【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

748話 ここにおわす御方をどなたと心得る!

 火だるまとなっていたロッシュを消火してやった俺は、いよいよこの賭博場の摘発に乗り出す。
 賭博場中央のテーブルの上に立ち、一般客や『闇蛇団』メンバーに対し”動くな”と命令した。
 だが、それに対して一般客たちが食って掛かってきている。

「てめぇ、いったい何様のつもりだ!?」

「小隊長だかなんだかしらねぇけど、調子に乗るんじゃねぇぞ!」

「そうだ! 俺らはお前の言うことなんざ聞かないからな!」

「……おい。お前たち、俺のことを本当に知らんのか?」

 俺も結構有名になってきたと思うんだけどなぁ。
 冒険者ギルドに顔を出せばちょっとした騒ぎになるし、貴族のパーティに出席したら我先にとみんなが挨拶に来てくれる。

「知るわけねぇだろ!」

「お前みたいな小物なんざ……」

 男たちの言葉は途中で途切れる。

「ふん……」

 俺が紅剣アヴァロンを抜いたからだ。

「ひっ!?」

「な、何よぉ、あの禍々しい剣は……」

「あの紅の剣……。まさかお前は……」

「例の『紅剣』か!?」

「『紅剣』のタカシ……。平民から男爵まで成り上がった……」

「う、嘘でしょ……。あれが、ハイブリッジ男爵なの……?」

 一般客たちがざわめく。
 ようやく、俺の正体に気付いたようだ。

「むっふー!」

 俺の隣に控えるミティが鼻息を荒くする。
 ミティは俺と最も付き合いが長く、その立場は第一夫人である。
 俺の名声や社会的地位が上がることに対し、一番敏感なのだ。

「間違いねぇ……。よく見りゃ、隣の嬢ちゃんは……」

「あのバカでかいハンマー……、『百人力』のミティか!?」

「マジかよ! あんなちっこい女の子が!?」

「信じられない……」

 一般客たちは騒然としている。
 俺とミティの存在を周知できた。
 これで、証拠がどうとか、権限がどうとか言う奴はいなくなるだろう。
 何せ、新興とはいえ、男爵家の当主と第一夫人が出張ってきているのだ。
 俺たちが黒と言えば、白も黒になる。

(さて、そろそろ場をまとめる必要があるな)

 俺がそんなことを思ったとき……。

「お前たち、いつまで騒いでいる!!」

 ミティが一喝した。
 彼女は優しい女性なのだが、目下の者やハイブリッジ家の敵対者に対しては容赦がない。
 そして、そういう輩には徹底的に恐怖を植え付ける。

「ひぃっ!」

「す、すみません!」

「申し訳ございませんでした!」

 一般客たちの謝罪の声が響く。

「謝るのは私に対してではない!」

 ミティはそう言いながら、俺の方を見る。

「ここにおわす御方をどなたと心得る! 恐れ多くも、王国最強の騎士にして英雄! ネルエラ陛下の覚えめでたき、『紅剣』のタカシ=ハイブリッジ男爵である! 皆の者! 頭が高い! 控えおろう!!」

 ミティは大声で叫んだ。
 言っていることは間違いとも言い切れないのだが、最強は少し大げさだよ。
 『誓約の五騎士』には俺より強い奴がいるかもしれんぞ?
 それに、騎士というわけではないが、ネルエラ陛下やコンラード第二王子も相当に強い。

(というか、第一夫人としてその口上はどうなんだ?)

 まるで俺の配下にでもなったかのような言い方である。
 まぁ、ミティは俺の第一夫人として常に俺のことを立ててくれているので、今さらではあるのだが。

「「「「「は、ははぁー!!」」」」」

 一般客たちが一斉に膝をつく。

(おお……。文句を言っていた奴らが従うのは、少し気分が良いな)

 俺は満足した。
 歯向かってくる奴がいればボコボコにしてやろうかと思っていたが、さすがに一般客にはそんな気概を持つ者はいなかったようだ。

(……ん? おおっ!)

 俺は跪いている者たちの1人に視線を止めた。
 それは、なかなかに美しい女性だった。

 確か、どこかの貴族の従者の関係者だったか?
 俺の摘発を握りつぶしてやると息巻いていた人だ。
 俺がただの小隊長だったなら、確かにそれも可能だったかもしれない。
 だが、俺は男爵家の当主だ。
 貴族の遠い関係者程度では、俺の証言を握りつぶすことなどできはしない。

 女性は震えながらも、こちらを見上げていた。
 胸元の露出が多めのドレスを着ており、その状態で跪いているものだから、豊かな谷間が強調されてしまっている。
 なかなかセクシーな格好をしているじゃないか。

「ふむ……」

 俺は女性に近づく。

「お前、名前は?」

「あ、アビーです。アビー・コーニッシュ……」

「ほう……」

 俺は女性の顎に指をかけ、顔を上げさせる。

「へぇ……」

 アビーの顔はなかなかに美しかった。
 年齢は30歳前後だろうか。
 結婚適齢期が現代日本より早いこの世界においては、やや年増扱いされてしまう年代だ。
 しかし、ストライクゾーンの広い俺なら十分に対応可能な範囲である。
 俺は10歳から40歳くらいまではいけるぜ!

「な、なんでしょうか……?」

 アビーが不安そうな声を出す。

「お前、確か俺の発言を握りつぶすとか言っていたな?」

「えっ!? あ、あの……」

「俺に逆らうのか?」

「い、いえ……」

「お前は俺の捜査を妨げようとした。これは重罪だ」

「は、はい……」

「この場で俺がお前を処罰しても問題はない」

「そ、そんな……」

 アビーが泣きそうな顔になる。

「あるいは、きちんとした裁判の場で罪を裁かれるかだな。貴族家の関係者だそうだし、その方が良さそうか」

「ひぃっ!? そ、それだけは……。勘当されてしまえば、生きていけません……」

「そうなのか?」

「は、はい。ううっ。どうか、寛大なお慈悲を……」

 高レートでギャンブルをしていただけなら、そこまで大きな罪とはならない。
 この場の一般客が重罪になるとすれば、大きく2つ。

 1つは、『闇蛇団』のカジノ運営を積極的に補佐していた場合。
 実質的に『闇蛇団』のメンバーと同じように裁かれる可能性があるだろう。

 もう1つが、俺に対する捜査妨害や傷害未遂である。
 現代日本で言えば、公務執行妨害と言ったところか。
 公務執行妨害は本来そこそこぐらいの罪だが、今回の場合はもう少し重くなる。
 なぜなら、捜査していたのが男爵家当主である俺だからだ。
 貴族に対する不敬罪もプラスされてしまうようなイメージだな。

「ふん……。それはお前の態度次第だ」

 俺に対する彼女の発言を聞かなかったことにすれば、彼女の罪は『高レートギャンブルに参加していた』というだけのものになる。
 その常習性や悪質性にもよるが、場合によっては注意だけで済む可能性もあるだろう。
 この女性の未来は俺の手のひらの上にあると言ってもいい。

「ぐへへ。……ん?」

 俺が未来への期待にニヤけていると、周囲に動きがあるのが見えた。
 アビーや他の一般客たちは相変わらず跪いたまま。
 動いているのは……。

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