【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

917話 僕様ちゃん

 ハイブリッジ男爵領東部にある小規模な村。
 ゴブリンの群れに囲まれて窮地に陥っていたのだが、Cランクパーティ『三日月の舞』が駆けつけてくれた。
 彼女たちの範囲攻撃魔法により、ゴブリンは数をどんどん減らしていく。

 Cランク冒険者にとって、ゴブリンは格下の相手だ。
 特に魔法使いであれば、遠距離から一方的に殲滅できる。
 今の彼女たちには雑談をする余裕さえあった。

「さてと。ゴブリンどもはこの程度っすかね」

「そうみたいだねー。かんたん、かんたんー」

「私たちの手にかかればこんなものよ」

 彼女たち『三日月の舞』が誇らしげに胸を張る。
 その時だった。

「ギギィ……。ギャウッ!!」

 まだ息のあったゴブリンが、最後の力を振り絞って立ち上がる。
 そして、近くにいたエレナに攻撃するべく、棍棒を振り上げた。

「えっ!?」

 油断していたエレナは咄嵯に動けない。
 ゴブリンの棍棒が彼女に振り下ろされていく。
 絶体絶命だ。

「ギッ……!?」

 しかし、その瞬間、エレナの前に誰かが立ち塞がった。
 ドゴッ!
 その人物は、ゴブリンの棍棒を”顔面”で受け止める。

「悪は成敗するです」

 そして懐のレイピアを取り出し、ゴブリンの首筋を突く。
 一瞬の出来事であった。
 ゴブリンは絶命し、倒れた。

「君たち、大丈夫です?」

 その人物――神官服を着た幼女は、エレナに向かって振り返った。
 見かけは完全な子どもなのだが、その雰囲気には不思議な威圧感があった。
 その瞳は、中に星が存在しているかのように輝いているように見える。

「あ、ありがとう……。私は無事だけど……」

「無事なら良かったです。僕様ちゃんがたまたま通りかかって幸運だったですね」

「あの……棍棒を顔に受けていたように見えたのだけど……。あなたにケガは……」

「問題ないです。僕様ちゃんはあの程度ではビクともしないですので。ほら、この通り無傷ですよ」

 幼女はエレナの前でクルリと回ってみせた。
 確かに、彼女にダメージを受けている様子はない。
 エレナたちは目の前の少女を改めて観察してみる。

 神官服に身を包んだ、幼い女の子。
 見た目だけならば、ただの子どもにしか見えない。
 だが、彼女が纏っている空気は普通ではない。
 明らかに強者のオーラを放っている。
 それに、ゴブリンの棍棒を顔面に受けて無事なほどの頑強性と、その後にゴブリンを瞬殺したレイピア捌き。
 明らかに只者ではなかった。

 この少女は一体何者なのか――?
 エレナたちが疑問に思っていると、他の場所から声が聞こえてきた。

「おおい! あんたたち、無事か!?」

「怪我人はいるか!?」

「あんたらは村の恩人だ! 俺たちにできることがあれば、何でも言ってくれ!」

 駆けつけたのは、村人たちだった。
 村の周囲にある土壁越しにゴブリンと戦っていた彼らだが、助太刀に来たエレナたちの活躍を見て安堵していた。
 しかしその後に何やらゴタゴタしているのを見て、慌てて駆けつけたようだ。

「ふふふー。わたしたちは無事だよー」

「この子が助けに来てくれたっすから!」

 ルリイとテナが村人たちに手を振って応える。

「無事で何よりだ! ホッとしたぜ」

「4人とも、ぜひ村に来てくれないか? 礼をさせてもらいたい。ああ、もちろんゴブリンの後処理も任せてくれ」

「良い心がけね。遠慮なくお礼とやらを受け取るわ。あなたも来るわよね?」

 村人の言葉を受け、エレナが幼女に話を振る。
 最後の一匹だけの参戦とはいえ、窮地を救ってくれたのは大きい。
 何らかの報酬を受け取る権利は十分にある。

「いえ、僕様ちゃんはもう行かないとなので。遠慮するです」

「でも、ピンチを救ってもらっておいて何もなしっていうのは……」

 村からの招待を辞退する幼女に対して、エレナが食い下がる。

「では一つだけ聞かせてもらうです。タカシ=ハイブリッジという名前を知っているです?」

「へ? え、ええ。タカシ=ハイブリッジ男爵はとても有名よ。この村も、ハイブリッジ男爵領の東部にあるわけだし……」

「やはりそうですか……。旅路は順調なようです。ここが東部ということは、このまま西に進めば彼に会えるですね?」

「たぶん……。彼は貴族だけど、平民からの謁見の申し出を無下にはしないと思うわ」

「分かりました。ありがとうです。それじゃあ失礼するです」

「ちょっと待って!」

 そのまま立ち去ろうとする幼女の背中に、エレナが声をかける。

「なんです?」

「名前を教えて。私はエレナよ」

「……僕様ちゃんの名前はリッカというです」

「リッカ……。あなたは……」

 一体何者なのか?
 エレナがそれを口にするよりも早く、リッカと名乗った幼女は動き出す。

「それではまたどこかで。ごきげんよう」

 リッカは、神官服をなびかせながら去っていった。

「……本当になんなのよ、あの子?」

「変わった子だったねー? この辺の生まれじゃなさそうー」

「でも、ハイブリッジ卿の名前を知っていたっす。遠方からのファンっすかね?」

「そうだとしても、あの年で一人旅なんて無謀じゃない? 百歩譲って馬車旅ならまだしも、徒歩なんて……」

「ふふふー。でも、なんだかとっても強そうな子だったしー。大丈夫だと思うなー」

「そうっすね。彼女なら、魔物や盗賊なんて簡単に倒せる気がするっす」

 3人の少女たちは、しばらくその場でリッカのことを語り合っていた。
 その後は村に招き入れられ、ちょっとした宴会を楽しむことになったのだった。

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