【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

651話 は、始まったかも……

 1週間ほどが経過した。
 俺たちハイブリッジ家は平穏ながらも慌ただしい毎日を送っている。
 ミティの体調は順調に回復しており、少しずつ普段の生活に戻っていった。
 ただ、まだ完全ではなく、冒険者活動や鍛冶の仕事は行っていない。
 もっぱらミカの子育てに専念している。
 メイド勢の手伝いもあり、特に問題は発生していない。

「さ、今日も仕事を頑張るか!」

 俺はというと、冒険者活動と領主の仕事を交互にこなしていた。
 それらをこなす合間に、ミティやミカともコミュニケーションを取っている。

「よし。じゃあ、また後でな」

「応援しています。ミカのことは私にお任せください!」

「あうあ~」

 俺は妻と娘に見送って貰いながら、執務室に入る。
 この執務室は、俺の屋敷の一室にある。
 仕事の話をする場合はミリオンズの面々が来てくれることもあるし、暇つぶしとしてふらっと立ち寄ってくれることもある。
 ただし、基本的にはマジメな空間だ。
 気持ちを切り替えて、俺は精力的に書類仕事をさばいていく。

「ふう……。何とか今日の分は片付いたな」

 俺は肩を回しつつ呟いた。
 そんなとき、2人の女性が部屋に入ってきた。

「お疲れー。タカシ」

「頑張ってるねぇ」

 アイリスとモニカだ。
 彼女たちが労いの言葉を掛けてくれた。

「ありがとう。……しかし2人とも、歩き回っていてもいいのか?」

 アイリスとモニカは妊娠中だ。
 普通であれば安静にしていて欲しいところだが、本人はそうでもないらしい。

「うん。こうやって歩くくらいなら問題ないらしいよ。なんだかそわそわしちゃって」

「それに、じっとしていたら不安なんだよ」

「そうか」

 同時期に妊娠したミティはつい先日出産を終えた。
 そろそろアイリスやモニカの出産となるだろう。
 落ち着かないのも無理はない。

「ちょうど仕事がひと段落した頃だったんだ。よければ、一緒にお茶でもどうだ? 」

「うん! ありがとう」

「ありがたく頂こうかな」

 2人を執務室のソファーに座らせる。
 俺は備え付けのポットを使い、紅茶を入れた。

「はい。熱いから気をつけてくれ」

「はーい」

「ん……美味しいね」

「それは良かった。ところで……」

 俺は話を切り出す。

「2人共、出産が間近になっているよな。子どもの名前は以前決めた通りでいいか?」

「もちろん。エドワード司祭に姓名判断もしてもらったし、ボクの名前の要素も含んでいるし。ばっちりだよ!」

 アイリスが笑顔でそう言う。
 俺は転移魔法陣をゾルフ砦に設置済みだ。
 時おりアイリスと共に訪れ、エドワード司祭やメルビン師範と近況を報告しあっている。

「私も問題ないよ。ずいぶんと悩んだけど、いい名前を用意できたと思う」

 モニカは子どもの名付けで長い間悩んでいた。
 ミティとアイリスは結構あっさりと決めてくれたのだが、モニカは本当に大変そうだった。
 俺も何度も相談に乗り、ようやく決まったのだ。

「そうか。それを聞いて安心した」

 俺は安堵の息を漏らす。
 名前を考えるというのは難しいものだ。
 この世界における名付けの習慣は、現代日本の感覚とさほど変わらない。
 両親が考えて決定する。
 父や母の名前の一部を引き継ぐ場合もあるし、まったく無関係な名前を付けることもある。
 何かしらの意味を込めた名前にすることもあれば、語感のいい流行りの名前にすることもよくあると聞いている。
 字画数による姓名判断も一部では行われているそうだ。

「すまんな。貴族の暗黙のルールとやらを押し付けてしまって」

 俺はそう謝罪する。
 貴族界における一夫多妻の夫婦の場合は、名付けにおける暗黙のルールというものがある。
 それは、妻側の名前の一部を子どもに付けること。
 ミティの子どもをミカと名付けたような感じである。

 アイリスの子どもやモニカの子どもも、そのルールが適用される。
 別に絶対に遵守しなければならないわけではない。
 アイリスやモニカが嫌がるようであれば、自由な名付けにしても構わない。
 俺としては彼女たちの希望を尊重したかった。

「ううん。全然気にしてないよ。親の名前を意識した名付けにするのは、ボクの故郷でもあった文化だし」

 アイリスがそう答える。
 俺は彼女の両親の名前を知らない。
 ただ、姉の名前は知っている。
 ”閃光”の二つ名を持つ凄腕の武闘神官、メイビスだ。
 アイリスと若干ながらも語感が被る部分がある。

「私も特に拘りはなかったし、別に大丈夫だよ。むしろ、名付けの方向性すらなかったらもっと悩んでいたかもしれないし、ありがたいかもね」

 モニカもそう言ってくれる。
 彼女の父親はダリウスで、母親はナーティアだ。
 語感としては、モニカと何の共通項もない。
 こちらは語感から名付けられたわけではないようだ。

「ありがとう。2人の子どもは、きっと強く育つだろうな。人助けに奔走したり、料理をマスターしたり……。あるいは、俺たちとはまったく別の道に進むかもしれないが。いずれにせよ楽しみだ」

「ふふふ。タカシってば気が早いよ」

「確かに。まだ生まれてすらいないのにね」

 アイリスとモニカは微笑む。
 と、そのときだった。

「うっ!? いたた……」

「アイリス? どうした?」

 俺はそう声を掛ける。

「は、始まったかも……」

 アイリスが顔をしかめながらも、どこか嬉しそうな表情でそう言った。

「ほ、本当か! よし、すぐにメイドと産婆を呼ぶ。モニカ、すまんがアイリスを……」

 俺はそう言いながら、モニカに視線を向ける。
 だが……。

「ごめん。ちょっと無理っぽい」

「え? ど、どういうことだ?」

「あはは。私も始まっちゃったみたい」

「モニカまで? ちょ、ちょっと待っていてくれ! すぐに人を呼ぶ!」

 まさか2人同時にとは思わなかった。
 俺は慌てて部屋を飛び出す。
 出てすぐの廊下に、クルミナが待機してくれていた。
 俺、アイリス、モニカが執務室に入っているのを知って、用命がないか待っていたようだ。

「お館様。どうかなさいましたか~?」

「ああ、アイリスとモニカが産気付いた。2人の様子を見守っておいてくれ。俺は他の者に声を掛けてくる」

「かしこまりました。ただちに」

 クルミナはすぐに行動してくれる。
 俺は大急ぎで屋敷の中を走り回った。
 そして、屋敷中の人を集め、産婆を呼び出し、出産の準備を整えてもらうのだった。

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