【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

795話 タカシ参上

 雪月花の前に、ゴブリンたちが姿を現した。
 その数は10匹ほど。
 日中であれば大したことのない相手ではあるが、消耗した状態で夜に戦うのは避けたい相手だ。

「ちっ……。こんなときに……」

「花ちゃんたち、ピンチだよ~」

「……ここは引くべき……?」

 雪が問いかけると、月は首を横に振った。

「あいつらをエサにすれば逃げられると思うけど……。それはさすがにね。それに、夜に物音を立てながら移動するのは避けるべきだわ」

 月の言うことはもっともであった。
 今の状態では、夜の森を歩くのはかなり危険だ。
 仕方なく、三姉妹は応戦することにした。

「しょうがないね~。戦っちゃうよ~」

「落ち着いて戦えば、なんてことはない相手のはずよ」

「……うん。ここは踏ん張りどころだね。――って、え?」

 雪月花が目を丸くする。
 ゴブリンやヤナギに異変があったわけではない。
 異変があったのは、倒木だ。
 道を塞ぐように倒れていた巨木が、一瞬のうちに灰となったのだ。

「「「へ?」」」

 三人とも、呆気にとられている。
 そして、倒木があった向こうから姿を現したのは――

「ふう。やっぱり、無生物に対する【焼失】は高火力だな。……おぉ? 雪月花じゃないか、探したぞ」

 彼女たちのお得意様、タカシ=ハイブリッジ男爵がそこにいた。

「え? どうしてここに? いえ、それよりも今のは魔法?」

「ああ、俺のオリジナル火魔法だよ。無生物限定だが、こうして超火力で燃やせるんだ」

 厳密に言えば、対象が持つ魔力量に大きな影響を受ける魔法である。
 生物であっても、微生物や羽虫など魔力量の少ない生物であれば焼き払うことができる。

「そ、そう……」

 月が困惑しながら相槌を打つ。
 いくら無生物相手とはいえ、あの巨木を一瞬にして灰にするのはとんでもない火力だ。

(あれが自分に向けられたら……)

 月は思わず身震いしてしまう。
 Cランク冒険者の彼女はそれなりの魔法抵抗力を持つが、もちろん完璧というわけではない。
 タカシの『焼失』を受ければ、彼女とてタダでは済まないだろう。

「さて、状況整理をしようか。何があった? あの倒れている冒険者たちは?」

「えっとね、まずは……」

「あ~、いや、言わなくてもいいぞ」

「へ?」

 困惑の声を上げる月を置いて、タカシは周囲に視線を向ける。
 先ほどまで道を塞ぐように倒れ込んでいた巨木。
 少し消耗している雪月花。
 倒れ込んでいる冒険者たち。
 そして、この場を取り囲むように位置取っているゴブリンの群れ。

「ふむふむ。つまり――なるほどな。なかなかに面倒な目にあったようだな」

「「「ギャオォッ!」」」

 納得顔で棒立ち状態のタカシに、ゴブリンが襲いかかる。

「おっと、うるさいな。ちょっと黙ってくれるか? 【炎塊】」

 タカシが右手を前に突き出すと、巨大な炎の塊が出現する。
 そのまま放り投げるようにして、周囲のゴブリンたちにぶつけた。

「「ギィイイイッ!?」」

 ゴブリンたちは悲鳴を上げながら燃え尽きていく。
 だが、数匹だけは難を逃れていた。
 それらが木々の間に逃げていく。

「森の中の追い打ちに火魔法は使いにくいんだよなぁ。ここは――」

 タカシが魔力を練り上げていく。
 大魔法の発動を予兆するかのように、彼の身体から膨大な量の魔力が溢れ出していた。

「【アイスエイジ】」

 タカシが魔法を発動する。
 逃げたゴブリンたちが一瞬にして氷漬けになった。

「よし。これで全部片付いたな」

「ちょっ、えっ!? 今のは……」

「どうした?」

「ハイブリッジ男爵、あなた本当に人間よね!?」

「失礼な! 俺は歴とした人間だ!」

 タカシは憤慨するが、月は疑いの眼差しを向けたままだ。

「まあいいか。さあ次は、こいつらの治療だな」

「え?」

「雪月花と共にゴブリンと戦おうとしたんだよな? 良い奴らじゃないか。このままでも命に別状はないだろうが、俺が治療してやろう」

「ちょっ……」

 先ほど納得顔で頷いていたタカシだが、状況を把握できていたわけではなかったらしい。
 チートによりかなりの戦闘能力を得ている彼だが、まだまだポンコツなところも多い。
 倒れている冒険者たちは、ゴブリンではなく雪月花によって撃破されたことに気付けなかった。
 月は説明を試みるが、時すでに遅し。

「【エリアヒール】」

 タカシが魔法を唱えると、この場にいる全員が光に包まれた。
 雪月花の3人。
 そして、倒れているヤナギたち6人の冒険者もだ。

「えぇ……?」

 月が困惑した声を出す。
 せっかく無力化したのに、ここで治療してしまっては再び挑んでくるかもしれないと思ったのだ。
 そして、その不安は的中した。

「おやおや……。どこのどなたか存じませんが、お助けいただき感謝しますぅ」

 ヤナギが立ち上がり、タカシに対して慇懃無礼な口調で話しかけてきた。
 他の冒険者も同様に立ち上がるが、少し距離をとって臨戦態勢に入っている。

「あ~、気にしないでくれ。ただの気まぐれだから」

「そういうわけにはいきませんよぉ。お礼に……こうしてあげますぅ!」

 タカシの不意をつき、ヤナギが斬りかかった。

(速いっ!?)

 月が焦る。
 無警戒状態からの一閃。
 いくら高ランク冒険者とはいえ、あれには対応できるはずがない。
 彼女はそう思ったが――

「ん?」

 タカシは何気ない様子で剣を素手で掴み取る。

「くっ、離しなさい!」

「おいおい、稽古なら王都に戻ってから付き合ってやるさ。何も夜の森ですることじゃないだろ?」

「……そ、それもそうですねぇ」

 ヤナギがあっさり引き下がる。
 タカシの実力を感じ取ったのか、それとも冷静になっただけなのか。
 それはわからないが、とりあえず月はホッと息をつく。

「さて、今日はここで野営するとしようか。俺のアイテムルームには何でも入っている。みんなもそれでいいか?」

「え、ええ。ありがとう」

「タカシさん~。ありがと~」

「……感謝する。もうお腹ペコペコ……」

 月、花、雪の三人がタカシに感謝の言葉を述べる。

「「「…………」」」

 しかし、ヤナギと他5名の冒険者は、複雑な表情を浮かべていたのだった。

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