【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

734話 レートアップ

 借金漬けの少女ノノンは、ギャンブルデビューの初日に大勝した。
 それにより自信を深めた彼女は、それからもちょくちょくとカジノに通い続ける。
 さすがに初日ほどの稼ぎを得られることはなかったが、それでも着実に勝利を重ねていった。

「ふう……。今日はこのぐらいにしておきましょうか」

 その日、ノノンはポーカーで若干の儲けを出した。
 切り上げて帰ろうとしたところで、男に呼び止められた。

「嬢ちゃん、ちょいと待ちな」

 男は総支配人のロッシュ。
 ドレッドヘアーで威圧感のある男だ。

「何でしょうか?」

 ノノンが尋ねる。
 初対面時こそ、彼女は威圧感に押されていた。
 しかしその後の勝負で大勝を収めたことにより、かなり慣れてきている。

「実はな。ちょっと頼みたいことがあるんだよ」

「えっと……何でしょう? できることであれば、協力しますけど……」

 ノノンはやや上から目線だ。
 ギャンブルの世界は実力主義。
 彼女から見れば、総支配人のロッシュですらやや格下の存在に思えるのだろう。
 自覚はないが、彼女は調子に乗っていた。

 最初に彼女を連れてきた男やロッシュ、それに周囲の客たち。
 その全てが彼女を褒め称えるか、あるいは尊敬や嫉妬の感情を向けていたことも、彼女の増長に拍車をかける。

「嬢ちゃんは強い。それはもう十分にわかった。だからさ……」

 ロッシュの顔が邪悪に染まる。

「俺と再戦してくれないか?」

「ふぇ?」

「俺は”ギャンブル王”ロッシュ。負けたままじゃ終われねえんだ。いいか? 嬢ちゃん」

「えっと……でも……」

 今日はそろそろ終わりにしようかと思っていたのだ。
 急に言われても困ってしまう。

「そこを何とか頼むぜ。ほら、見ろ。今日は資金をたくさん用意している」

 ロッシュはテーブルの上に、ずらりと金貨を並べた。
 さらに、ずっしりとした袋も置いた。
 ノノンがこれまでに得た金よりも、ずっと多いだろう。

(……ごくり。あれを全部手に入れられたら、ついに借金を全て返せます! そうしたら、またお父さんやお母さんとお出かけできますね……)

 ノノンの頭の中に、かつて親子3人で仲良く出かけた思い出が浮かんだ。
 それはとても甘美なものだった。

 今までに得た金は、まだ返済に充てていない。
 高レートのギャンブルに臨むにあたり、軍資金は少しでも多い方がいいからだ。
 ロッシュとの勝負でもし大勝できれば、いよいよ借金の完済が見えてくる。

(ギャンブルはやっぱり怖いです。長い目で見れば私が負けることはありませんが、万が一という可能性もありますし……)

 自分が負ける可能性を考慮に入れているという点で、ノノンはまだ冷静に見えるかもしれない。
 だが、長期的に見れば自分が勝てると確信してしまっている時点で、やはり彼女の精神はギャンブルに慣れすぎてしまっていた。

「お願いだ! 俺にチャンスを与えてくれ!」

「うぅ……。わかりました。やりましょう!」

「よしきた!」

 結局、ノノンは勝負を受けることにした。

「それでは、勝負開始だ!!」

 ロッシュが宣言する。
 さっそくディーラーによってカードが配られる。

「わたしの手札はこれです」

「俺はこれだよ」

 2人が手札を見せる。
 ノノンはツーペア。
 対して、ロッシュはフルハウスだった。

「へへへ。嬢ちゃんの役じゃ、フルハウスには敵わねぇなぁ」

「そうですね。残念ながら、わたしの負けですね」

「ああ、嬢ちゃんの負けだ。さあ、チップを寄越しな」

「はい」

 ノノンが負けた分のチップを渡す。
 勝負はまだ始まったばかり。
 これぐらいの負けは、まだまだ許容範囲だ。

「次の勝負に行きましょう」

「おうよ」

 ノノンとロッシュは、再びゲームを開始した。

「フォーカードです」

「なにっ!?」

「ストレートフラッシュですっ!」

「バ、バカな! この俺がまたしても……」

 最初こそノノンが負けたが、その後は順調に勝ちを重ねていく。
 そして、ロッシュの資金が半分を切ったときだった。

「……なあ、嬢ちゃん。ちょっと賭け金を釣り上げないか?」

「え? どういうことですか?」

「このままだと、いつまで経っても嬢ちゃんが勝っちまう。せっかくの大勝負なんだ。もっと熱くならないと損だろう?」

「確かに、それはそうかもしれませんね」

 ノノンは内心でほくそ笑む。
 どうやら、ロッシュは自分の実力をまだ信じているようだ。
 レートを上げたところで、実力の差は変わらない。
 むしろ、負けるペースが早まるだけだというのに。

「なら、もうちょい上げてもいいんじゃないか?」

「……わかりました。それでいいですよ」

 ノノンが答える。
 すると、ロッシュの表情が明るくなった。

「おお! ありがとうな。嬢ちゃん。恩に着るぜ」

「いえいえ。勝負はこれからですから。がんばりましょう」

 2人の勝負は加熱していく。
 レートを上げてからも、ノノンの優勢に変わりはない。
 ロッシュの資金が見る見る内に減っていく。
 そして……。

(ついに……ついにこの時が来ました!!)

 ノノンの目の前に積まれた大量のチップ。
 これまでの稼ぎとは比べ物にならない量だ。

「ふふふ。次で最後ですね。わたしが勝った分は、必ず精算してもらいますよ?」

「ぐぬぅ……。この俺がここまで追い詰められるとは……。だが、勝負は最後までわからねえ!」

 ロッシュが最後の勝負を宣言する。
 2人は同時に手札を公開する。
 ノノンはフォーカード。
 かなり強い役で、普通ならまず負けることはない。
 だが……。

「へへ、危ねえ危ねえ。首の皮一枚繋がったぜ」

 対するロッシュは……ロイヤルストレートフラッシュだった。

「な、何ですって!?」

「悪いなぁ嬢ちゃん。これも時の運。さ、次の勝負に行こうぜ」

「……はい」

 これで勝てれば、ギャンブルの世界から足を洗えたのに。
 ノノンは落胆する。

(でも、また勝てばいいだけですよね。なに、奇跡は二度も起きません。だいじょうぶ、だいじょうぶです……)

 自分に言い聞かせるように呟きながら、ノノンは勝負を続行する。
 彼女にとって、長い悪夢の始まりだった。

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