【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

896話 フレンダvsブラックタイガー

「フレンダ、本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ~。でも、もしものときは代わってね~」

 フレンダは、まるで散歩にでも行くかのような気軽さだ。
 相手の強さが分かっていないのか?
 ……いや、それはないな。
 彼女はBランク冒険者なのだから。

「ああ、分かった。言ってくれれば、すぐに助けに入ろう。即死さえ避けてくれれば治療もできる」

「よろしく~」

 むしろ、自分の強さに絶対の自信を持っているがゆえの態度か。
 スキルレベルは低めだったが、何か特殊な戦闘技法を持っているのかもしれない。

「グルルル……」

 ブラックタイガーは、ゆっくりと近づいて来る。
 距離が詰まるにつれて、次第に威圧感が増していくのが分かった。
 しかしフレンダは全く動じていない。
 俺、そしてフレンダの取り巻き二人は、少し離れたところで様子を見守る。

「あは~。ブラックタイガーなんて、フレンダちゃんの前では大したことないでしょ~」

「ガウッ!」

 挑発するようなフレンダの言葉に、ブラックタイガーが反応した。
 そして、その巨体には似合わないスピードで突進してくる。
 速いな。
 さすがは災害指定生物といったところか。
 だが――

「【恋速移動】」

「ガフッ!?」

 フレンダが一瞬でブラックタイガーの背後に回り込み、強烈な蹴りを背中に叩き込んだ。
 ブラックタイガーは吹っ飛ばされ、木に激突する。

「え……?」

 俺は目を疑った。
 凄まじい早さだったからだ。

「あ、あれがフレンダ姉さんの移動術……!」

「久しぶりに見ました……!」

 取り巻き二人が、驚いたような声を上げた。
 この様子だと、普段はあまり使わない技のようだな。

「グルルゥッ!」

 だが、ダメージはあまりなさそうだ。
 ブラックタイガーはすぐさま起き上がり、怒りの表情を浮かべる。

「あは~。ギルドの情報通りじゃん。外皮が固いんだってね~」

 フレンダは余裕の笑みを見せた。
 ブラックタイガーは、再び彼女に襲い掛かる。
 今度は先ほどよりも更に速く、鋭い爪を振りかざす。

「お~っと~」

 フレンダはひらりと身をかわすと、すれ違いざまに再び蹴りを叩き込む。

「ガルァアアッ!?」

「まだまだいくよ~。【恋速攻撃】」

「ギャウンッ!!」

 今度は腹だ。
 ブラックタイガーは、苦痛の声を上げながらもなんとか耐えた。

「しぶといな~。でも、群れで行動するっていうホワイトタイガーなんかよりもやりやすい相手だよね。単体なら、いくら固くてもフレンダちゃんの相手じゃないよ~」

 ホワイトタイガーが群れで行動する?
 俺がかつて戦ったのは、単独のホワイトタイガーだったが……。
 あれは、まさかレアケースだったということか?

「グウウ……」

 ブラックタイガーの目つきが変わった。

「ん? どうしたのかな? 怒ったの~?」

「ガオオォオオッ!!」

 次の瞬間――
 ブラックタイガーの身体から、炎が噴き出した。

「えぇ~!?」

「な、なんですか! あれは!!」

 取り巻き二人も驚いている。

「くっ……」

 これには、たまらずフレンダも防御姿勢を取った。
 固い外皮や火魔法の情報はあっても、身体から物理的に火炎を放出するとは想定していなかったらしい。

「あは~。やるじゃん。でも、フレンダちゃんだって負けてないよ~」

 そう言うと、彼女は両手を天に掲げる。

「【恋心解放】」

「む? あれは……」

 彼女の周囲に無数のハートが浮かび上がった。

「愛と勇気と希望の名の元に、いっくよ~。【ビューティー・セイント・アロー】!」

 彼女がそう呟いた直後、それらのハートが次々とブラックタイガーへと飛んでいった。
 それらはブラックタイガーに触れると、爆発する。

「グギィイイッ!?」

「あは~。フレンダちゃんの必殺技だよ~」

「え、えげつないな……」

 俺は思わずそう呟く。
 だが、フレンダは戦闘態勢を解いていない。

「あは~。でも、まだ終わらないみたいだよ」

「なに?」

 見れば、確かにブラックタイガーはまだ生きていた。
 しかし、全身がボロボロになっている。

「グルルル……」

「あは~。まだやる気なの~?」

「グルルルルルル……」

「うーん……。これ以上は弱い者イジメになっちゃうんだけどな~」

 フレンダは困ったように頭を掻く。
 そのときだった。

 コロン……。
 何かが、ブラックタイガーの前に転がってきた。

「え……?」

「あ……」

 それは、巨大な魔石だった。
 街で上手く活用すれば、発展に大きく寄与するだろう。
 だが、今の局面でこれは……。

「ガルルルルルッ!!!」

 ブラックタイガーは、興奮した様子で魔石に飛びついた。
 魔石には、一部の魔物を癒やしたり強化したりしてしまう特性を持つ。
 瀕死状態であったブラックタイガーが本能的にそれを口にしてしまうのは仕方のないことだった。
 そして――

「グルル……グルル……」

 ブラックタイガーが、その巨体を膨らませ始める。
 小さな魔石であれば、傷を多少癒やす程度で終わっただろう。
 中くらいの魔石であれば、せいぜい傷が全快になる程度か。
 だが、今回の魔石は大きかった。
 全快になった上で、強化までされてしまったのだ。

「おいおい……マジかよ……」

 俺は唖然とした。

「あは~。こりゃヤバいかもね~」

 フレンダは苦笑する。
 取り巻き二人は、完全に腰を抜かしていた。

「よし、ここからは俺も戦おう」

 俺はそう提案する。
 彼女の戦闘技法は十分に見せてもらった。
 スキルだけでは説明しきれない、特殊な戦闘技法のように感じられた。
 あとは、落ち着いたところで口頭で解説してもらえばいい。

「あは~。もう少し待っててよ~」

「……なんだと?」

「久しぶりに、全力を出せそうなの。こんなに倒しがいのある魔物、簡単には譲れないよ~」

 彼女は瞳孔の開いた目でブラックタイガーを見つめながら、楽しそうにそう言ったのだった。

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