【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

939話 冥府でもご一緒させてくださいませ

 ――『勇者候補』タカシvs『聖女』リッカ。
 その戦いは、リッカの勝利に終わった。
 意識を失ったタカシに、アイリスとミティが駆け寄る。

「タカシ! ああ、なんてことに……」

「タカシ様ぁ!!!」

 2人はボロボロになった彼の姿を見て涙を流していた。

「……これで終わったです。思っていたよりも強くて、手こずったですがね」

 そんな2人とは対照的に、リッカは涼しい顔で佇んでいる。
 彼女にしてみれば、やるべきことをやったとしか考えていないのだろう。

「――【リカバリー】!」

 アイリスが上級治癒魔法を唱える。
 緑色の光がタカシを包み込む。
 しかし――タカシが起き上がることはなかった。

「そんな……どうして……!」

 アイリスが泣き崩れる。
 そんな彼女に、リッカが声をかける。

「無駄です。僕様ちゃんのとっておきの魔道具ですから。いくらアイリス=シルヴェスタの治療魔法が上達していようとも、タカシ=ハイブリッジが意識を取り戻すことはないです」

「……っ!」

 アイリスはキッとリッカを睨みつける。
 その瞳からは涙が溢れていた。

「どうして!! なんでこんなことをしたの!?」

「……」

 リッカは何も答えない。
 ただ静かに、そこに立っているだけだ。

「はああああぁっ!!」

 今度はミティがリッカに向けて剛腕を振るう。
 闘気と魔力を纏った一撃だ。
 しかしリッカはそれを難なく受け止める。

「くっ……!」

「無駄なことはやめるです。僕様ちゃんたちに、争う理由はないはずです」

「どの口が……! タカシ様の仇です!! 絶対に、絶対に許しません!!!」

 激昂するミティだったが、彼女の攻撃は全ていなされるか受け流されていた。
 素手の攻撃が通じないと判断したミティは、アイテムバッグから『大戦槌ウリエル』を取り出す。
 それを見たリッカが顔をしかめた。

「それはやめておくです」

 リッカの言葉を無視して、ミティは『大戦槌ウリエル』を振り下ろす。
 凄まじい威力の一撃だったが、それもリッカには通用しなかった。

「……やれやれですね。無闇な自然破壊は控えるべきです」

 リッカは小さくため息を吐く。
 ハンマーを受け止めた彼女の周囲には大きなクレーターが出来上がっていた。
 まるで隕石でも落ちたかのような光景である。
 しかし、当のリッカは全くの無傷だった。

「嘘……」

 ミティの顔が絶望に染まる。
 彼女は力なくその場に崩れ落ちた。

「まったく、手間をかけさせるですね。君には用がないと言っているのに、いちいち突っかかってくるなです」

 リッカはそう言うと、ミティから興味を失ったかのように視線を外した。

「申し訳ありません……。タカシ様……。仇は討てそうにありません……」

 ミティは完全に戦意を喪失している。
 涙ながらに謝罪の言葉を口にしていた。
 そして、アイテムバッグからナイフを取り出し、自分の首筋に当てる。

「せめて……。つまらぬ身ですが、冥府でもご一緒させてくださいませ……」

 彼女がそう言って自らの喉を掻き切ろうとした瞬間――

「待って! ミティ!」

 アイリスが叫んだ。
 彼女はミティのナイフを取り上げると、それを遠くに放り投げる。

「何をするんですか!? 私にはもう生きる意味がありません!!」

「ダメ! 残されたみんなはどうなるの! ミティにはミカちゃんだっているでしょ!!」

 アイリスが必死になって呼びかける。
 そんな2人の様子を見て、リッカが口を開いた。

「はぁ……。何をやってるですか? この程度のことで何を大騒ぎしているのやら……」

 呆れたように呟くリッカ。
 その言葉に強く反応したのは、やはりミティの方であった。

「『この程度』!? ふざけないでください!! あなたがタカシ様を殺したんですよ!?」

 ミティは涙をこぼしながら叫ぶ。
 そんなミティを見て、リッカは大きくため息をついた。

「だから、何の話です? 僕様ちゃんはタカシ=ハイブリッジを殺したりしていないです」

「「……え?」」

 ミティとアイリスが呆然とした表情を浮かべる。
 リッカの言葉が信じられないようだ。
 そんな彼女たちをよそに、リッカはさらに言葉を続ける。

「僕様ちゃんとタカシ=ハイブリッジの話を聞いていなかったです? 彼は『勇者候補』です。枢機卿のお気に入りを勝手に処分するなど、いくら聖女の僕様ちゃんと言えども簡単にはできないですよ」

「でも……帰るか死ぬかの二択だとか言っていたじゃん……」

「その二択は、強い言葉で脅しただけです」

「トドメにはタカシ様の胸にナイフを突き立てて……」

「このナイフは魔道具ですよ。対象者の意識を奪う強力な効果があるです。そんじょそこらの上級治療魔法であっても、すぐに意識を取り戻させることはできないです。ちなみに刃に見える箇所は魔力で形成されていて、殺傷能力はないです」

「……」

「……」

 唖然とした表情のまま固まる2人。
 彼女たちを尻目に、リッカは再び口を開く。

「全ては、タカシ=ハイブリッジをラーグへと引き換えさせるためです。君たちにはヤマト連邦で果たすべき使命があるですから。殺すはずがないです」

 その言葉を聞いたミティは、ゆっくりと立ち上がった。
 そのままふらふらとした足取りで、倒れているタカシの元へと向かう。
 意識は失っているが、よく見れば呼吸しているし心臓も動いている。

「よかった……。よかったです……」

「うう……タカシ……」

 彼女たちは小さくそう呟いた後、大粒の涙を流したのだった。

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