【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

980話 昨晩はお楽しみだったようだね?

 翌朝――。

「ふふ、昨晩はお楽しみだったようだね?」

 宿屋の店員にそんなことを言われてしまった。
 どうやら、声が漏れてたらしい……。
 いや、うん……仕方ないだろ?
 2人の美少女と一緒に一夜を明かしたんだから……。

「まぁね。おかげでぐっすり眠れましたよ」

 ここは正直に答えておくことにする。
 下手に隠して詮索されても面倒だしな。

「へへっ。一晩で二人も相手するなんてやるじゃないか! 見かけによらず性豪なんだな!」

「……別にそういうわけでもないんですけどね」

 苦笑しつつ、そう返す。
 とはいえ、客観的に見ればそうなるのか……?

「謙遜すんなって! ここは安宿だけど、防音には気を遣ってんだ! 普通の声量じゃ、聞こえないはずなんだよ。それなのにお嬢ちゃんたち二人の声が聞こえたってことは、相当――」

「すみません、そこまでにしておいてもらえますか」

 俺は慌てて彼の話を遮り、強引に話題を変えることにした。
 このセクハラ親父め。
 モニカとニムが顔真っ赤にしてるじゃないか。
 戦闘能力が高い彼女たちは、度胸もある。
 しかし、こうしたセクハラには慣れていないのだ。

「おっと、すまなかったな! いずれにせよ、くつろげたのなら何よりだ。少し割引きしてやるよ! 今度来るときにもぜひ泊まってくれよな!」

 そんなやり取りをしつつ、俺たちは会計を済ませる。
 そして、宿屋を出ようとするが――

「ああ、そうそう。昨日も言ったけど、この街にもオルフェスのマフィアが手を伸ばし始めているんだ。気をつけておくんだよ」

 店員に再度注意された。

「忠告ありがとうございます。気をつけることにしますよ」

 俺は店員に礼を言って、その場を後にした。
 その後、俺は街の中を歩いていき、とある建物の前で立ち止まる。

 そこは馬車の停留所だった。
 一般人が馬車で移動したいときは、こうした施設で馬車を探すのである。

「ここを利用するのは初めてだな……」

 領主である俺は、自前の馬車を持っている。
 普段はもちろんそれを利用する。
 また、馬車を持っていなかったとしても、冒険者には他に移動手段がある。
 行商人や隊商の護衛依頼などを受注すれば、実績を積みつつ移動ができるのだ。

 しかし、今回は事情が異なる。
 今回の旅路においては、あまり目立つ行動をしたくない。
 そこで、一般人が利用するような交通機関を使うことにしたというわけだ。

「さてと。オルフェス行きの馬車はあるかな……?」

 俺が停留所の中を見渡すと――

(おっ!?)

 ちょうど、そろそろ出発しそうな幌付きの荷馬車が目に入った。
 乗客らしき者たちが何人かいるものの、まだ席は空いているように見える。
 これ幸いとばかりに、そこに近づいていく。

「――すみません、この馬車ってどこまで行きますか?」

 御者に尋ねてみる。

「あぁ? なんだお前……? 行き先を聞いてどうする気だよ?」

 いきなり現れた俺に不信感を抱いたのか、彼は怪訝そうな顔をする。
 それにしても、無愛想な男だ。

「いえ、せっかくなので乗ってみようかと思いまして」

「ふん。これはオルフェス行きだが……」

「ならばぜひ俺たちを――」

「あいにくだけどよ、もう満員なんだよ」

 そう言って、御者は首を横に振る。
 満員なら仕方ないか……。
 しかし、見た感じ空席はまだいくつかあるように見える。

「あの、それならあそこの席とか空いてますよね?」

 俺は指差して尋ねる。
 そこには誰も座っていないように見えたからだ。

「あれは予約済みなんだ。おら! 分かったらとっとと失せな!」

 断られてしまった。
 ……やれやれだな。
 ここまで乱雑にあしらわれると思っていなかった。
 思わずため息が出そうになるが、グッと堪える。

 俺から男爵やBランク冒険者の地位を取り除けば、こんなものだ。
 服装も粗雑なものを敢えて着ているし、見た目や雰囲気から舐められても仕方がないだろう。
 上手く一般人に溶け込めていると、前向きに捉えることにしようじゃないか。

「……分かりました。お忙しい中すみませんでした」

 俺は一礼する。
 馬車は何もこの一台だけではないので、他のものに乗ればいいだけの話だ。
 とりあえず、次の便が来るまで待つとしよう。
 そう思って踵を返すと、不意に声をかけられた。

「おい兄ちゃん、待ちなよ」

 振り返ると、そこにいたのはいかにもガラの悪い男だった。
 歳は40代くらいだろうか?
 無精髭を生やしており、やや小太り気味で薄汚れた格好をしている。

 身なりだけ見ればただのチンピラだが……こいつは只者じゃないな。
 冒険者で言えば、Cランク以上の実力がありそうだ。
 腰に下げている剣はかなりの業物に見えるし、佇まいからも相当な実力者であることが窺える。

「はい? なんでしょうか?」

 内心警戒しつつも、平静を装って返事をする。
 すると男はニヤリと笑ってこう言った。

「お前、俺の席を奪おうとしてたんだろ? 御者とのやり取りを見てたぜ」

「……はぁ?」

 一瞬、何を言われているのか分からなかったが、すぐに理解する。
 先ほどの馬車にあった空き席。
 それは、このチンピラのための予約席だったらしい。

「人のモンを取ろうとするなんていい度胸じゃねぇか!」

「いえ、取ろうなんて滅相もない! ただ尋ねただけです」

 慌てて否定する俺。
 俺が本気を出せばワンパンで倒せるだろう。
 しかし、オルフェスへ到着して隠密小型船に乗り込むまでは、騒ぎを起こすわけにはいかない。
 穏便に済ませたい。
 だが、男はなおも詰め寄ってくるのだった。

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