【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

584話 兄からの謝罪

 ニルスとハンナが生まれ故郷の村に食料を持って帰ってきた。
 荷馬車は、ユナや蓮華と共に村の入口あたりで待機中だ。
 まずは兄と会話した。
 その後は村長とも話をつける。

「ふうむ。なるほど。あの有名な新貴族に召し抱えられたのか……」

 村長がそう呟く。
 タカシ=ハイブリッジ騎士爵の名は、こんな田舎村にも届いていた。
 まさか、平凡なニルスとハンナが目をかけられているとは夢にも思わなかったが。

「ええ。とても幸運でした。俺の故郷であるこの村が困窮していることを知り、食料支援を約束してくれたのです。配下の者に優しい、素晴らしい主人です」

 ニルスが誇らしげに語る。
 実際、その言葉には嘘偽りはなかった。

「そうか……」

 村長は、ニルスとハンナが故郷へ戻ってきたこと自体は喜ばしいと思っていた。
 だが同時に、少し複雑な気分でもあった。
 飢えを凌ぐためとはいえ、ニルスとハンナを口減らしのために奴隷として売った過去があるからだ。

 そんな自分たちに対して、彼らは食料支援をしてくれるという。
 うますぎる話だが、ニルスとハンナは悪巧みをするようなタイプではない。
 それに、新興貴族のハイブリッジ騎士爵と言えば、極度の女好きであることを除けば、概ね善良で優秀な人物だと噂を聞いたことがある。

 ニルスとハンナのうますぎる申し出は、嘘や何かの罠などではないのだろう。
 しかし、それでも彼の罪悪感が消えることはなかった。

「(……まあ、そんなことを考えても仕方ないか)」

 村全体の飢えを解決できるのであれば、個人の罪悪感など取るに足らない。
 村長はすぐに気持ちを切り替えた。

「それで、食料の支援についてだが……。いつ頃持ってきてもらえるんだ?」

「もう持ってきています」

「何だと?」

 ニルスの答えに、村長が驚く。

「村の入口あたりで、荷馬車を止めています。村に入れる前に、村長の許可を得ておこうと思い、こうして話をしているのです」

「そ、そうか。では、早速、見せてもらえるか?」

「はい」

 ニルスがうなずく。
 そして、ハンナ、ニルス、ニルスの兄、村長の4人で村の入口へ向かう。

「ふふん。その顔だと、話は通せたみたいね」

「何よりでござる」

 ユナと蓮華がニルスたちを出迎える。

「ええ。……まずは持ってきたものを一度見てもらいましょうか」

 ニルスが荷台の方に歩いていき、大きな箱の蓋を開ける。
 兄と村長がその中を覗き込む。

「「こ、これは……!?」」

 彼らが目を丸くする。
 そこには、様々な種類の野菜や果物がぎっしりと詰まっていた。

「凄いな……。どれも新鮮で、おいしそうだ。もしかして、この荷台の箱全部にこれだけの物資が入っているのか?」

「ああ。それに、アイテムバッグにもいくつか入れている」

 兄の問いに、ニルスがそう答える。

「なるほど……。これなら、村全体に行き渡るだけの食料を確保できる。ニルスにハンナ、ありがとう」

 村長が頭を深く下げる。

「いえ。俺たちは大したことをしていません。なあ? ハンナ」

「ええ。その感謝の気持ちは、我が主のハイブリッジ騎士爵に伝えておきますね」

 ニルスとハンナが謙遜してそう言う。
 実際のところ、農業改革の成功はタカシの潤沢な資金や人脈に主に起因していた。
 彼の現代日本の知識チートも多少は役立っただろう。
 だが、ニルスとハンナが成功のために頑張ったことも事実だ。

「……ニルス。この食料を受け取る前に、1つだけ伝えておきたいことがあるんだ」

「何だよ? 兄さん」

 兄の言葉に、ニルスが首を傾げる。

「先ほどは侮辱するような態度を取ってしまった! 本当に申し訳ない!!」

 兄が深々と頭を下げる。
 その姿を見て、ニルスは驚きの表情を浮かべた。

 村に戻ってきた自分の姿を見るやいなや、逃亡奴隷かと疑ってかかったことへの謝罪だろう。
 確かに、ニルスとしても兄の態度に落胆したことは事実だ。

 だが一方で、兄が懸念していたことも一般的に見れば妥当性のある内容である。
 逃亡奴隷を村ぐるみで匿ったと認定されれば、村全体に不利益が降りかかるのだ。
 もともと貧しい田舎村にそうした疑いがかかれば、致命的だ。

 また、ニルスの主であるタカシを侮辱したことへの謝罪でもあるのだろう。
 しかし、あれはニルスの気持ちを慮った軽口だった。
 奴隷というのは、普通は主人に多少の反感や不満を持つものだからだ。
 まさか、ニルスがこれほどまでに主人に忠誠を誓っているとは夢にも思わなかったはずだ。

「兄さんが謝ることなんて何もないさ。兄さんの言っていたことは、もっともだからな。奴隷として売られた俺たちが、食料を持って村に戻ってくるなんて普通は想像できないだろう」

 ニルスがそう言う。
 実を言えば、つい先ほどまでは兄への不満を内心に抱きつつ、食料支援の話を進めていた。
 だが、こうして素直に謝られては、兄を許さざるを得ない。
 主人がこの場にいても、同じように許したはずである。
 器がとんでもなく大きなことをニルスは知っていた。

 兄も、悪気があってああした態度を取ったわけではないのだ。
 奴隷の故郷に食料支援を行う者など、世界広しといえどもハイブリッジ騎士爵様ぐらいなのではないか。
 ニルスはそんなことさえ考えていた。

「そう言ってくれると助かる……。お詫びをしたいが、お前も知っての通り、この村には余裕がなくてな……」

「いいさ。もともとお礼を目当てに来たわけじゃないんだ」

 ニルスが苦笑しながら答える。

「ニルス……」

 実際、ニルスにとって、村の窮状を救ったことは見返りを求めるような行為ではなかった。
 だが、兄は簡単には引かない。

「……そうだ。これだけの食料があれば、俺も元気に動き回れるようになる。お前も知っている通り、俺はこの村でもトップクラスに強いんだぜ。久しぶりに武闘の稽古をつけてやろう」

 兄がそう提案する。
 彼らが幼少の頃には、村はもう少し余裕があった。
 元気に駆け回ったり、武闘の鍛錬に励んだりもしたものだ。

 兄は村の中でも相当に上位の実力の持ち主であった。
 ニルスが彼に勝ったことは一度もない。

「そうだな……。じゃあ、せっかくだしお願いしようかな」

 ニルスがそう返答する。
 彼としても、今の自分の実力を確認しておきたい気持ちがあった。
 仕事の合間に、アイリスやクリスティたちと共に武闘の鍛錬に励んでいる。

 その上、ちょうどハンナと結婚した頃から、すこぶる体の調子がいいのだ。
 今なら、もしかするとあの兄といい勝負できるかもしれない。
 彼はそんなことを考えつつ、兄、ハンナ、村長たちと共に食料の分配方法などについて詰めていったのであった。

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