【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

807話 エリアヒール

 タカシが森の中を進む。
 ヤナギの悲鳴が聞こえた方角へ。

(間に合ってくれ……。頼む……)

 今日会ったばかりの男とはいえ、人が死ぬのは嫌だ。
 彼は祈るような気持ちで進んでいく。
 すると――

「ギャアァッ!」

「……!」

 遠くの方でリトルベアの声らしきものが響いてきた。
 どうやらヤナギたちのピンチはまだ続いているらしい。
 タカシは急ぎ現場へと向かう。

「!」

 そして、その光景を目の当たりにして絶句した。
 なぜならば、そこには――

「き、汚ねぇ……。それに臭い……」

 クソまみれで戦っている5人の冒険者とリトルベアの姿があったからだ。
 腹痛に耐え、尻から垂れ流しながらも戦ったという意味では立派とも言えるのだが、悪臭を放つ糞尿をまき散らすその姿は実に汚らしかった。

「ん? おおっ! ハイブリッジ男爵じゃねぇか!」

「来てくれたか!」

「助かった……」

 男たちは安堵の声を漏らす。
 だが、その一瞬の気の緩みが仇となった。

「グガアッ!」

「うおっ!?」

「ぐあああぁっ!!」

 リトルベアの一撃をモロに受けてしまう。
 彼らは倒れ、動かなくなった。

「くそっ!」

 タカシは急いで駆け付ける。
 まずは治療?
 いや、見た感じでは即死級のダメージではないはずだ。
 優先すべきは大元の脅威の排除だ。

「この野郎っ!」

 タカシは剣を抜き、一気に間合いを詰める。

「くらえっ! 【火炎斬】!!」

「グガアアァッ!!!」

 そのまま一閃し、リトルベアを斬りつけた。
 あっさりと首が落ち、絶命。
 リトルベアごとき、もはや彼の敵ではないのだ。

「よしっ! 次だ! ええと、状況は……」

 タカシは場を確認する。
 周囲一帯がクソまみれで、悪臭が漂っている。
 水魔法、土魔法、風魔法あたりを駆使して浄化したいところだ。
 だが、もちろんそれよりも優先すべきことがある。

「先ほどまで戦っていた冒険者5人はそれなりの重傷……。最初の叫び声の主であるヤナギはどこだ? ……まぁいい。とりあえずは――」

 タカシは最低限の状況整理を終えた。
 そして、取り急ぎ治療魔法の詠唱を始める。

「【エリアヒール】!」

「うおぉっ!?」

「痛みが消えていく!?」

「なんだこれは!?」

「奇跡だ!」

 タカシが使ったのは中級の治療魔法だ。
 だが、中級に属するのはあくまでもその効果範囲に起因するものであって、治療効果自体は初級のものと変わらない。
 そのはずであった。

 しかし、タカシの治療魔法の技量は一級品であり、魔力のステータスも高い。
 そんな彼の『エリアヒール』の治療効果は、上級の治療魔法にも匹敵する。
 男たちが驚くのも無理はない。

「無事に全快したか。さて、次は――」

「リーダーは!? リーダーはどこに!?」

「茂みに身を隠されていたはずだぞ!」

「探せぇっ! リーダーに何かあったら、俺たちは……」

 無事に快復した男たちだが、ヤナギが見当たらないことに気が付き慌て出す。
 エリアヒールは範囲内にいる者を治療する魔法だ。
 しかし、その効果量は均一ではない。
 術者のイメージに大きく影響を受ける。

 例えば、範囲内にいる特定人物を強く治療するイメージを持てば、その特定の人を優先的に治療できる。
 逆に、範囲内にいても術者が認識していない者であれば、その治療効果は薄い。
 つまり、ヤナギはいまだ傷つき倒れている可能性があるのだ。

「あ、あそこだっ! リーダーが倒れてる!」

「なんであんなところに!?」

 若干の捜索の末、男たちがヤナギを発見する。
 彼ら、そしてタカシが駆け寄ろうとするが――

「こ、来ないでくださいぃっ!」

「え?」

 ヤナギから拒絶の言葉をかけられた。
 彼は顔を真っ赤にして尻を隠している。

「リーダー! そんなことを言っている場合ですか!」

「俺たちは邪な気持ちは持っていねぇですぜ!」

「ぐへへ……。いや、じゃなくて! リーダーが死んじまったら、俺たちは……」

 男たちは必死に説得しようとする。
 だが――

「だ、男爵様の治療魔法はこちらにも届いていましたぁ。生死の淵からは脱していますので、ご安心を……」

 範囲内の者を治療する『エリアヒール』。
 前述の通り、術者が認識していない者への効果は薄い。
 だがそれでも、術者がタカシなので、ある程度の効力はあったようだ。
 ヤナギがリトルベアから受けた傷はあらかた治っている。

 しかし一方で、腹痛までは治らなかったようだ。
 彼はまだ尻と腹を押さえている。

「ですが!」

「ま、まずは私のズボンを取ってきてくださいませんかぁ……? お尻丸出しというのは、恥ずかしくて……」

 ヤナギがそう主張する。
 男のくせに、この期に及んで何を言っているんだか……。
 タカシは呆れた。
 だが、ここで問答をしている時間はない。

「おいおい、パーティメンバーが心配してくれているのに、何を言っているんだよ」

 タカシは問答無用で彼に近づいていった。
 こうなれば、強制執行である。
 あらかた傷は塞がっているとは言っても、完璧ではない。
 それに、腹痛の方の治療もある。

「俺に任せろ。手早く治療してやるよ。さっさと終わらせて、この酷い場所を洗浄しないと……」

 タカシにとって、汚物にまみれたこの場所は地獄だった。
 魔法でさっさと浄化したいところだが、怪我人を前にして優先度を入れ替えることもできない。
 男のくせに変な羞恥心を感じているヤナギの意思は、タカシにとって無視するべきことだと判断されてしまったのだった。

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