【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

992話 潜入

 倉庫に向かって歩いて行く王家の裏紋章付きの男。
 このまま行けば、チンピラと鉢合わせになるだろう。
 その前に、俺は男のすぐ近くまで音もなく近づいていく。
 そして――

「【影潜り】」

 小声で魔法を行使した。
 その瞬間、俺の身体はスッと地面に沈んでいき――完全に姿を消した。

 これはCランクパーティ『雪月花』三姉妹の次女である月に教わった影魔法の一つだ。
 彼女に手取り足取り教えてもらいながら練習した上、『ステータス操作』の恩恵もある。
 おかげで、今では影魔法でいろいろなことができるようになった。

(ふぅ……)

 無事に成功したことを確認し、俺は影の中で小さく息を吐く。
 そして、外の様子を伺う。
 今の俺が外から得られる情報は、主に視覚情報と聴覚情報となる。

 視覚については、影の中から真上方向を見ることができる。
 女性の影に潜んだらパンツ見放題だ。
 ただし、今の相手は男なので全く嬉しくない。

 一方、聴覚についてもある程度は似たようなものだ。
 影の中に入り込んでいるため少しばかり聞き取りにくいものの、影の持ち主が行う会話の内容程度なら問題なく聞き取れる。

『やぁ、お疲れ様』

 まず聞こえたのは、先ほどの倉庫職員の声だ。
 続いて聞こえてきたのは、先ほど見たチンピラ風の男の声だ。

『ふんっ! また元気に出勤ってか? ずいぶんと実入りの良い仕事みたいだな!』

『いえいえ、私はしがない倉庫職員ですよ』

 どうやら二人は知り合いのようだ。
 口調から察するに、あまり仲は良くないらしいが……。

『はっ! どうだかな! 実はお前、新しい勢力の一員だったりすんじゃねぇのか?』

 チンピラがそう指摘する。
 まぁ、当たらずとも遠からずといったところか。
 彼は新しい勢力――つまりは既存マフィアに対抗する新マフィアの台頭を警戒しているのだろう。
 倉庫を見張り、怪しい動きがあれば仲間に報告して一斉襲撃する。
 そうすれば、将来の敵対勢力を早めに潰せる上、金目のものも多少は手に入る。

『まさか! そんなわけないじゃないですか! はははっ!』

 わざとらしい笑い声をあげる倉庫職員の男。
 実際、彼は新マフィアの一員などではない。
 ネルエラ陛下の命を受けて、隠密小型船を建造しているはずだ。
 新しい勢力と言えば新しい勢力だが、チンピラが懸念しているタイプの勢力ではない。
 それに対して、チンピラの方は舌打ちをする。

『チッ……! まあいいさ! 精々頑張るんだな!』

 それだけ言い残して去っていくチンピラ風の男。
 彼は引き続き、少し離れたところから倉庫内部の様子を伺うようだ。
 今すぐに襲撃しないのは、この倉庫が本当にただの倉庫である可能性が排除できないからだと思われる。

 新マフィアの拠点であれば、前述の通り『将来の敵対勢力を早めに潰せる』『金目のものが入る』という少なくないメリットがある。
 しかも、マフィア同士の勢力争いには衛兵の介入も消極的なものとなるので、デメリットが少ない。

 一方で、ただの倉庫を襲撃すればどうなるか?
 メリットがさほどない上、デメリットは大きい。
 衛兵から強めの捜査を受けることになる。
 オルフェスはやや治安が悪いものの、世紀末レベルに崩壊しているほどでもないからな。

 マフィアとしても、黒寄りのグレーゾーンで活動している感じなのだろう。
 去っていくチンピラをを見届けてから、倉庫職員の男が口を開く。

『ふぅ……行ったか……』

 倉庫職員がホッと一息つく声が聞こえる。
 適当にあしらっているように見えたが、内心ではビクビクしていたようだ。
 無理もない。
 ただのチンピラでも、一般人からすればなかなかの脅威だろう。

 俺でも、チートがなければ逆立ちしても勝てない相手だ。
 まぁ、実際にはチートがあるので負ける気はしないのだが……。

『さて、そろそろ中に戻るか……』

 倉庫職員はそう呟いて、歩き出す。
 俺の狙い通りだ。
 倉庫職員とチンピラがやり取りしている間に、こそこそと潜入するという選択肢もあったが……。
 やはりこっちの方がいい。
 あらかじめ倉庫職員の影に入っておいて、倉庫職員とチンピラのやり取りを影の中でやり過ごし、そのまま倉庫内に入る作戦である。

(ここは玄関か。もっと中に入れば、造船所があるはずだ。もう少ししたら影から出て、自己紹介しないとな。……ん?)

 そんなことを考えながら待っていると、彼は玄関のすぐ隣にある部屋に入っていった。
 そこは、それなりに大きな部屋だった。
 ただ、家具などは何もない。
 その代わり、屈強な男たちが10人ほどいた。
 一見すると荷運びの人夫のように見えるが、その佇まいは洗練されている。

『おう、おかえり』

『ただいま戻りました』

 リーダーっぽい男に対し、頭を下げる倉庫職員の男。

『表のチンピラはどうだった?』

『いえ、特に何もありませんでしたよ』

 何事もなかったかのように答える倉庫職員の男。
 実際、一言二言話しただけで終わっているのだから嘘はついていない。
 しかし――

『そうか。だが、別の招かれざる客がいるみたいだぞ?』

 男はニヤリと笑いながらそう言った。
 それを聞いた瞬間、倉庫職員の表情が強張る。

『やはりそうですか? 私も何となく違和感を覚えまして、あなたに確認していただこうかと思ったのです』

『そうだな。まぁ、気づけるのは俺ぐらいなものだろう』

 リーダー格の男がそう言って、影に潜んでいる俺の方を見てくる。
 それにつられて、他の屈強な男たちや倉庫職員の男の視線もこちらに向いたのだった。

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