。
 俺は手も足も出ないままボコボコにされ、海の中に沈んでいく。

(あー……。水から上がるのが嫌だなぁ……またボコボコにされそうだし……)

 なんてことを俺は考えてしまう。
 ステータス操作のチートで強くなっているとはいっても、メンタル面までは強化されていない。
 なので、圧倒的な力を持つ相手と相対すると、どうしても萎縮してしまうのだ。

 サザリアナ王国国王のネルエラ陛下、聖ミリアリア統一教会の聖女リッカ。
 そして異世界の英霊である龍神ベテルギウス。
 強い奴が多すぎるぜ……。
 そうこうしているうちに、海中深くまで到達してしまった。

(さすがにこれ以上潜るのは危険か……。いったん浮上して――)

 そこまで考えたところで、俺はハッとする。
 息が……さほど苦しくない。
 水中でもなぜか最低限の呼吸ができているようだ。

「どういうことだ……?」

 俺は不思議に思う。
 というか、海中で声に出して呟いた。

 こんなことは初めてだ。
 この世界に来てから、俺は強くなった。
 レベルを上げることによる基礎ステータスの向上。
 各種スキルの取得。
 そして、冒険者活動を通して向上した基礎体力。
 それらにより、俺の肺活量も大きく増している。
 地球で無職をやっていたときと比べれば、段違いに長い時間、息を止めていることができる。

 しかしさすがに、ここまで長時間の潜水は経験がない。
 普通なら、もう限界を迎えているはずだ。
 そもそも、水中で声に出して呟くなんて芸当もできるわけがない。
 この現象の理由はなんだ?
 心当たりがあるとすれば――

「人魚メルティーネからのキスか……?」

 俺は先ほどのことを思い出す。
 彼女は俺に口づけをした。
 しかも、彼女にとってあれがファーストキスだという。

 彼女の話では、人魚族のファーストキスは人族にとって特別な意味と効力を持つらしい。
 ……まさか、その時に何かしらの付与効果でも発動していたのかもしれない。
 その可能性は十分にある。

「だが……万全の呼吸とはいかないな……。少し息苦しいし、魔力も徐々に消費していくようだ……」

 やはり、所詮は人族。
 海中で地上と同じように活動することはできない。
 まぁ、それはいい。
 それよりも重要なことがある。

「問題は、龍神ベテルギウスをどうやり過ごすかだが……」

 俺は考える。
 とりあえず、今は海中で戦いを中断している。
 一時休戦のような形だ。
 このまま沈んでおけば、満足して元の世界に帰ってくれないだろうか?
 そうなれば、元のザコに戻ったリオンを回収し、オルフェスに帰って終わりだ。

「……いや、ダメそうだな……」

 海上では、闘気をビンビンに放出させているベテルギウスの気配が感じ取れる。
 あいつが大人しく引き下がるとは思えない。
 おそらく、今は律儀にも待ってくれているだけだ。
 俺が海中で時間稼ぎをするつもりなのを察したら、間違いなく追撃してくるだろう。

 完全に八方塞がりである。
 こうなりゃ、一か八か海上に出るしかないのか。
 俺がそんなことを考え始めたときだった。

『ねぇ』

 頭の中で声が響いた気がした。
 いや、実際に聞こえたわけではないと思うのだが――

「え?」

 俺の体の奥から、何かの力が湧いてくる。
 さっき、沈んでいく最中にも感じた力だ。
 これはいったい――

『聞こえてる?』

 再び頭に響く少女の声。
 今度ははっきりと聞こえる。

「あぁ……聞こえている」

 俺は答える。

「誰……だ?」

『アタシ? アタシは炎精サラマンダーよ。べ、別にサラって呼んでほしくなんかないんだからねっ! 勘違いしないでよねっ!』

「はい?」

 ツンデレっぽい女の子の声が脳内に響き渡る。
 俺は戸惑うばかりだ。

「……んっ!?」

 そこで俺は気づいた。
 今、俺の体内に何かがいる。
 何かはわからないが……。
 ただ、その存在を確かに感じる。

「なぁ、炎精サラマンダー」

『……』

「おーい、聞こえてないのか? ちょっと聞きたいことがあるんだが……。返事をしてくれ、炎精サラマンダー」

『……』

「……サラ、俺の話を聞いてほしい」

『なによ? 言ってみなさい。ふんっ! 別に、ご主人様にサラって呼ばれて嬉しいわけじゃないんだからねっ!』

 やっぱりツンデレじゃねぇか。
 扱いにくい。
 いや、逆に扱いやすいのか?

 この異世界に来て、俺はいろんな女性と出会ってきた。
 ユナ、ベアトリクス、月あたりもややツンデレの要素があったが……。
 ここまで強烈なツンデレは初めてだ。
 少しばかり戸惑ってしまう。

「サラはいったい何者なんだ?」

『言ったでしょ。アタシは炎精サラマンダー。大精霊プロドナス様の眷属にして、参級炎精としてご主人様に仕えているわ』

「ご主人様……だと?」

『そうよ。アンタのことよ。アンタがアタシのご主人様』

「……俺はお前と契約した覚えはないぞ」

『契約なんて必要ないの。プロドナス様がそう命じたのだから。アタシたちは、既に魂で繋がっているわ』

「……よくわからんが、とにかく俺の中にいる存在で間違いなさそうだな」

 俺は理解する。
 さっきから体内で感じていた力の正体は、この炎精サラマンダー……通称サラという精霊の力なのだ。
 龍神ベテルギウスへの対処法を練る上で、彼女の存在がキーになるかもしれない。
 彼女と話を続けてみよう。

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