【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
932話 聖女
古代遺跡の長い一本道を進んだ先は、広大な砂漠が広がっていた。
いつの間にか山脈を超えてしまった可能性が高い。
周囲の状況を確認してみようとした俺の耳に、幼い少女の声が届く。
「まさか、本当にここまで来てしまうとは……です。あれほど複雑かつ深い遺跡で、よりによってこの道を選ぶなんて凄まじい悪運です。いえ、これも一種の運命ですか……」
声のする方に目を向ける。
そこにいたのは、白い神官服に身を包んだ幼女の姿があった。
「お前は……」
「はじめましてです。僕様ちゃんはリッカ。神に仕える者です」
「……」
リッカと名乗る幼女の物言いに、俺は戸惑っていた。
見た目は10歳前後だろうか?
本来ならば愛らしい存在だ。
しかし、その空気は異質。
まるで、何十年も修羅場をくぐって来たかのような貫禄を感じさせるのだ。
「リッカ……。君は何者なんだ?」
「その質問に答える必要はあるです? アイリス=シルヴェスタ……。君なら、僕様ちゃんのことを知っているはずです」
「なに? ……知っているのか? アイリス」
リッカの言葉を受け、俺はアイリスに聞く。
困ったときのアイリスだ。
聖ミリアリア統一教の武闘神官として、各地を回ってきたアイリス。
そのアイリスならば、この子について何か知っている可能性はある。
だが、しばらく待っても彼女からの返答はなかった。
「アイリス?」
「あ……あ……うぅ……」
「おい、アイリス?」
様子がおかしい。
顔色が悪いし、呼吸が荒い。
「くっ……。リッカ! アイリスに何をした!」
俺はそう叫ぶ。
この状況で考えられることは一つしかない。
アイリスが苦しんでいる原因は、目の前にいるこの幼女に違いない。
「別に何もしてないですよ。アイリス=シルヴェスタが勝手にビビっているだけです」
「ビビっている……? アイリスが?」
にわかには信じられない。
アイリスは向上心に満ちたボーイッシュな武闘家だ。
俺と初めて出会った頃に参加したガルハード杯での結果こそ振るわなかったものの、その後も堅実に活動してきた。
弱きを助け、強きを挫く。
彼女ほど立派な者はそういない。
そして、精神力も強い方だと思う。
「あ……あ……ひぃ……」
しかし実際に、アイリスはガクガクと震えてしまっている。
先ほどの俺の問いかけにも、まともに答えてくれていない。
「全く嘆かわしいことです。それでも武闘神官です? もっとしっかりしてほしいものです。仮にも『聖女』を名乗っているのですから」
リッカが『聖女』という言葉を口にした瞬間、アイリスの表情が凍り付いた。
「……アイリス?」
「ふむ。一応は自覚しているようです? 骨の髄まで腐りきっているわけではなさそうです」
「一体なんの話をしているんだ? アイリスが腐っているわけがないだろう!」
俺は思わず語気を強める。
すると、アイリスがハッとしたような顔をした。
そして、そのまま深呼吸をすると、いつもの様子に戻る。
「……ごめんね、タカシ。ちょっと取り乱していたかも……」
「大丈夫なのか?」
「うん、なんとか……。それよりも、逃げた方がいい……。だって、彼女は――ぐっ!?」
アイリスがそこまで言ったところで、言葉が途絶える。
彼女に急接近したリッカが、その小さな手で彼女を殴り飛ばしたからだ。
「なっ!?」
速い。
俺やアイリスでもまともに反応できなかった。
「いきなりなにをするんだッ!!」
俺はリッカを睨みつける。
しかし、そんな俺に対してリッカは呆れたように溜息をつく。
「やれやれです。タカシ=ハイブリッジ君は事の重大さを理解しているです? アイリス=シルヴェスタは聖ミリアリア統一教の助祭に過ぎないです。その意味するところは分かるです?」
「意味だと?」
俺はアイリスの方を見る。
彼女は地面に倒れ伏したまま動かない。
「どういうことだ? アイリスは何も悪いことなどしていないじゃないか! 彼女ほど立派な者はいないぞ! 街では『武闘聖女』の二つ名で知られて――」
「それこそが問題です。聖女……それは聖ミリアリア統一教会の中でも最上位に位置する称号の一つ。アイリス=シルヴェスタはその資格を満たしていないです」
「…………」
俺は沈黙する。
確かにアイリスの『武闘聖女』という二つ名について、聖ミリアリア統一教会は関与していない。
あれは、ディルム子爵領の民衆の間で自然発生的に広まり、その後冒険者ギルドから二つ名として認定されたものだ。
アイリスは教会の公認を得たわけではない。
彼女の話では、正式な認可を得るためには実績を積んだ上で教会上層部による試験を受ける必要があると言っていたような気がする。
「う……げほ……」
俺の思考は、咳込みながら起き上がったアイリスの声によって中断される。
どうやら無事だったようだ。
「ほう? 思ったよりも実力を付けているようです。僕様ちゃんのパンチを喰らってまだ意識があるとは驚きです」
「……あの、聖女リッカ様。弁明の機会を与えてはもらえませんか?」
「いいでしょう。言ってみろです」
アイリスの言葉を受けて、リッカは意外にもあっさりと了承の意を示した。
アイリスの丁寧語はとても珍しい。
それだけ、リッカという幼女の立場が上なのだろうか?
いや待て。
今、『聖女』リッカって言ったか?
「ありがとうございます。まず、ボクに『武闘聖女』を名乗るつもりはありませんでした。ボクはただの武闘神官でありたかったんです」
「ふん……です。今更そんなことを言われてももう遅いです。聖ミリアリア統一教会における『聖女』の名を貶めた罪は重いです。本来であれば極刑に値する重罪です」
「そ、そんな……」
「ですが、チャンスを上げるです。思っていたよりも実力が上がっていたですから、特別です。……数年度に聖女選別の試験があるです。それに合格すれば、今回の件は不問にしてやるです」
「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」
「勘違いしないでほしいです。これは慈悲ではなく、試練です。もしも合格できなければ、その時は覚悟しておくといいです。……次は容赦ないです。『聖女』リッカの名において、君を処断するです」
「は、はい」
「よろしいです」
アイリスがいきなり殴られたときはどうなるかと思ったが……。
その後は話し合いで解決できたな。
良かった良かった。
「……さて、簡単な方の用事は終わったです。残るもう一つの方は――」
聖女リッカはそう言うと、冷たい視線を俺に向けたのだった。
いつの間にか山脈を超えてしまった可能性が高い。
周囲の状況を確認してみようとした俺の耳に、幼い少女の声が届く。
「まさか、本当にここまで来てしまうとは……です。あれほど複雑かつ深い遺跡で、よりによってこの道を選ぶなんて凄まじい悪運です。いえ、これも一種の運命ですか……」
声のする方に目を向ける。
そこにいたのは、白い神官服に身を包んだ幼女の姿があった。
「お前は……」
「はじめましてです。僕様ちゃんはリッカ。神に仕える者です」
「……」
リッカと名乗る幼女の物言いに、俺は戸惑っていた。
見た目は10歳前後だろうか?
本来ならば愛らしい存在だ。
しかし、その空気は異質。
まるで、何十年も修羅場をくぐって来たかのような貫禄を感じさせるのだ。
「リッカ……。君は何者なんだ?」
「その質問に答える必要はあるです? アイリス=シルヴェスタ……。君なら、僕様ちゃんのことを知っているはずです」
「なに? ……知っているのか? アイリス」
リッカの言葉を受け、俺はアイリスに聞く。
困ったときのアイリスだ。
聖ミリアリア統一教の武闘神官として、各地を回ってきたアイリス。
そのアイリスならば、この子について何か知っている可能性はある。
だが、しばらく待っても彼女からの返答はなかった。
「アイリス?」
「あ……あ……うぅ……」
「おい、アイリス?」
様子がおかしい。
顔色が悪いし、呼吸が荒い。
「くっ……。リッカ! アイリスに何をした!」
俺はそう叫ぶ。
この状況で考えられることは一つしかない。
アイリスが苦しんでいる原因は、目の前にいるこの幼女に違いない。
「別に何もしてないですよ。アイリス=シルヴェスタが勝手にビビっているだけです」
「ビビっている……? アイリスが?」
にわかには信じられない。
アイリスは向上心に満ちたボーイッシュな武闘家だ。
俺と初めて出会った頃に参加したガルハード杯での結果こそ振るわなかったものの、その後も堅実に活動してきた。
弱きを助け、強きを挫く。
彼女ほど立派な者はそういない。
そして、精神力も強い方だと思う。
「あ……あ……ひぃ……」
しかし実際に、アイリスはガクガクと震えてしまっている。
先ほどの俺の問いかけにも、まともに答えてくれていない。
「全く嘆かわしいことです。それでも武闘神官です? もっとしっかりしてほしいものです。仮にも『聖女』を名乗っているのですから」
リッカが『聖女』という言葉を口にした瞬間、アイリスの表情が凍り付いた。
「……アイリス?」
「ふむ。一応は自覚しているようです? 骨の髄まで腐りきっているわけではなさそうです」
「一体なんの話をしているんだ? アイリスが腐っているわけがないだろう!」
俺は思わず語気を強める。
すると、アイリスがハッとしたような顔をした。
そして、そのまま深呼吸をすると、いつもの様子に戻る。
「……ごめんね、タカシ。ちょっと取り乱していたかも……」
「大丈夫なのか?」
「うん、なんとか……。それよりも、逃げた方がいい……。だって、彼女は――ぐっ!?」
アイリスがそこまで言ったところで、言葉が途絶える。
彼女に急接近したリッカが、その小さな手で彼女を殴り飛ばしたからだ。
「なっ!?」
速い。
俺やアイリスでもまともに反応できなかった。
「いきなりなにをするんだッ!!」
俺はリッカを睨みつける。
しかし、そんな俺に対してリッカは呆れたように溜息をつく。
「やれやれです。タカシ=ハイブリッジ君は事の重大さを理解しているです? アイリス=シルヴェスタは聖ミリアリア統一教の助祭に過ぎないです。その意味するところは分かるです?」
「意味だと?」
俺はアイリスの方を見る。
彼女は地面に倒れ伏したまま動かない。
「どういうことだ? アイリスは何も悪いことなどしていないじゃないか! 彼女ほど立派な者はいないぞ! 街では『武闘聖女』の二つ名で知られて――」
「それこそが問題です。聖女……それは聖ミリアリア統一教会の中でも最上位に位置する称号の一つ。アイリス=シルヴェスタはその資格を満たしていないです」
「…………」
俺は沈黙する。
確かにアイリスの『武闘聖女』という二つ名について、聖ミリアリア統一教会は関与していない。
あれは、ディルム子爵領の民衆の間で自然発生的に広まり、その後冒険者ギルドから二つ名として認定されたものだ。
アイリスは教会の公認を得たわけではない。
彼女の話では、正式な認可を得るためには実績を積んだ上で教会上層部による試験を受ける必要があると言っていたような気がする。
「う……げほ……」
俺の思考は、咳込みながら起き上がったアイリスの声によって中断される。
どうやら無事だったようだ。
「ほう? 思ったよりも実力を付けているようです。僕様ちゃんのパンチを喰らってまだ意識があるとは驚きです」
「……あの、聖女リッカ様。弁明の機会を与えてはもらえませんか?」
「いいでしょう。言ってみろです」
アイリスの言葉を受けて、リッカは意外にもあっさりと了承の意を示した。
アイリスの丁寧語はとても珍しい。
それだけ、リッカという幼女の立場が上なのだろうか?
いや待て。
今、『聖女』リッカって言ったか?
「ありがとうございます。まず、ボクに『武闘聖女』を名乗るつもりはありませんでした。ボクはただの武闘神官でありたかったんです」
「ふん……です。今更そんなことを言われてももう遅いです。聖ミリアリア統一教会における『聖女』の名を貶めた罪は重いです。本来であれば極刑に値する重罪です」
「そ、そんな……」
「ですが、チャンスを上げるです。思っていたよりも実力が上がっていたですから、特別です。……数年度に聖女選別の試験があるです。それに合格すれば、今回の件は不問にしてやるです」
「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」
「勘違いしないでほしいです。これは慈悲ではなく、試練です。もしも合格できなければ、その時は覚悟しておくといいです。……次は容赦ないです。『聖女』リッカの名において、君を処断するです」
「は、はい」
「よろしいです」
アイリスがいきなり殴られたときはどうなるかと思ったが……。
その後は話し合いで解決できたな。
良かった良かった。
「……さて、簡単な方の用事は終わったです。残るもう一つの方は――」
聖女リッカはそう言うと、冷たい視線を俺に向けたのだった。
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