【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

882話 聖樹?

 ラーグの街の外壁周辺で作業をしている。
 労働者たちは、俺とニムが土魔法で粗方の作業を行なった外壁の仕上げ作業を行っている。
 俺、ニム、サリエ、花は、また別の作業に取りかかっている。

「さて、それじゃあ早速植えるとしようか」

 俺たちは、聖樹の苗木を外壁沿いに植える。
 そして、4人で魔力の波長を合わせながら、根付くよう祈りを込めて魔力を与える。
 すると、苗木が見るみる成長し、立派な大樹へと成長した。

「「おおぉ!」」

 俺たちからどよめきが起こる。

「こんなに早く成長するとは……。それに、幹も枝も葉もすごく綺麗だ」

「はい……。まるで、神々しい光を放つような美しい木です」

「うーん……。どこか作り物っぽい神々しさだけど~」

 サリエと花がそう評する。
 確かに、この聖樹はどこか作り物っぽい気もする。
 まるで造花のように汚れや虫食いなどが全くない。

「まぁ、魔力で急成長させた影響じゃないか? 雨風に晒されて虫が寄ってきたら、適度に神々しさも失われてくるだろう」

「そ、そうですね。そんなことより、わたしは気になることがあります」

 ニムがそう切り出してきた。

「何が気になるんだ?」

「この聖樹を外壁沿いに植えたことです。思っていた以上に大きく急成長したので……」

「それが何か?」

「き、気づきませんか? この木によじ登れば、外壁を超えることも可能です」

「あ、そうか」

 言われてみればその通りだ。
 俺はバカか?
 外敵の侵入を防ぐための外壁沿いに木を植えてどうする。

「私も気づきませんでした……。これはマズイのでは? 植え替えますか?」

「ううむ……。だが、見ての通り既に大樹となっている。抜いて植え替えるのは現実的ではないな」

 俺たちの魔力が良質だったせいだろうか。
 想定以上に急成長したため、大地にしっかりと根を張ってしまっているようだ。
 これでは、抜くことはできない。

「いっそのこと、俺の火魔法で燃やして処分するか……?」

「す、少しもったいない気がします。せっかくの聖樹なのに……」

 ニムがションボリしている。

「とりあえずはこのままでも構わないのでは? この外壁の役割は、主に魔物避けですから」

「そうだね~。この街が盗賊に狙われることはあんまりないだろうね~」

 サリエと花が提案してくる。
 彼女たちが言うことにも一理ある。

 一般的な街の外壁が想定している脅威は、主に3つ。
 敵国兵、盗賊、魔物だ。

 だが、このラーグの街に限定すれば、敵国兵の心配をする必要性は薄い。
 サザリアナ王国の南西部に位置するこの街は、他国から遠いからだ。
 南も西も、サザリアナ王国からすれば未知の領域である。
 山脈が走っているので、良くも悪くも国境を超えることは難しいのが現状だ。

 盗賊はどうか?
 西の森の奥地を『ブギー盗掘団』が占拠していたり、ラフィーナのいる村を『灰狼団』が占領したりと、この国の治安も万全ではない。
 とはいえ、ハイブリッジ男爵家がかなりの武力を有していることはそれなりに有名な話となりつつある。
 その領都をわざわざ狙う盗賊団がいるかというと、まずいないと考えていいだろう。

 そうなると、問題となるのはやはり魔物だ。
 だが、例えばファイティングドッグやクレイジーラビットが木を上って外壁を超えて侵入してくるだろうか?
 いや、奴らにそこまでの知能はない。

「こ、この聖樹はわたしが管理しましょう。悪用されないように目を光らせます。そして、外壁と合わせて、きっとこの街を守って見せます」

「そうだな。この件はニムに任せる。”ハイブリッジ男爵家防衛大臣”として、しっかり管理してくれ」

「はい!」

 ニムが嬉しそうにしている。
 彼女は個人の戦闘能力として、防御力に長けたタイプだ。
 土魔法で絶対無敵の岩鎧や土壁を構築して守れるし、土弾やゴーレムで遠距離から戦うこともできる。
 それを応用すれば、自分以外の者を守ることも可能なのだ。

「よし! これで今日の仕事は終わりだ! みんな、帰るぞ!」

「「「へい!」」」

 俺が号令をかけると、労働者たちは威勢よく返事をする。

「作業が順調に進んだ祝いだ! お前たちに少しばかりの酒を振る舞ってやろう! 希望する者は、ラビット亭へ来てくれ!」

「「おおぉぉ!!」」

「ありがとうございます!」

「ごちになりやすぜ!」

「感謝します!」

 よしよし。
 やはり、肉体労働後の現物支給は忠義度が上がりやすいな。
 もちろん別途給金も渡すわけだが、こうして別の形で還元するのも悪くないアプローチだ。
 こうして俺たちは、外壁周辺から撤収し、ラーグの街の中に戻っていく。

(じゅるり……。今の、とってもおいしい魔力だった……。もっと欲しいな……)

「ん? 何か言ったか?」

 背後から何か聞こえた気がした俺は、後ろを振り向く。
 だが、そこには誰もいない。
 労働者たちは我先にと撤収しているし、ニム、サリエ、花は俺の少しだけ先を歩いている。

「ど、どうしました? タカシさん」

「いや、誰かの声が聞こえた気がしたが……気のせいみたいだ」

 気を取り直して、俺はみんなの後を追うように歩き出す。

(もっと欲しい……。もっと……もっとぉ……)

 背後からの小さな呟き、そして怪しく光る聖樹の異変に気づくことなく……。

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