【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

947話 緊急ミッション

 聖紋――。
 聖ミリアリア統一教の言い伝えによると、それは勇者と聖女が『誓いの儀式』を行った際に発現するものらしい。

「ひぃっ!? そ、その血走った目をこちらに向けるなです!」

 怯えた様子で後退りするリッカ。
 そんな彼女の姿を見て、タカシは思わず苦笑した。

(まるで小動物みたいだな)

 普段の尊大な態度からは想像できないほど怯えきっている彼女を見てそう思う。
 しかし同時に、嗜虐心をくすぐられるのも事実であった。

(いかんな……。このままでは俺の中の獣が目を覚ましてしまう……)

 慌てて自制を試みるタカシ。
 そんな彼の心中など露知らず、リッカは言う。

「な、なぜ近づいてくるですか! 怖いです!! あっちに行けです!!」

「そうは言ってもな……。お前も、そのまま放置というわけにはいかないだろ?」

「はぁ? なぜですか!」

 語気を強めて問うリッカ。
 そんな彼女に対して、タカシは言う。

「だってお前、両手で股を刺激してるじゃん……」

 そうなのだ。
 リッカは今現在、自分の秘所を刺激していたのだ。
 そのことを指摘され、顔を真っ赤にして叫ぶリッカ。

「こ、これは仕方がないのです!! なんだか、変な感じがしてくるです!! こんな状態で放っておく方がどうかしてるのです!!!」

 もはや逆ギレと言っていいような言い訳だった。
 だが、彼女を責めるのも酷というものだ。

 通常の『誓いの儀式』では、女性の右手の甲に男性がキスをする。
 それが一定の条件を満たす者同士であった場合は、キスをした箇所に聖紋が刻まれる。
 聖ミリアリア統一教の伝承に残っている聖女についても、当然右手の甲に聖紋が発現した。

 だが、リッカの場合はタカシによって一風変わった場所にキスされてしまった。
 そのため、聖紋はリッカの下腹部に刻まれてしまったのである。
 それが妙な作用を起こし、彼女は発情しているわけだ。
 つまり、聖紋ならぬ性紋――あるいは淫紋と言ってしまってもいい。
 タカシは、そんな彼女を宥める。

「落ち着けって。別に変なことじゃないさ」

「ふ、ふん……!」

「それはな。自慰と言って、とても気持ちがいいことなんだ」

「じ、じい?」

 聞き慣れない言葉に首を傾げるリッカ。
 そんな彼女に、タカシは説明をする。

「人間は誰でも性欲を持っている。だが、なかなか理想的な異性と出会えない者もいる。そこで、欲望を解消するために行う行為が『自慰』と呼ばれるものなんだ」

「なっ……!? ぼ、僕様ちゃんが欲望を……? そ、そんなわけあるはずないです!!!」

 顔を真っ赤に染め、首をブンブンと横に振るリッカ。
 そんな彼女の反応を見たあと、タカシはさらに言葉を続ける。

「まぁ聞けよ。何も恥ずかしいことじゃないんだ」

「う、うるさいです!! もう喋らないでくださいです!!」

「いいか? 人間の三大欲求とは食欲・睡眠欲・そして性欲だと言われているんだ。これらは生きていく上で必要不可欠なもので、どれか一つでも欠けると生存が難しくなってしまうこともあるんだぞ」

「……そうなのですか? いや、確かに言われてみればその通りなのです……」

 少し落ち着いた様子を見せたリッカ。
 そんな彼女にさらに説明を続けるタカシ。

「だから恥ずかしがることはないんだ。むしろ、健全な証拠だとも言える」

「……そうなのかもなのです」

 完全に納得した様子ではないものの、一応納得するリッカ。
 そんな彼女に、タカシは尋ねる。

「ところで、そろそろ続きをしてもいいか?」

「続き……?」

 キョトンとした表情で聞き返すリッカ。
 そんな彼女を安心させるように笑いかけた後、タカシは言った。

「ああ、そうだ! 俺のオシベを、お前のメシベにドッキングさせるんだよ!」

「へ……? はい……?」

 性的な知識に乏しいリッカにとって、その意味を理解するのは困難を極めたようだった。
 だが、体の方の準備はできている。
 いや、できてしまっていると言った方が正確か。
 いずれにせよ、聖女リッカの貞操は最大のピンチを迎えていた。
 そのときだった。

「――むっ!?」

 タカシが視界の隅に何かを発見する。
 それは、新しいミッションを通知するものだった。


ミッション(緊急)
聖女リッカの貞操を2週間保全せよ。
報酬:スキルポイント30(本人のみ)


(…………は? バカな……。このタイミングで来るのか……!)

 予想外の事態を前に、内心で激しく動揺するタカシ。
 そんな彼の内心を知る由もなく、彼の股間を凝視しているリッカ。

「お、おい……。どうしたです?」

 不安げに呼びかける彼女に答える余裕もないタカシ。
 彼は必死に考えていた。

(どうする? 聖女様に手を出す機会なんて、今後二度とないかもしれないぞ? だが、ミッションに逆らうのも怖い……)

 タカシの中で二つの選択肢が浮かぶ。
 片方は、『据え膳食わぬは男の恥』というもので、『ヤラずに後悔するより、ヤッてから後悔しろ』という考え方である。
 もう片方は、『ミッションを出してくる超常の存在の意向を重視し、聖女リッカに手を出さない』という方針である。

(クソっ!! やられた!!! 一体どうすればいいんだ!!!!!)

 心の中で絶叫しながら頭を抱えるタカシ。
 彼は、ミッションについてかつてないほど悩んだ。
 悩み抜いた。
 そんな彼に声を掛ける者がいた。

「タカシ様……?」

「タカシ、何かあったの?」

 声のした方を向くと、そこにはミティとアイリスがいた。
 彼女たちは心配そうな表情でこちらを見つめている。

(そうだ! 俺には愛する妻たちがいるじゃないか!!)

 リスクの高い聖女様に手を出さずとも、彼の劣情を受け止めてくれる大切な者たちが存在する。
 それに、ミッションを達成することによって得られるスキルポイントがあれば、世界滅亡の危機を回避できる確率が増す。
 それは愛する妻やその子どもたちの幸せな未来を守ることにも繋がる。

「…………」

「おい? やるなら、早くやりやがれです」

「いや、やめておこう。今回は見送らせてもらう」

 きっぱりと言い切るタカシ。
 そんな彼に対して、リッカは食ってかかるように言った。

「ど、どうしてです!? ここまでしておいて……」

「何事にも段階があると思うんだ。俺たちにそういうのはまだ早い」

 しれっとそんなことを言うタカシ。
 いきなりまともなことを言い出した彼に対して、リッカは怪訝に思う。

「そうだ、せっかくだし、この旅館でゆっくりしていかないか? タカシ=ハイブリッジ男爵の名において、丁重にもてなしてやるよ」

「……はぁ。まぁいいです。昨日は君のせいで聖気を大量に消耗したことですし、ありがたく休ませてもらうことにするです」

 こうして、タカシとリッカの『風呂場でバッタリ事件』は幕を閉じたのだった。

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