【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1033話 タルの中の不審者

 俺は襲撃者の3人を尋問し、情報を得た。
 注意すべきは、お頭の『ダン・ド・リオン』、幹部の『剛体のヨゼフ』、そしてヨゼフが使ってくる古代魔道具『ナントカの芳香』あたりだ。
 特に古代魔道具には要警戒だな。
 エレナたち『三日月の舞』は、魔法を封じられて敗北したようだし。

(まぁ、俺なら大丈夫だとは思うが……)

 魔法に大きく依存している『三日月の舞』に対し、俺は剣での戦いも得意とする魔法剣士だ。
 しかも、魔法や剣だけではなく、素手による格闘術も修めている。
 魔法を封じられたからといって、一方的に負けるとは思えない。

(くく……。待っていろ、ダダダ団……。必ず根絶やしにしてやる……)

 俺は内心で闘志を燃やす。
 ダークガーデンのボス『ナイトメア・ナイト』として黒衣を纏った状態で、気配を消しつつ歩みを進めていく。
 そして――

「しまった……。迷ったぞ……」

 俺はオルフェスのスラム街で途方に暮れる。
 うっかりしていた。
 ダダダ団のアジトがどこにあるか分からない。
 尋問ではボスや幹部、魔道具の情報を聞きだした。
 しかし、最も重要と言ってもいいアジトの場所は聞いていなかったのだ。

「どうしたものか。――ん?」

 闇雲に路地裏を歩いていると、妙な気配を感じた。
 俺は周囲を見回す。
 すると、建物の陰にあるタルの中が不自然に揺れた。

「そこに誰かいるのか?」

 俺は問いかける。
 だが、返事はなかった。

「出て来ないのであれば、剣を刺して殺すぞ」

 もちろん脅しだ。
 いきなり強い言葉で脅しすぎたかもしれないが、ここがスラム街であることを考えれば妥当だと思う。
 タルの中に隠れた謎の人物……。
 ダダダ団の構成員の可能性もある。
 道行く人を奇襲して、身ぐるみでも剥ごうとしていたのだろうか。

「……」

 やはり反応はない。
 まぁ、普通に考えて出てこないか。

「忠告はしたぞ」

 俺はアイテムボックスから普通の鉄剣を数本取り出す。
 ミティの一番弟子であるロロにもらった剣だ。
 紅剣アヴァロンやドレッドルートに比べ、性能的には劣る。
 しかし、『ナイトメア・ナイト』として隠密行動を取る際にはこうした普通の剣の方がいい。
 紅剣アヴァロンを使おうものなら、見る人が見れば一発で俺の正体が『紅剣のタカシ』だとバレるからな。

「死ぬがいい」

 ズバッ!
 ズババッ!!
 俺は数本の鉄剣を、次から次へとタルに突き刺していく。

「――ッ!?」

 すると、タルの中から声にならない悲鳴が聞こえてきた。
 そりゃそうだ。
 自分が隠れている場所を狙って剣を刺されれば、凄まじい恐怖を感じるよな。

 まぁ、俺は『気配察知』スキルのおかげでタルの中にいる人物の姿勢を把握できる。
 武士の情けで、体に直接突き刺すのは勘弁してやった。
 ありがたく思ってほしい。

「さて、俺の本気が分かっただろう? もう一度言う。そこから出てこい。そして、正体を見せろ」

 俺はタルに向かって声をかける。
 これほど過激なことをすれば、相手も出てくるはずだ。
 そう思ったのだが、タルの中から人が出てくる気配はない。

「やれやれ、強情な奴だ。悪党にしては度胸がある。――ん?」

 俺はふと異臭に気づく。
 なんというか……アンモニア臭いというか……。
 まさか!

「なんだ、漏らしたのか? くくっ、情けない奴だ。剣は直撃しないようにしてやったのに、体をかすめただけで漏らすほどの恐怖を感じたとは。ガキみたいな奴だ」

 俺はタルの中の奴を挑発する。
 どうやら、中にいる人物は相当なビビリらしい。
 俺は再び『気配察知』のスキルを活用して内部の様子を伺う。
 恐怖のためか、小刻みに震えているようだ。
 しかし、相変わらずタルから出てくる様子はない。

「まどろっこしいな。とりあえず剣を回収してからの――【焼失】」

 俺は鉄剣をアイテムボックスに回収した後、オリジナルの火魔法を発動させる。
 比較的初期の頃から使用している魔法だ。
 攻撃対象を非生物に限定するイメージを付与することで、火力を増強させることができる。
 ボオオォッ!!
 激しい炎がタルを包む。

「――ッ!!!」

 俺が魔法を発動させると、タルの内部から再び声にならない悲鳴が響いた。
 だが、今さらだ。
 超火力により、タルはあっという間に灰となっている。
 不審者が何かしらの武具を持っていたとしても、同じく灰になっているだろう。
 無事なのは、本人の肉体だけだ。

 やや手荒かもしれないが、スラム街の路地裏でタルなんかで身を隠しているのが悪い。
 恨むなら不審な行動をした自分を恨め。
 俺はそんなことを考えながら、炎に包まれた不審者を眺める。
 はてさて、隠れていたのはどんな人物なのやら……。

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