７９７話　夜営中の食事

　夜営のため、タカシと雪月花が食事の準備を進めている。
　火を起こした彼らは、料理を火で温めた。

「さあ、食べようぜ」

「「「いただきます」」」

　彼ら３人は食事前の挨拶をして、食事を始める。
　タカシは、まずモニカの作った料理を口に運ぶ。

「うん、美味しい。やっぱりモニカの料理は最高だな」

「確かに……。モニカさんの料理はすごく美味しいわね。これなら毎日食べたくなるわ」

「ふふん。そうだろう？　なんと言っても、モニカは俺の妻だからな」

　月の言葉に、タカシが自慢げに応じる。

「本当に美味しい～。幸せ～」

「……うん。まさか夜営でこんなに幸せな気分になれるなんて思わなかった……」

　花と雪が嬉しそうにしている。

「そうだろ。そうだろ。ほら、どんどん食ってくれ」

「ええ。たくさん食べるわ」

「……ボクも。おかわりしてもいいかな……？」

「ああ、もちろんだ。俺のアイテムルームにはたくさん料理が入っているから、遠慮なく言ってくれ」

「……ありがとう」

「ありがとう～。タカシさん」

「いやいや。どういたしまして」

　３人に礼を言われて、タカシは上機嫌になった。
　まぁ料理を用意したのはモニカとゼラなのだが、一流の料理人である彼女たちと繋がりを持っているという点ではタカシの功績でもある。

（よーし、いい感じだ。この調子で雪月花との距離を詰めれば……）

　タカシはハーレムを築いている。
　貴族であれば数人程度の妻を持つことは普通であるが、それにしても彼のように１０人近い女性を囲っているのは珍しい。
　男爵でありＢランク冒険者でもある彼の地位を考慮しても、やや過剰と言える。

　だが、彼の将来性を考えればまだ許容範囲だ。
　サザリアナ王国内にまだ未開の領域はあるし、隣接するウェンティア王国やハガ王国以外の方面には、未踏破領域が広がっている。
　タカシであれば、それらの地を開拓することも可能だろう。
　そうなれば、将来的な分家候補としてたくさんの妻たちとの間に子をどんどん作ることは必須となる。
　まぁ、彼がそこまで考えているかどうかは分からないところだが。

（おあつらえ向きに、今日は夜営だ。人目もないし……。ぐへへ……）

　彼のハーレム拡充について、妻たちからは概ね理解を得られている。
　加護付与スキルという能力の存在を明かしているからだ。
　男爵家当主にしてＢランク冒険者でもあるタカシの地位や財力だけを目当てに近づいてくる女性には、彼の妻たちもいい顔はしない。
　だが、かつての自分のように彼に助けられたり優しくされたりして惚れてしまった女性に対しては、彼女たちも無下には出来ない。

（ミティやアイリスたちの目があると、どうしても後ろめたい気持ちを感じてしまうからな……）

　タカシは日本で育った。
　彼の常識では、一夫一婦制が当たり前だ。
　しかしこちらの世界では、必ずしもそうではない。

　彼は各種のチート能力を持っているし、多数の妻や子を養うことは十分に可能だ。
　加護付与というチートは双方に利のある話だし、彼の生来の女好きという性格もある。
　そういった事情により彼はハーレムを築いているわけだが、どうしても幼少期に植え付けられた価値観が抜けきらない面はある。

「あっと、落としちゃったわ。もったいないわね……」

「大丈夫だ。俺が拾おう」

「あっ、ハイブリッジ男爵……」

　月が落とした肉の破片を、タカシが拾い上げる。
　彼はそのままそれを口に入れた。

「うん、美味い」

「え？　落ちたものを……。いや、それよりも、それは私の食べかけ……」

「ん？　ああ、気にするな。俺は全然平気だから」

「そ、そう……」

　月は少し顔を赤らめて俯く。
　勝ち気な彼女だが、意外と言うべきか乙女な側面もある。
　そんな彼女の様子に、タカシはニヤけそうになる表情を抑える。

「どうしたんだ、月。体調でも悪いのか？」

「ううん。なんでもないわ。ちょっと考え事をしていただけよ」

「そうか。なら、いいんだけどさ」

　タカシのストライクゾーンは広い。
　花や雪に加えて、月までをもワンチャン狙っている。
　まぁ、彼女は彼女でタカシの地位と金を目当てに妻の座を狙っているので、悪い話ではないのだが。

「タカシさん～。これ美味しいよ。はい、あ～ん」

「あーん」

　花に勧められるまま、タカシは差し出された料理を口に含む。
　雪月花の中で、タカシとの距離がやや近しいのはやはり花だ。
　植物魔法を操る彼女は、農業改革の際にもニムやニルスらと共にタカシに協力した。
　また、生来のおっとり気質によりタカシの奥方陣からの警戒心もやや緩いためである。

「うん、美味しい」

「ふふ～。良かった～」

「……」

　雪は雪で、タカシのことが嫌いなわけではない。
　彼女は金が好きで自立心が強い。
　依頼人として金払いの良いタカシのことは気に入っていた。
　だが、彼女はどちらかと言えば寡黙な性格だし、恋愛事にも疎い。
　そのため、自分から積極的にタカシにアプローチをかけることはないのだ。

「「「…………」」」

　タカシと雪月花の４人が楽しそうにしている一方で、それを羨ましそうに見ている者たちがいる。
　その視線の主たちは――