【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

933話 優しすぎる

 アイリスとリッカの問答は終わった。
 勝手に聖女を名乗っていたアイリスに罰を与えに来たようだが、この場での処断はなくなった。
 これにて一件落着かと思ったのだが、そう簡単にはいかないらしい。
 リッカは俺に視線を向けてくる。

「さて、次の案件に移るです。タカシ=ハイブリッジ、君には二つの選択肢が用意されているです」

「なんだと?」

「一つは、このまま古代遺跡を引き返し、ラーグの街に帰ること。もう一つは、この場で死ぬことです」

「ちょ、ちょっと待ってよ! どうしてタカシが死ななきゃいけないのさ!?」

 アイリスが必死の形相で抗議してくれる。
 だが、そんなアイリスに対して、聖女リッカは冷徹な態度を崩さない。

「僕様ちゃんにタメ口です? アイリス=シルヴェスタはずいぶんと偉くなったですね」

「うっ!?」

 リッカに睨まれ、アイリスがひるむ。

「……まあいいです。どちらにせよ、アイリス=シルヴェスタには関係のない話です。黙っていてくださいです」

「くっ……」

 アイリスが押し黙る。
 彼女は悔しそうに唇を噛みしめていた。
 強い精神力を持つ彼女だが、リッカの威圧感に呑まれてしまっている。
 この場に限って言えば、彼女は戦力外かもしれない。

「それって、選択の余地があるのか? 死ぬなんて嫌に決まっているだろう」

「そうです。タカシ=ハイブリッジは死にたくないに決まっています」

「ならばラーグの街に帰るさ。だが、その前に少しぐらいこの地域を調べさせてくれてもいいんじゃないか?」

 俺は努めて冷静に話す。
 ここで感情的になっても意味がない。
 慎重にいかなくては。

「ダメです。君はもう帰る以外の道はないです」

「なぜ?」

「……君は惑いやすい性格をしているです。良く言えば優しく、目の前で困っている人を放っておけないタイプです。でも、同時に危険な存在でもあるです」

「どういう意味だ?」

「言葉通りの意味です。君は優しすぎるです。優しすぎる者は、いつか身を滅ぼすです。……それが一平民の末路であれば、僕様ちゃんがとやかく言うことはないです。でも……」

「でも?」

「君は『勇者候補』です。やがて来る世界滅亡の危機に備えなくてはならないです」

「――っ!?」

 リッカが口にした『世界滅亡』という単語を聞いた瞬間、俺は思わず息を飲む。
 しかし、聖女リッカは俺の反応など気にせず、淡々と話を続ける。

「君にはやるべきことがあるはずです。こんな砂漠地帯で油を売っている場合じゃないです。早くヤマト連邦に向かうべきです」

「……リッカ、お前はいったいどこまで知っているんだ……?」

 世界滅亡に加えて、ヤマト連邦の件まで把握しているとは。
 俺は驚きを隠すことができない。

「僕様ちゃんがどこまで知っているかなど、問題ではないです。君はとにかくヤマト連邦の件を片付けろです」

「……まぁ、そういうことなら特に問題はないな。どこからそれを知ったのかは知らないが、確かに俺たちはヤマト連邦に向かうつもりだ。準備も進めている。古代遺跡を探索したり、この砂漠地帯の情報を集めようとしたりしているのは、あくまで出発前にできる仕事をしているだけだ」

「……」

「俺が不在の間には、配下の者たちに仕事を任せる予定なんだ。できる限り良い状態で仕事を引き継ぎたいと思うのは自然だろ? ちょっとだけ探索したら、すぐに帰るからさ。先っちょだけ、先っちょだけなんだ。――【レビテーション】」

 最初は得体の知れない相手だと感じたリッカだったが、意外に話が通じるように感じた。
 その油断から、俺はうっかり了承を得ずに魔法を使ってしまった。
 それがマズかった。

「ダメと言っているです」

「ぐはっ!?」

 聖女リッカは、重力魔法で浮こうとしている俺の上に回り込んで攻撃してきた。
 ……この幼女、見かけによらずめちゃくちゃ力が強いぞ。
 しかも速い。
 俺は地面に叩きつけられてしまう。

「君は優しすぎる人間です。大局が見れない人間です。砂漠地帯に足を踏み入れたが最後、ヤマト連邦のことはそっちのけで、この地域に残り続けるに決まっているです」

「い、痛てぇ……。くそっ!」

 結構な大ダメージを受けてしまった。
 聖ミリアリア統一教の『聖女』の名は伊達ではないな。
 かなり強い。

「タカシ様に何をするのですか!!」

 ダメージを受けた俺を見て、ずっと静観していたミティがリッカに襲いかかる。
 彼女の剛力によるハンマー攻撃。
 まともに決まれば大抵の相手は沈むが……。

「ミティ=バーヘイル……。君には特に用がないです。大人しくしていろです」

「うっ!? うわああああぁっ!!!」

 リッカの強烈なパンチを喰らったミティは、弾き飛ばされてしまった。
 その光景を見て、俺は頭に血が上ってしまう。

「ミティ! くそっ!! リッカ、貴様ぁああっ!!!」

 ミティがこれぐらいで重傷を負うことはないだろう。
 ただ、愛する妻が殴り飛ばされて黙っているつもりもない。

「君の怒りはもっともです。ですが、それは君の弱さが原因なのです」

「何だと!?」

「怒りは判断を鈍らせるです。君はもっと強くならないとダメです」

「うるせえ! 【八百本桜】ぁ!!!」

 俺は800発のファイアーボールを生成し、リッカに向けて放つ。
 ドドドドド!
 火球が次々に着弾し、周囲が煙で覆われる。

「やったか!?」

「甘いです」

 聖女リッカは無傷だった。
 光の結界で、俺の攻撃をあっさりと防いでしまったようである。

「くっ……」

「今の技には驚かされたです。とんでもない詠唱速度と連射性能だったです。タカシ=ハイブリッジは魔法のスペシャリストという情報があったですが、まさかここまでとは思わなかったです。……でも、それだけです。君はまだまだ未熟です」

「まだだ! アイリスを怯えさせたこと、そしてミティを殴ったことを後悔させてやる……!!」

 あとで思えば、俺はここで大人しく帰っていれば良かったかもしれない。
 だが、ここ最近は無敗で調子に乗っていた俺は、怒りのままに聖女リッカへ勝負を挑んでしまうのだった。

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