【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

916話 とある村のピンチと『三日月の舞』

 ハイブリッジ領――。
 それは、サザリアナ王国内の南西部に位置している。
 ラーグという比較的大きな街はあるものの、その他には小規模な村が点在している程度の田舎地域だった。
 だが、当主であるタカシ=ハイブリッジが主導した数々の施策によって、大きく生まれ変わりつつある。

 彼の最も大きな功績は、農業改革だろう。
 農業に関して斬新な知見を持つ彼は、土魔法使いの妻、植物魔法使いの冒険者、農業経験者の奴隷、その他の人夫を的確に配置することで、効率の良い農法を編み出し、領内に浸透させた。
 それにより、領内の農作物の生産力は爆発的に向上した。
 今では、国でも有数の豊かな土地として知られている。
 革新に前向きな他領の領主たちからも、注目が集まるほどに。

 農業改革の他にも、タカシ=ハイブリッジの功績は多岐に渡る。
 特に、鉱山開発や街道整備などは特筆すべきものだろう。
 ラーグから見て西部につくられたリンドウという街は、鉱山関係の産業地として存在意義がある。
 さらには、山岳地帯にある温泉や周囲に広がる大自然を活かした観光地としても発展の兆しを見せている。

 彼自身が抜群の腕を持つBランク冒険者であることは有名だが、妻や配下にも優れた人材が多いことで知られている。
 ラーグやリンドウ周辺の魔物はどんどん討伐されており、住民の安全性は大幅に上昇している。
 しかし反面、ハイブリッジ領に点在する小規模な村には、未だ手が回っていないというのが実情だ。
 農業改革の恩恵は受けており食生活は豊かになっているものの、突発的な魔物の襲撃に対応できるとは限らない。

「ぐっ……! くそっ!! ゴブリンどもめ!」

「村を囲んでどうするつもりだ! まさか俺たちを食うつもりか!?」

「こんなところで死にたくないよ!」

「もうダメだぁ……」

 現在、ハイブリッジ領東部のとある村は窮地に立たされていた。
 ゴブリンの群れに村が囲まれているのだ。
 その数は数十匹にも及ぶ。

「落ち着け! 慌てるな!!」

「弓兵はゴブリンどもに向かって矢を放つんだ! ユナ様の教えを思い出せ!!」

「ニム様が作ってくださったこの土壁があれば、まだ持ちこたえることができる!」

「村の中にまで入ってきたら、アイリス様の聖ミリアリア流武闘で撃退してやるぜ!」

 村人たちが口々に叫ぶ。
 先ほども述べたように、ハイブリッジ家はこの村の安全性を完全に確保するまでは手が回っていない。
 ラーグやリンドウ周辺ですら魔物を完全には駆逐できていないのに、各地に点在する小規模な村の周辺まで安全を確保するなんて現実的ではないからだ。

 しかしもちろん、完全に放置しているわけでもない。
 タカシ本人やミリオンズ、あるいは御用達冒険者によって周辺の危険因子は優先的に取り除かれている。
 だからこそ、今回の襲撃者は盗賊やリトルベアなどではなく、ただのゴブリンなのだ。
 そして、アイリスが武闘を教えたり、ユナが弓を教えたりすることにより、村人たちの自衛能力は高まっている。
 さらには、タカシやニムの土魔法で作られた簡易的な防壁もある。

 これでも完璧とは言い難いのだが、チート持ちのタカシとて全てを救うことは不可能だ。
 諸々の事情を勘案すれば、このあたりが現実的な落とし所と言える。

「ギャッ! ギィ!!」

「ギイッ!」

「くそぉ! 少しずつ距離を詰められている!」

「このままじゃマズイぞ!」

 村人たちは必死に抵抗を続けるも、ジリ貧であることに変わりはない。
 ゴブリンの群れが村を囲んでいる以上、逃げることもできない。
 もはやこれまでかと思われた、その時――。

「我が敵を滅せよ! ファイアトルネード!」

「我が敵を撃て! ライトニングブラスト!」

「我が敵を砕け! ストーンレイン!」

「「「グゲェ!?」」」

 横から火球、雷光、石礫がゴブリンたちに襲いかかった。
 それらの攻撃により、数十匹のゴブリンは大きく数を減らす。

「ふん。私たちの『三位一体』の攻撃の威力、思い知ったかしら?」

「ふふふー。危ないところに通りかかったねー」

「オレっちの土魔法なら、ゴブリンなんて一網打尽っす!」

 現れたのは、Cランク冒険者たちだった。
 Cランクパーティ『三日月の舞』。
 実はタカシとは初期の頃からの知り合いなのだが、あまり深くは交流していなかった。
 タカシの名前を『タケシ』と勘違いしているくらいだ。
 彼女たちは魔法を駆使して、ゴブリンたちを殲滅していく。

「でも、エレナっち。本当に良かったんすか?」

「なにがよ?」

「いや、エレナっち憧れの人に結局会えなかったじゃないっすか。それなのにラーグの街を出発してしまって……」

 彼女たち3人は、1か月ほど前にはラフィーナの村の近郊の街にいた。
 そこからラーグの街に移動し、今はハイブリッジ男爵領東部の村にいる。

「だって、相手は貴族なのよ? 簡単に会えるわけないじゃない」

「そうとも限らないっす。とても気さくで優しい人だって噂っす。まぁ、尋常じゃないほどの女好きらしいっすけど……」

「ふふふー。エレナちゃんは土壇場でヘタレちゃうタイプだからねー」

「なっ!? ち、違うわよ! 私はそんなんじゃないし!」

「憧れのタカシ=ハイブリッジ様に会いたかったって言ってたのに、いざとなると尻込みするなんて……。やっぱりそういうことなんすね……」

「うぐぐ……」

「ふふふー。顔も知らない人のこと、よくそんなに好きになれるよねー?」

「はぁっ!? あの数々の偉業を成し遂げたタカシ様なのよ? カッコいいに決まってるじゃない!」

「はいはいっす」

 エレナ、ルリイ、テナの三人は楽しげに会話しながらゴブリンの残党を倒していった。
 リーダーのエレナの想い人は、タカシ=ハイブリッジ男爵だ。
 しかし、彼女は彼の顔を知らない。
 正確に言えば知っているのだが、彼女の知る『駆け出し冒険者タケシ』と『数々の偉業を成し遂げた新興貴族タカシ=ハイブリッジ卿』が同一人物だと知らないのだ。

「ギイィ……」

「ギャオ……」

 三人が雑談している間にも、哀れなゴブリンたちは次々に息絶えていく。
 こうして、村の窮地は彼女たち『三日月の舞』によって救われた――ように思われた。

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