【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

954話 回復速度

 リンドウ温泉旅館での昼下がり。
 タカシたちは、卓球もどきを楽しんでいる。
 アイリスvsフレンダの試合はアイリスが勝った。
 続くミティvsリッカの勝負は、当初リッカが優勢だった。
 しかしミティの必殺技『ミティ・ホームラン』が炸裂し、リッカは壁に磔状態になってしまった。

「だ、大逆転勝利だー!!」

 タカシが興奮してそう言う。
 その後リッカが『卓球に逆転ホームランはないです!』と言って復活するというようなこともなく、試合は終了となった。
 それはいいのだが――

「ね、ねぇ。どうするの~? これ……」

 フレンダが心配そうに言う。
 彼女の視線の先には、ひび割れた旅館の壁があった。
 そして、その中央あたりには磔にされているリッカの姿がある。
 建物被害としても人的被害としても、まさに大惨事といった有様だ。
 ただの余興の結果としては、いささかやりすぎてしまった感はある。

「うーん……どうしようかなぁ」

 タカシがそんなことを言っている間に、いつの間にか壁からリッカの姿が消えていた。
 どうやら自力で脱出したらしい。

(さすがは聖女様といったところかな?)

 彼は感心する。
 だが、当の本人はプルプル震えながら何とか立っている状態だ。

「はぁ……はぁ……」

「おい、リッカ。どうしたんだ? 壁に激突したぐらいでダメージを受けすぎだろ? お前らしくもない」

 タカシが声を掛ける。
 聖女リッカの戦闘能力は折り紙付きだ。
 聖気、治療魔法、纏装術、動体視力、空中浮遊、レイピア捌きなどなど……。
 それらを駆使した戦闘スタイルは華麗にして苛烈である。

 特筆するべきは、その耐久性にもある。
 タカシの『八百本桜』『炎魔煉獄覇』『フレアドライブ』『フィナーレ・フラッシュ』などを受けても、戦闘継続が可能だったのだ。
 そんな彼女が壁に激突した程度で負傷するなど、あり得ないことのように思えた。

(もしかしたら、体調でも悪いのかもしれないな……)

 タカシがそんなことを考えていると――

「し、しまったです……。聖気を使いすぎたです……!」

 そう呟くリッカの顔からは血の気が引いていた。
 タカシとミティが心配そうに近づく。

「大丈夫か? 顔色が悪いぞ?」

「申し訳ありません。少し力を入れすぎたかもしれません……」

 二人は心配そうな表情を見せる。
 そんな彼らに対して――

「あ、あんまり見るなです! 気遣い無用です!!」

 そう言いながら、リッカは顔を背けてしまう。
 彼女は聖女として、たくさんの無辜の民を救ってきた。
 しかし、自分に対して優しさを向けられることには慣れていないのだ。
 そのため、ついつい素直になれないような態度を取ってしまうのだった。

「とりあえず、治療魔法を掛けておこうか。――【リカバリー】」

 そんな彼女の心情を察してか、タカシは優しく治癒の魔法を掛けることにした。
 彼の手の平から放たれる柔らかな光が、リッカの体を包むようにして広がっていく。
 しばらくすると、彼女の顔色は元に戻ったようだ。

「これでよしっと」

 満足そうに頷くタカシ。
 一方、リッカの方はというと、驚愕の表情を見せている。

「い、今のは……上級の治療魔法です!?」

 驚きのあまり大きな声を上げるリッカ。
 そんな彼女の反応を見て、今度はタカシたちが驚く番だった。

「えっ……? いや、これぐらい普通だろ?」

 困惑するタカシ。
 彼のチートスキル『ステータス操作』において、治療魔法をレベル4まで上げることで取得できる上級治療魔法が『リカバリー』だ。
 この魔法で、これまで数々の人々を彼は癒やしてきた。
 世間一般において、決してありふれた魔法ではないことぐらい理解している。

 しかし一方で、彼の目の前にいるのは聖女リッカなのだ。
 今この場にいる他の面々――ミティ、アイリス、フレンダにしたって、それぞれがBランク冒険者である。
 彼女たちクラスから見て、『リカバリー』は決して珍しいものではないはずなのだが――

「使えること自体には驚かないです……」

「だろ? なら、何に驚いているんだ?」

「お前の迂闊さに、です! この程度の遊びに上級治療魔法を使っていたら、MPがいくらあっても足りないですよ!!」

 怒鳴るように言うリッカ。
 そんな彼女に気圧されながらも、タカシは言う。

「いや、まぁ、そうなんだけどさ……」

 実際のところ、タカシからすればそこまで騒ぐほどのことではないと思っている。
 彼は『MP強化レベル4』『MP消費量減少レベル4』『MP回復速度強化レベル2』などのスキルを取得済みであり、これらのおかげで比較的低燃費かつ高効率で魔力運用ができるのである。
 そんな事情もあって、特に自重せずに治療魔法を連発していたわけだ。

「俺にとっては、これぐらい問題ない。昨晩に温泉を堪能して、すっかり回復したからな。ついでに、土魔法で壁を修復しておこう」

 タカシはそう説明し、さらなる魔法を発動する。
 実際には、彼が取得済みのパッシブスキルによって回復しているわけだが、それをわざわざ口にする必要はないだろうと判断したためだ。
 それに、リンドウ温泉にMPの回復効能があることも嘘ではない。

「なっ……!? そ、そんな馬鹿な……。あり得ない回復速度です……」

「いやいや、現に有り得ているだろ?」

 そんなタカシの説明を聞いてもなお、納得いかない様子のリッカ。

「むぅ……。何か隠している気がするです……。ミティ=バーヘイルにしたって、闘気の回復速度といい、腕力の高さといい異常です……」

 彼女が首を捻る。
 こうして、リンドウ卓球交流は進んでいったのだった。

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