【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1043話 エレナの困惑

 ヨゼフが必殺技を放った。
 凄まじい威力の波動がこちらに向かってくる。
 格下だと思って油断していたが、これは少しばかりマズイ。
 なぜなら――

「ひっ!?」

「うわわっ!」

 エレナたちが傷つくかもしれないからである。
 彼女たちはCランク冒険者であり、確かな実力を持つ。
 しかし今はいろいろと消耗しており、すぐに動いたり防御体勢を取ったりすることは難しい状態だ。
 そもそも、彼女たちの状態が万全だったとしてもこの攻撃をノーダメージでやり過ごすことは難しいかもしれない。
 彼女たちは攻撃魔法の熟練者である一方で、防御や回避においてはさほどのレベルにないからだ。

「あ……あ……」

 魔導工房の少女に至っては、恐怖のあまり腰を抜かして座り込んでいる。
 ヨゼフはチンピラだが、幹部だけあって悪くない実力を持つ。
 そんな彼がブチ切れて全力を出した必殺技は、非力な一般人にとって恐怖の対象でしかない。

「ひゃははぁっ! 全部吹っ飛べやぁっ!!!」

 ヨゼフの叫び声と共に、衝撃がどんどん近づいてくる。
 仕方ない……。
 俺は俊足を活かし、エレナや魔導工房の少女を一箇所に集める。

「……っ! 何を……!」

 文句を言いたそうにしているエレナ。
 まぁ当然だろう。
 ヨゼフを彼女から引き離してやったのは俺なのだが、彼女視点ではまだ敵か味方か確定していないからだ。
 しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。

「動くな。死にたくないのならな」

「……っ! あなた、いったい……」

 やれやれ。
 この緊迫した状態でしつこい奴だ。
 ルリイ、テナ、魔導工房の少女は、大人しく俺に守られる態勢なのに。
 まぁ、目まぐるしく動く事態についていけていないだけかもしれないが。
 エレナだけが、俺に対する警戒心を解いていない様子だ。

「私は、あなたのような怪しい奴を信じたりは――んぷっ!?」

 俺はエレナを強く抱きしめ、彼女の顔を胸元に押し付けつつ口の動きを封じる。
 下手に動き回られると、守れるものも守れなくなるからな。

「話は後だ。今は大人しくしているがいい」

 これでしばらくは静かになるはずだ。
 さぁ、来るぞ!

「ひゃはははっ! 死ねやぁぁぁあああっ!!」

 ヨゼフの攻撃が目前に迫る。

「――【影壁】」

 俺は自らの前に分厚い闇の障壁を展開する。
 ガガガガッ!!!!
 強烈な衝撃波を受け止めるも――

(むぅ……。やはり1枚ではキツイか……)

 1枚の薄い壁で受け止めきるのは無理があったようだ。
 俺は瞬時にそう判断した。

「――【影壁・三連】」

 続いて、三重の影の壁を展開。
 ガガガンッ!!
 衝撃波が壁を襲うも、なんとか耐えることに成功する。
 まぁ他の魔法や闘気を使っても耐えれたんだが、今の俺は『ナイトメア・ナイト』だからな。
 使用するのは主に影魔法だけと決めている。

「んんっ! んーっ!!」

「む?」

 俺の胸元で、エレナが暴れ始めた。
 どうやら息苦しくなったらしい。

「こら、暴れるな」

「んっ! んんっ! ――ぷはっ!」

 ようやく解放されたエレナが荒く呼吸をする。

「はぁ……はぁ……はぁ……。――な、何するのよ!?」

「お前がゴチャゴチャと騒ぐからだ」

「はぁ? 私がいつ騒いだっていうのよ? 何時何分何秒っ?」

「お前は子どもか。……それよりも、少し顔が赤いが大丈夫か?」

「――っ! ……そ、それは……」

「熱でもあるのか?」

「だ、誰があんたなんかに心配されて喜ぶものですか! 余計なお世話よ!!」

「そうか」

 俺は淡々と答える。
 彼女はプイッと顔を背けた。
 よく分からない女だ。
 俺はそう思ったが――

(な、何なのよ、もう……。さっきの匂い……。何だかすごくドキドキした……。あんなの初めて……。でも、嫌じゃなかった……。むしろ、心地よかったというか……。……って違う! 私には心に決めたタカシ様がいて、彼以外の男性にドキドキしたりしちゃいけないのに!)

 エレナが小声でぶつくさ呟いている。
 聴覚強化のスキルを持つ俺にとって、盗み聞きぐらい造作もないことだ。
 しかし、俺の匂いを気に入ってくれるとはな。
 将来的にはぜひハーレムメンバーに加えて――

(それにしても、どこか嗅ぎ覚えのある匂いだったような……? そう、私がタカシ様にいただいたこの『紅杖・レーヴァテイン』と同じ……?)

 それ以上はいけない。
 今の俺は『ダークガーデン』のボス『ナイトメア・ナイト』である。
 間違っても、タカシ=ハイブリッジ男爵と同一人物であることがバレてはならない。

「呆けるのはそこまでだ」

「――えっ!?」

 俺はエレナを後方に押しやる。

「ちょ、ちょっと! 私は――」

「足手まといは邪魔だ」

「なっ……!?」

 エレナがショックを受けた表情になる。
 だが、ここはあえて冷たく突き放す。

「お前たちはそこで見ているがいい。闇に潜みし我らダークガーデンが闇を狩る瞬間を」

 俺はニヤリと笑う。
 そして、ヨゼフの方に視線を向ける。

「ぜぇ……ぜぇ……。ば、バカな……。どうして無事なんだ?」

「あの程度で我をどうにかできると思ったか」

「ちっ……まぁいい! 別に俺一人で戦う必要もねぇんだ! これだけの人数で囲めばどうとでもなる! お前はもう、袋のネズミだぜぇ!!」

「ふん……。試してみるか?」

 俺はヨゼフの後方を見る。
 そこには、俺とヨゼフの動向を伺っている10人以上のチンピラがいる。
 ヨゼフの号令がかかれば、おそらく一斉に襲ってくるだろう。
 俺は少しばかり気を引き締めたのだった。

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