【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

859話 【リン視点】ご主人さま

 ファイティングドッグを無事に倒したわたしたち。
 ですが、視界の隅に緑色の魔物の姿が映りました。

「ま、まさか……」

「リン先輩?」

「あれはゴブリンですぅ! わ、わたしたちで勝てるはずがありません……。逃げましょう!」

「…………(こくこく)」

 ゴブリンとは戦ったことがありません。
 ですが、トミーさんやヒナさんから話だけは聞いています。
 個体としての強さなら、ファイティングドッグと同じか少し上くらい。
 ただ、本当の意味で厄介なのは、集団で行動することです。

 今のわたしたちが戦えば、勝てる可能性はゼロに近いです。
 でもだいじょうぶ。
 まだ少し距離がありますし、落ち着いて街まで逃げれば――

「ひ、ひいいいぃ!!」

「あっ、ノノンさん! そっちは……」

 街の方角から少しズレています。
 それに街道からも離れていく方向なので、足場も悪くなりがちです。
 逃げるのに適した方向ではありません。

「くっ……」

「…………(だっしゅ)」

 わたしとロロちゃんは急いでノノンさんを追います。
 放っておくわけにはいきません。
 それに、これも元はと言えばわたしのミスです。
 初心者のノノンさんを狩りに連れてくるなら、トミーさんやヒナさんがいっしょの時にするべきでした。

「あっ!」

 ノノンさんが足を取られて倒れます。
 やはり、このあたりは少し足場が悪いです。
 その間にわたしとロロちゃんが追いつけたのは良いことです。
 でも、それ以上に悪いことがあります。

「グギャギャギャギャ!!」

「ゲギャギャギャ!!」

 ゴブリンの集団に追いつかれてしまったのです。

「あわわ……」

 ノノンさんが怯えた様子を見せます。
 無理もありません。
 こんな状況、わたしだって泣きたくなります。
 ですが、ハイブリッジ家、そして狩りという場においては、わたしの方が先輩です。
 わたしがしっかりしないと。

「ノノンさん、下がってください。ここはわたしが引き受けます」

「…………(ずいっ)」

 ロロちゃんも前に出てきてくれました。
 わたしは剣を、ロロちゃんはハンマーを構えます。
 ここが正念場です。
 ご主人さまだって、ほんの3年前まではEランク冒険者だったらしいです。
 わたしも、やればできるはず――

「あ、あれ……?」

 剣が震えています。
 これがご主人さまが言っていた、『地震』という現象でしょうか?
 足もガクガクしてきました。

 これは相当な揺れです。
 しかし逆に言えば、チャンスでもあります。
 ゴブリンだって、こんな揺れではまともに動けるはずが――

「グギャギャギャギャ!!」

「ええぇ!?」

 ゴブリンたちは、なんともなさそうな顔でこちらに向かって走ってきます。
 そのスピードはファイティングドッグと大差ありません。
 落ち着いて対処すれば、どうにかなるはず――

「あっ!?」

 おかしいです。
 体がうまく動きません。
 揺れているのは地面じゃなくて、わたしだけ……?

 わたしはゴブリンの攻撃を受け、地面に倒されてしまいました。
 名剣『プレッツェル』も手から離れてしまいました。
 まずいです。

「くっ……」

 どうにかして剣だけでも回収しようと、必死に手を伸ばしますが――

「ゲギャギャギャ!!」

 ゴブリンがそれを許すはずもなく、わたしの手を踏みつけます。
 これはかなりマズイ状況です。
 剣がなければ、わたしなんかがゴブリンに勝てるはずもありません。

「…………うっ!」

「あ、ああああぁ!!」

 ロロちゃんとノノンさんの声が聞こえてきます。
 彼女たちも、また別のゴブリンに襲われているのでしょう。
 必死に抵抗しているようですが、どうにもならないようです。

「グギャギャ!!」

「ぐぅ……」

 ゴブリンの醜悪な顔が見えます。
 ご主人さまは言っていました。
 魔物と戦う時は、いかに安全に狩るかが大切だと。
 安全に気を使うすぎるくらいでちょうどいい、と。

 その言葉を思い出しながら、わたしは改めて必死の抵抗を試みます。
 しかし、ゴブリンはビクともしません。

(し、死ぬ……? わたし、ご主人さまに何も恩返しできないまま死んじゃうの? ロロちゃんとノノンさんまで巻き添えにして……)

 怖いです。
 このままゴブリンに殺されるなんて嫌です。

「いや……いやあぁ!!」

 わたしは最後の力を振り絞って、手足を動かし、なんとか逃れようとします。
 しかしゴブリンはそんなことお構いなしです。

 ジョロロ……。
 不意に、わたしの股間からオシッコが漏れていることに気づきました。
 わたしはここで死――

「…………」

「……?」

「……?」

 あれ?
 いつまで経っても痛みがやって来ません。
 もしかすると、もうわたしは死んでしまったのかもしれません。
 恐る恐る目を開けると、そこには――

「あ、あなたは……?」

 真紅の剣を持った男の人――わたしのご主人さまが立っていました!

「よう、危ないところだったな。子どもたちだけでこんなところに来るのは感心しないぞ?」

 ご主人さまはそう言いながら、真紅の剣を片手で軽々と振り回していました。
 とても強いです。
 わたしの目に映っているのは、あんなに厄介で怖かったゴブリンの集団が、まるで紙切れのように容易く倒されていく光景でした。

「す、すごいですぅ……」

「…………(きらきら)」

「や、やっぱり騎士様はとっても強い……」

 わたしだけではなく、ロロちゃんやノノンさんも驚いている様子です。
 トクン。
 胸が高鳴ります。
 この気持ちは何でしょうか?

 大恩人のご主人さまのことは、以前から大好きでした。
 一生をかけて恩返しするつもりでした。
 でも、今は――

「ご、ご主人さまぁ……」

「よしよし、怖かったな。もう大丈夫だぞ」

 ご主人さまはわたしの頭を撫でてくれました。
 わたしは、それだけのことで不思議と心から安心してしまうのでした。

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