【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

937話 聖女からは逃げられない

 俺は『フィナーレ・フラッシュ』をぶっ放した。
 聖女リッカは大ダメージを受けている。

「どうした? もう終わりか?」

「う、うう……」

「はっはっは! 口ほどにもないな! 聖女だかなんだかしらんが、所詮は子どもだ!!」

「く、くそぉ……です……」

「この俺、タカシ=ハイブリッジこそが勝者だ! Bランク冒険者にして、サザリアナ王国の男爵家の当主でもある! 俺に楯突いたのが間違いだったのだ! ふはははは!!!」

 俺は高笑いをする。
 これで勝利確定だ。
 やはりチートを持っている俺に勝てる存在など、世界のどこにもいない。

「…………」

「……ん?」

 すると突然、リッカが俯いて沈黙してしまった。
 なんだ……?
 もしかして、怖すぎて泣いちゃったのか……?

「おい、なんとか言ったら――」

「なんちゃって、です。ふふっ」

「!?」

 思わず絶句する。
 リッカの顔が不気味に歪んでいたからだ。

「ふふふっ、あはははっ!! あーっはっはっは!!!」

「な、なんだ!?」

「すごいです! すごいです! すごいです! これがタカシ=ハイブリッジの実力ですか! 素晴らしいです! あはっ、あははっ!!」

 リッカが狂ったように笑っている。
 俺は彼女から距離を取る。

「お前、一体何がおかしいんだよ……」

「あはっ、あははっ! 君がおかしくさせたんですよ! 僕様ちゃんをここまで追い詰めた人間は、これまで一人もいなかったです! 君は間違いなく強い! だからこそ、ここで敗北の味を覚えておくといいです!!」

「なにを言ってるんだお前は……。その傷でまだ戦うつもりか?」

「――【リペア・ライフ】」

 リッカが魔法を唱える。
 彼女の身体が淡い光に包まれたかと思うと、その身体にあった火傷が一瞬のうちに完治する。

「なっ!?」

「僕様ちゃんは聖女ですよ? 当然、上級の治療魔法も使えるです」

「……ちっ」

 お互いに治療魔法を使えるから、互角か。
 これは持久戦になる。

 ――いいや、違う。
 俺は今の『フィナーレ・フラッシュ』でかなりのMP・闘気・聖気を消費してしまった。
 対して、リッカの消耗度はそれほどでもなさそうだ。
 これはマズイかもしれない……。

「くっ……。まだだ! 【エターナル・タカシ・フィーバー】!!」

 俺は再度魔法を発動させる。
 フレンダからはボツを喰らったが、今はなりふり構っていられない。
 リッカを倒せる可能性があるのはこの魔法だけだ!

「【ホーリー・クロス】!!」

 リッカが聖気を十字架状に変えて飛ばしてくる。
 それは不十分な威力だった俺の魔法を切り裂き、そのまま俺へと着弾した。

「ぐあああっ!!」

「タカシ様!!」

「タカシ!!」

 俺は膝をつく。
 痛い……。
 苦しい……。

 これほどのダメージを負ったのはいつぶりだろう?
 チートにあぐらをかいて、自己研鑽を怠った結果がこれか……。
 先ほど発動しておいた『ハイ・リジェネレーション』によって何とか回復はしているが……。

「本当にタフな男ですね。戦闘不能に追い込むには、念入りに聖なる力を叩き込まなければならないようです」

 リッカがゆっくりと近づいてくる。
 俺は必死に立ち上がろうとするが、上手く力が入らない。
 くそっ、なんでだよ……。
 なんでこんなに弱いんだ、俺は……!

「さぁ、とどめです。気を楽にするです」

「くそっ……」

「タカシ様! お逃げください!」

「相手が悪すぎるよ! 逃げて!!」

 ミティとアイリスの声が聞こえる。
 逃げる?
 彼女たちを置いて逃げるわけにはいかない。

 ……いや、待てよ?
 リッカの口ぶりでは、最も重視しているのはミティやアイリスではなく、俺だ。
 ならば、逃亡も一つの選択と言えるのではないか?
 俺は考える。
 そして結論を出す。

「ふ、ふはは! あばよっ!!」

 俺は重力魔法『レビテーション』を使い、その場から離れる。

「なっ!?」

 驚くリッカ。
 俺は全力で空へ舞い上がる。
 そして、その場から高速飛翔で逃げ出した。

「ふん……。パワーや耐久力がリッカなら、スピードは俺だ! 一生かけても追いつけまい!!」

 俺は振り返らずに前だけを見て飛ぶ。
 背後から追いかけてくる気配はない。

 勝った……!
 逃げるが勝ちというやつだ。
 置いてきたミティやアイリスとは、後で慎重に合流すればいい。
 こうして、俺はリッカとの勝負に勝利することができ――

「おやおや。また会ったですね、タカシ=ハイブリッジ君」

「なっ……!」

 俺の目の前に、リッカがいた。
 彼女は宙に浮かびながら、悠然と微笑んでいる。

「ど、どうして……」

「知らなかったです? 聖女からは逃げられないです」

「……」

 どこの大魔王だよ。
 聖女どころかラスボスじゃねぇか。

「ふふふっ。君がどこに行こうが関係ないです。僕様ちゃんにかかれば追いつくことなど造作もないことです。むしろ、この程度で僕様ちゃんを出し抜けると思っていたなんて、ちょっと甘く見過ぎではないです?」

「うっ……」

 聖ミリアリア統一教会の聖女リッカ。
 確かに舐めていたかもしれない。
 そこらのBランクやCランクの冒険者などとは比較にすらならない。
 Aランク冒険者以上の力を持っていると想定しておくべきだった。
 しかし、まさか空を飛ぶ俺に追いついてくるとは。

「仲間を置いていくなんて、君はひどい奴です。ほら、さっきの場所に戻るですよ」

「ぐおっ!?」

 俺は彼女に殴り飛ばさる。
 そのまま地面に叩きつけられ、ゴロゴロと転がった。

「タカシ様!?」

「タカシ!?」

 ミティとアイリスの声が聞こえる。
 リッカの言葉通り、さっきの場所に戻ってきたようだ。
 仕切り直しだが……。
 もう打つ手がない。

 ――いや、まだだ。
 俺には『ハイ・リジェネレーション』を始めとする治療魔法があるし、土魔法『絶対無敵装甲』を始めとした防御手段も持っている。
 こうなれば、粘るだけ粘るしかない……。

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