【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
653話 大切な宝物
掛ける言葉が見当たらない。
みんなが沈痛な顔でうつむいている。
そんな中、俺はゆっくりとアイリスに近づく。
「アイリス……」
「タ、タカシ……」
彼女が涙目で俺を見る。
「ご、ごめんね……。ボクが不信者だからバチが当たったのかな……」
「そんなことはない。アイリスの善行は、聖ミリア様にも聖アリア様にも届いているはずだ」
アイリスは武闘神官として、世界各地を旅して困っている人を救ってきた。
ラーグの街を拠点に活動することになった後も、治療回りや武闘の指導などを日々精力的に行っている。
弱きを助け強きを挫く。
これほど立派な人物はなかなかいない。
彼女が不信者になるのであれば、この世のほとんどの者が不信者ということになる。
それはあり得ない。
「でも……だって……もう赤ちゃん、動いてくれないんだよ……?」
「そうだな……。だが、アイリスは頑張った。赤ちゃんが無事に産まれるよう全力を尽くしてくれた。それでいいじゃないか」
「うう……。うわあああん」
アイリスは大声で泣いた。
俺はそっと彼女を抱きしめる。
「アイリスは立派な母親さ。だが、この世にはどうしようもないこともある。赤ちゃんだって、天国から俺たちのことを見てくれているはずだ」
俺はそう言ってアイリスを慰めながら、この世界の理について思いを巡らせていた。
この世界には治療魔法がある。
地球の基準で言えば明らかに死んでいるような状態からでも、魂さえ無事で肉体に留まっているのであれば、復活できることがある。
しかし逆に言えば、魂が肉体から離れ昇天してしまえば、いくら治療魔法を掛けようとも生き返ることはない。
俺、サリエ、マリア、リーゼロッテによる【パーフェクトヒール】で復活しなかったということは、この赤ちゃんの魂は既に肉体から離れ昇天してしまっているのだ。
諦めるしかない。
俺がそう気持ちの整理をしているとき……。
(あれれ~? 何だか暗い雰囲気になってるねえ)
分娩室の壁からひょっこりと顔を出した少女がいた。
幽霊のゆーちゃんだ。
以前よりも実体化が進んできている。
彼女の存在を察知できるかどうかは、各人の性格や魔法適性によるところが大きい。
聖魔法を強化している俺やアイリスは、比較的彼女との意思疎通をできている方だ。
彼女は俺に視線を送ってくる。
(悪いが、今は遊んであげられるような気分じゃないんだ)
俺はそう思い、彼女に視線を送り返す。
しかし、彼女は困ったような表情をしつつも、こちらに近付いてきた。
(うーんとねぇ……)
彼女の全身が壁をすり抜け、分娩室の中に入る。
アイリスも彼女の存在に気づくが、俺と同じく構ってあげられるような精神状態ではないだろう。
(……あれ?)
俺はふと違和感を覚えた。
ゆーちゃんの腕に、見知らぬ霊体の赤ちゃんが抱かれているのだ。
アイリスも目を見開き、ゆーちゃんと赤ちゃんに視線を向けている。
(この部屋から赤ちゃんが飛び出してきたの。ひょっとしたらと思ってきたんだけど……)
ゆーちゃんがそう言いながら、手元の霊とアイリスの子どもを見比べる。
(おんなじ顔だね。波長もいっしょだし。この子で間違いなさそう)
彼女が手元の霊を、アイリスの赤ちゃんの肉体に重ねる。
すると、その赤ちゃんの体が光り輝いた。
光が収まり始めたとき……。
「おぎゃあ! おぎゃあ!!」
先ほどまで息絶えていたはずの赤ちゃんが元気よく泣き始めていた。
「…………え?」
アイリスが信じられないものを見たような表情をする。
俺や産婆も同じだ。
呆気にとられ、ポカンと口を開けている。
彼女の赤ちゃんは、間違いなく死んでしまっていたはずだ。
俺たちの合同魔法【パーフェクトヒール】ですら蘇生できなかったのだから。
「……どういうことだ?」
俺は目の前で起こったことが理解できずに呟く。
サリエやリーゼロッテも驚いている。
「き、奇跡じゃ……」
産婆が呆然とした様子で言った。
「ああ……。神様、ありがとうございます!」
アイリスが涙ながらに天に祈るように手を合わせる。
「この子は神の加護を受けたのかもしれませんね……」
サリエがポツリと言った。
「そうだな。きっとそうに違いない。それに……」
俺はその意見に同意しつつ、傍らに視線を向ける。
(えっへん! わたし、いいことしたよね!)
そこでは、幽霊のゆーちゃんがドヤ顔で胸を張っていた。
(ゆーちゃん、ありがとう……)
俺はゆーちゃんに感謝の言葉を伝える。
彼女にも、改めて礼をしなければならない。
実体化に向けて何かできることがあれば手伝おう。
「ボクの赤ちゃん……。大切な宝物……。生まれてきてくれて、ありがとう……」
アイリスは涙を流し、生まれたばかりの我が子に頬ずりする。
「この子の名は、ボクの名前にちなんで『アイリーン』と名付けようと思う。いいよね? タカシ」
「ああ。女の子が生まれたらそう名付けるという話をしていたもんな」
俺はそう答える。
ハイブリッジ騎士爵家の第二夫人アイリス。
その第一子『アイリーン』は無事にこの世に生を授かった。
こうして、俺たちは新たな命の誕生を心の底から喜んだのだった。
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