【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

637話 合同結婚式 ブーケトス 後編

 ブーケトスが行われている。
 ユナのブーケはクリスティが、リーゼロッテのブーケはシャルレーヌが勝ち取った。
 残るブーケは3つ。
 マリア、サリエ、ニムのブーケである。

「ぬおおおぉっ! サザリアナ王国第三王女として、負けるわけにはいかん!」

 ベアトリクスがそう吠える。
 彼女の戦闘能力は、ブーケトスの参加者の中でも頭一つ抜けている。
 だが、最初は他のブーケを狙っていたため、やや出遅れている感じだ。
 二兎を追う者は一兎をも得ず、というやつである。

「ひっ! 第三王女様……。し、しかしこの場では遠慮はいらないはず! わたしの全力をもって勝利させていただきます!」

 レインがベアトリクスを見て怯むが、すぐに気を取り直す。
 そのままブーケに肉薄し、手を伸ばした。
 マリアのブーケはレインのものになったか。
 俺がそう思った、その時。

「影魔法。【朧】」

 どこからともなく、黒い影が現れた。
 その影はブーケを包み込んだかと思うと、人型に変化した。
 現れたのは、月だ。

「私の勝利ね!」

 彼女が勝ち誇った顔を見せる。
 そしてブーケを高々と掲げた。
 ん?
 いや、あれは……。

「うふふ。月さんと言いましたか。あなたは何を持っていますの?」

 千が余裕の表情でそう問いかける。

「え? それはもちろんブーケ……って、あれっ!?」

 月が掴んでいる物を確認したとき、彼女の手の中からブーケが消えた。
 いや、違うな。
 あれは最初からブーケではなかったのだ。
 ただの木の枝だった。

「闇魔法【黒霧】で作りだした幻覚ですわ。本物のブーケはこちらです」

 そう言って、千は別のブーケを月に見せた。

「そ、そんなぁ~。ズルいわよ!!」

「うふふ。魔法も実力の内……。悪く思わないでくださいね」

 悔しがる月に対して、余裕の笑みを浮かべて返す千。
 これでブーケは残り2つだ。

「ぐぬっ! お、王家の娘として、このような屈辱を受けるわけにはいかぬ! ここで負けてたまるか!!」

 ベアトリクスがさらに闘気を纏う。
 狙いはサリエのブーケだ。
 しかし、今までの争奪戦で出遅れている彼女が今さらブーケに辿り着けるとも思えないが……。

「【天剣絶刀】」

 彼女の手に光り輝く剣が生成され、ブーケに伸びていく。
 遠距離からブーケをかすめ取ろうというわけか。
 何だか危なっかしいが、ベアトリクスもそのあたりは考えている。
 見た感じ、あの光る剣に殺傷能力はないな。
 ブーケの争奪戦用に威力を抑えているようだ。
 彼女の光る剣がブーケに突き刺さろうとした、そのとき。

「【瞬動】」

「むっ!? ああっ、我がブーケが!!」

 突如、横合いから現れた何者かがベアトリクスが狙っていたブーケを奪い去った。
 ベアトリクスが叫ぶが、もう遅い。

「失礼致しました。サリエお嬢様のブーケは私がいただきます」

 簒奪者の正体はオリビアだ。
 彼女はベアトリクスの剣が追いつく前に、一瞬でブーケを確保したのである。

「なにぃ! いつの間にそこにいたんだっ!」

 ベアトリクスが驚くが、俺からは見えていたぞ。
 オリビアは気配遮断系のスキルを持っているようだな。
 ハイブリッジ杯や普段の狩りでも感じていたことだが、彼女は隠密系統の能力に秀でいている。
 ひっそりとブーケをゲットしたオリビアは、そのままその場を離れていった。

「くぅ! だが、まだ希望は残っている!」

 ベアトリクスが諦めずに、今度はニムのブーケを狙う。
 これが最後のブーケ、最後のチャンスだ。

「……ボクもまだ諦めていないよ……」

「この機会は逃さないわ!」

「花ちゃんだって~」

「ぬおっ! また貴様らかっ!」

 ベアトリクスの行く手を阻むように、雪月花の3人が現れる。

「ちいっ! だが、負けん! 負けんぞぉぉぉぉぉぉ!!!」

 ベアトリクスの気合と共に、闘気が膨れ上がった。
 どうやら彼女の闘気は感情に左右されるようだ。

「ぬおおおおぉっ!」

「……っ」

「負けないわよっ!」

「楽しいね~」

 ベアトリクス、雪、月、花。
 それぞれが想いを乗せ、ぶつかり合いながらブーケに迫っていく。
 皆、自分のブーケを諦めてはいない。
 ブーケはあと1つ。
 あと少し……あと少しなんだ。

「【氷壁】」

「むっ! じゃ、邪魔だぁーっ!!」

 ベアトリクスの行手に、雪が氷の盾を展開する。

「ふんっ! この程度の壁など!」

 彼女はあっさりと障壁を突破した。
 だが、その一瞬の遅れが命取りになる。

「ウッドバインド~」

「【影縫い】」

 花と月もお互いに妨害し合う。
 最後の最後に泥沼だな。
 だが、そんなときにブーケの落下地点にひょっこりと姿を現わす者がいた。

「これは私がいただきます!」

「……あっ!」

「ネリーさんっ!?」

「いつの間に~?」

 雪月花が悔しがるが、時すでに遅し。
 合同結婚式の司会を務めていたネリーの参戦だ。
 そういえば、開始の合図以降に彼女の実況がなかったな。
 少しだけ違和感を覚えたのだが、こういうことだったのか。

「ふふふ……。これで私の勝ちですね」

 ネリーはブーケを高々と掲げて勝利宣言をする。
 これで、すべてのブーケが揃った。

「さぁ、皆さま。お手元のブーケは、新郎新婦のご厚意により持ち帰ることが許可されています。縁起のいいものですので、しっかりと大切に飾りましょうね!」

 ネリーがそう説明する。
 ブーケを勝ち取ったクリスティ、シャルレーヌ、千、オリビア、ネリーは満足げな表情をしている。
 一方で、惜しくも獲得できなかったクトナ、雪月花、レイン、その他の参加者は悔しそうだ。
 その中でも特に悔しそうな顔をしているのがベアトリクスだ。

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……」

「残念だったな、ベアトリクス殿下。まあその、なんだ。きっといいことあるさ」

 俺はそう投げやり気味に慰める。
 そして、彼女の肩に手を掛けようとしたが……。
 パシッ!
 彼女に軽くあしらわれる。

「くっ! これで勝ったと思うなよ! この雪辱は王都で必ず晴らす!!」

「お、おう……」

 なんでや!
 ブーケトスに俺は直接関係ないやろ!

 ……とは言わないでおこう。
 今の彼女に何を言っても、火に油を注ぐことになってしまう。
 彼女がわざわざ王都を指定したのは、おそらくホームグラウンドならば落ち着いて戦えるという意味合いだろうな。
 近い内に叙爵式が予定されているし、そのときに戦うこともあるかもしれない。

 なんにせよ、これで結婚式は終わりだ。
 この後は、余興として食事会が予定されている。
 また、王侯貴族の参加者に対して、ハイブリッジ家の発展ぶりや有能な配下をアピールする場も設けている。
 ドヤ顔をさせてもらうことにしよう。

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