【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

991話 秘密の造船所

「ええっと、このあたりのはずなんだけどなぁ……」

 俺は現在、オルフェスの港に向かっていた。
 目的はもちろん、隠密小型船の確認のためだ。
 鎖国しているヤマト連邦に潜入するために、ネルエラ陛下の指示により建造されているはずである。
 ちなみにモニカとニムは別行動だ。
 別の諸用を済ませてもらっている。

「ふむ……。あそこか」

 港の端の方まで来ると、手紙で伝えられていた通りの建物を見つけた。
 一見すると倉庫のようだが、入り口の扉には見覚えのある紋章が刻まれている。
 あれは、知る人ぞ知る王家の裏紋章だ。
 表の仕事であれば、サザリアナ王国中に周知されている通常の紋章が使用される。
 それに対し、目立つべきではない裏のしごとでは裏紋章が使用されるわけだ。

(さて……どうやって入ろうかな?)

 普通に正面から入ってもいい。
 今の俺は剣や防具を装備していない上、服も粗末なものを敢えて着ている。
 必要以上の警戒はされないはずだ。
 そして、あの倉庫で隠密小型船を建造している責任者に会うことができれば、俺の正体がハイブリッジ男爵であることを告げればいい。

(……いや、今はダメだな)

 俺はひとつの事実に気付いた。
 あの倉庫から少し離れたところを歩いている人物がいるのだ。

(あいつは、ただの通行人か? それにしては雰囲気がおかしいな……)

 その人物は見るからにチンピラっぽい雰囲気を醸し出していた。
 倉庫の近くを自然な感じで歩いているが、どこか不自然な感じがするのだ。
 しばらく見ていると、その違和感の正体に気づいた。

(なるほどな……)

 よく見ると、その男は倉庫の周囲を往復するように歩いていた。
 倉庫を警備しているのだろうか?
 隠密小型船を建造中のあの倉庫(実際には臨時の造船所)は、オルフェスの中でも特に重要な施設のひとつと言える。
 本来であれば、正規兵を何人も配置して厳重な守りを固めるはずだ。

 だが、せっかく倉庫に擬態してこっそりと船を建造しているのに、堂々と正規兵を配置しては目立ってしょうがない。
 ならば、正規兵をチンピラっぽい服装に仕立て上げて、倉庫前でウロチョロさせつつ警備させるというのは理にかなっている。
 そう思ったのだが――

(いや、それも違うな。あいつの視線は、倉庫内に向いている)

 仮に彼の正体が『ネルエラ陛下の命により隠密小型船を建造中の倉庫の人間』であり、『チンピラのフリをして警備の任務にあたっている』のであれば、その視線や意識は外側に向けられるはずだ。
 しかし実際には、彼の視線は内側に向けられている。
 となると、答えはひとつだ。

(オルフェスにはマフィアがはびこっているのだったな……。何らかの金の匂いを嗅ぎ取って、あの倉庫の内情を探っているといったところか……)

 ある意味では正解だ。
 ネルエラ陛下の命によって隠密小型船を建造しているのだから、当然それ相応の金は動いている。
 マフィアが上手く入り込めば、それなりの利益を上げることができるだろう。
 あるいは、単純に資材や隠密小型船そのものを盗み出すことも可能だ。

(やれやれ……面倒なことになった)

 正直言って関わり合いたくない連中だ。
 できればこのまま回れ右したいところだったが、そういうわけにもいかない。
 隠密小型船が無事に完成しているかどうか、この目で見ないといけないからな。

 完成しているのであれば、次の段階に進める。
 すなわち、どこか機密性の高い場所を探して転移魔法陣を作成し、ミリオンズの残りメンバーをこの街に集めてくるのだ。
 逆に言えば、隠密小型船の完成を確認できていない内は、残メンバーを招集するのは時期尚早ということになる。

(あのチンピラをボコって排除することは簡単だが……。そういうわけにもいかないよな)

 表立って警備していないだけで、あの倉庫の内部には多少の戦力が存在するはずだ。
 にもかかわらず、なぜ鬱陶しいチンピラを放置しているのか?
 それはもちろん、無用に目立ってしまうからだろう。

 たかが倉庫が大きな戦力を保有しているとバレたら、いよいよあの倉庫に何かがあると確信されることになる。
 そうなれば、マフィアにとっても『チンピラ1人に探らせる』という様子見の段階を終え、本格的に手を出し始めるだろう。
 それが分かっているからこそ、倉庫側は敢えてチンピラを放置しているのだ。

 当然、俺がチンピラに手を出すことも避けた方がいい。
 貧相な男がチンピラをボコボコにするというだけでも目立つ上、その貧相な男がその後に倉庫に入っていったとなれば、やはりマフィアに目をつけられてしまうことになるからだ。

(さて、どうするか。……ん? 彼は……)

 俺はそこで、倉庫の方向に向かって歩く一人の男性に気が付いた。
 このあたりは港の端なので、人通りは少ない。
 さらに言えば、彼の服には王家の裏紋章が刻まれている。

(倉庫の職員か? チンピラと諍いでも起こしそうだが……。そのスキに素早く倉庫へ入ってみるか?)

 俺はそんなことを考える。
 悪くない案だとは思う。

 だが、強いて言えば少しばかりの問題もある。
 倉庫に鍵が掛かっていたり、内部に入った直後に侵入者として剣を向けられたりするリスクがあるのだ。
 少し話して俺の正体を明かせば問題ないだろうが、その少しばかりの時間と騒ぎでチンピラに目を付けられる可能性も否定できない。
 もっと良い侵入方法は――

(よし、この魔法を使ってみるか……)

 俺はある魔法を行使することにした。
 そして、倉庫に向かって歩いて行く倉庫職員の男へ静かに近寄っていくのだった。

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