【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

810話 そろそろラーグの街に 中編

 ラーグの街へ帰還するにあたり、ミリオンズの面々と最終確認を済ませているところだ。

「やり残したことがある者はいないか?」

「ふふん。弓の鍛錬は十分にしたし、問題ないわね」

 ユナがそう答える。

「弓か……。俺の誘いについて、ホーネスは何か言っていたか?」

「『気が向いたら行ったるわ』って言っていたわ。まぁ、彼女は自由人だからね。強引に誘って来てくれる人でもないし、これ以上の勧誘は無駄だと思うわ」

「そうか。ユナが言うのならばそうなのだろうな」

 ホーネスは”銀弓”の二つ名を持つBランク冒険者だ。
 幼少の頃のユナを助けた恩人でもある。
 そんな彼女に対し、ハイブリッジ男爵領を拠点に活動しないかと打診していたのだが、あやふやな返事のままだ。

(まぁ、俺と彼女の冒険者ランクは同じだしなぁ……)

 俺は男爵位を持っており、ホーネスは無爵だ。
 しかし、あくまで冒険者としては同格。
 何でもかんでも俺の言うことを聞いてくれるほど、安い存在ではないと言ったところか。

(やはり、ランクはAに上げておきたいところだが……)

 俺は男爵位を授かったBランク冒険者だ。
 社会的には大成功の部類である。
 これ以上を望むなど、普通はあり得ないと言っても過言ではない。

 しかし、俺には世界滅亡の危機に立ち向かうという使命がある。
 男爵位の上の子爵位や辺境伯位、Bランクの上のAランクやSランクもいずれは手に入れたい。
 爵位は少し前に上げてもらったばかりなので、現実的にはAランクになるのが先だろうか。

(俺がBランクに上がったのは、西の森でブギー盗掘団を捕縛したときのことだったな……)

 その功績が評価され、俺はBランクに上がると同時に騎士爵を授与されることが内定したのだ。
 それに続けて、シュタイン=ソーマ騎士爵の浄化、アヴァロン迷宮の攻略、ファイアードラゴンの無力化などの功績も上げてきた。
 ラーグの街に戻ってからは内政に精を出してはいたが、それでも冒険者としてコツコツと活動もしてきた。
 王都への道中ではゴブリンジェネラルも討伐した。

(王都に来てからもいろいろとあったな……)

 騎士団への稽古。
 黒狼団、白狼団、闇蛇団などの掃討や捕縛だ。
 これらは冒険者ギルドを通した依頼ではないので、直接的にギルド貢献値が上がるわけではない。
 だが、戦闘能力や任務遂行能力への評価は一定程度高まることだろう。
 そして、それらの積み重ねが、Aランク昇格に繋がるはずだ。

「タカシさん、どうかされましたか? 難しい顔をしておられますが」

「ん? ああ、すまない。考え事をしていた」

「何か悩み事があるのでしょうか? 私にできることがあれば言ってくださいね。治療魔法、あるいは貴族の習わしに関することでしたらお力になる自信はありますので」

 サリエが心配そうな顔でそう言った。

「ありがとう、サリエ。悩み事というほどでもないのだが……。今後、さらなる陞爵やランクアップをするために何をすべきか考えていたんだ」

「なるほど……。確かに、タカシさんのご活躍を考えれば、更なる上を目指すことも当然のことでしょうね」

「まぁ、そうだな。ただ、焦りすぎないようにしようとも思っているんだ」

「そうですね。あまり欲張ってしまうと、足元が疎かになってしまいますから」

「その通りだな。俺としては、まずは冒険者としての実力を上げつつ、ハイブリッジ男爵領の経営を万全にしたいと思っている。そして、例の隠密潜水艇が完成したら、ヤマト連邦に潜入する。ベアトリクスやシュタインと協力して無事に任務を達成できれば、さらなる陞爵もある得るだろう。ベアトリクス第三王女との婚約の件もあるし……」

「いいお考えだと思います。『言うは易し行うは難し』という言葉もありますが……。タカシさんなら、きっと成し遂げることができるでしょう」

「うむ。頑張るつもりだ。サリエから見て、何か気になる点はないだろうか?」

 ミリオンズにおいて、生まれながら高い身分を持つ女性は3人。
 ハガ王国の姫であるマリア、サザリアナ王国のラスターレイン伯爵家令嬢であるリーゼロッテ、そしてハルク男爵家令嬢であるサリエだ。
 その中でも、こうした方面の知識で頼りになるのがサリエである。

「ええと、特には……。あ、でも、強いて言えば……」

「何かあるのか?」

「急速な領地の発展は、周囲の領地との軋轢を生む可能性があります」

「ふむ……。ハイブリッジ男爵領は、サザリアナ王国の南西部の端にある。接している領地はさほど多くないが……。特に気にするべき領地はあるか?」

「率直に言って気にしてほしいのは、私の実家であるハルク男爵家との仲ですね」

「それはもちろんだとも。農業改革の成果の一部を共有しているし、何よりサリエの存在がある。仲は極めて良好のはずだろう?」

 ハイブリッジ男爵家の農業改革の成功を羨む声は少なくないらしい。
 だが、すぐさまその手法を取り入れようとする貴族家は意外に少ないようだ。
 それはなぜかと言えば、俺のやり方が独特すぎるからだ。
 今は成功しているように見えても、数年後に何らかの問題が生じるリスクはある。

 そんな中、ハルク男爵は一部だけとはいえ、ハイブリッジ男爵家の農業手法を取り入れる姿勢を見せている。
 この事実だけで十分にありがたいことなのだ。

「はい。それはありがたく思っております。ですが、ハルク男爵家にばかり良い顔をするのはよろしくない面もあります」

「それは確かにな。ええと、他に接している領地で優先すべきは……」

「家格で言えば、ハイルディン侯爵家やアークレイ子爵家といったところでしょう」

「ふむ? ハイルディン侯爵家と言えば……」

「ええ。よくここに遊びに来ていた、リリーナさんのご実家ですね」

「そうだ。あの子とも仲を深めようとしたのだが、何故か避けられてしまっていてな……」

「彼女はああ見えて、初心な人ですから。ですが、私は彼女の胸の傷を治療した功績があります。それは広く見れば、ハイブリッジ男爵家がハイルディン侯爵家に貸しを作ったことになります」

「なるほど……。そういう見方もできるわけか」

 そういえば、俺の叙爵式でもハイルディン侯爵は俺の味方をしてくれたな。
 彼は俺の味方と考えてもいいのかもしれない。

「はい。ハイブリッジ男爵家の急速な発展で思うところがあったとしても、表立って責めることはないかもしれません。もちろん、貴族社会において油断は大敵ですが」

「ああ。気をつけておこう」

 娘を俺の妻に迎えているラスターレイン伯爵家やハルク男爵家、あるいは当主本人と友好を築いているソーマ騎士爵家。
 このあたりと比べると、ハイルディン侯爵家との繋がりはまだ薄いと言えるだろう。
 何かあったときに頼れる後ろ盾になってくれる存在とまでは言えない。
 気を許しすぎることは避けた方がいいか。

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