【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

583話 故郷の村に到着

 数日後。
 ニルスやハンナたち一行は、無事に故郷の村へ到着した。

「道中の護衛、本当にありがとうございました」

「助かります。おかげで、この食料を村まで運べました」

 彼らが、同行していたユナや蓮華、それにトミーや雪月花に頭を下げる。

「へへっ。礼ならタカシの旦那に言わねえとな。俺たちはただ依頼をこなしただけだ」

「そうね! 帰ったら、しっかりとタカシさんに報告しておきなさい! この月が、ちゃんと役目を果たしたとね!」

「ええ、わかりました!」

「はい、必ず伝えます!」

 ニルスとハンナは、改めて深く頭を下げる。

「では、村長に話をつけてきます」

「少しお待ちください」

 そう言って、ニルスとハンナは村の中へと入っていく。
 まずは、村長の家に向かおう。
 ちなみに、ニルスの実家も同じ方面だ。
 その道中で、ニルスがぽつりと言葉を漏らす。

「……懐かしいな。もう1年以上ぶりか」

「そうだね。あの時は、まさかこんなことになるなんて想像すらしていなかったよ」

「ああ。口減らしで奴隷として売られ、お先真っ暗だと絶望していたんだがな。それが今では、お館様に召し抱えられ、破格の待遇で働かせてもらっている。その上、故郷への食料支援まで実現させてくれた。信じられない奇跡だよ」

 ニルスがしみじみと言う。

「うん。ほんとうに良かったよね」

 ハンナも、ニルスの言葉に同意する。

「しかしこうして改めて見ると、この村の寂れ具合はひどいな」

「そうだよね。でも、それも仕方ないかも。みんな、日々の暮らしで精一杯なんだもん」

「……確かにな」

 そうこうしているうちに、村の中ほどに到着した。
 近くを歩いていた村人たちが、彼らの存在に気付く。

「こんな村に旅人か? ……って、ニルスじゃねえか! 久し振りだな!」

「それにハンナもいるじゃない!」

「帰ってきたのか! いつの間に!」

 ニルスとハンナの顔見知りらしい人々が、次々と声をかけてきた。

「ああ。久しぶりだ」

「みんなも変わっていないようね」

 ニルスとハンナがそう答えた。
 そのとき、少し離れたところからまた別の者がやって来た。

「ニルス。なぜお前がここにいる?」

「兄さん……」

 話しかけてきたのは、ニルスの兄だ。

「まさか、逃亡したのか? 奴隷の脱走は重罪だと、あれだけ言っただろう?」

 確かに、奴隷が脱走することは重罪として知られている。
 仮にニルスが脱走奴隷であり、この村がそれを匿ったとバレれば、村ごと罪に問われる可能性もある。
 兄の懸念も当然だろう。
 だが、ニルスは若干の落胆を感じていた。

「(奴隷として売られていった弟と再会して、第一声がそれか……)」

 自分の売却金により、この村は一時的に飢えをしのげたはずである。
 その事実を知っているはずなのに、こんなことを言われるとは思っていなかった。
 別に涙を流して感謝しろとは言わないが、もう少し何かあってもいいのではないか。
 ニルスはそんな感情を抱いた。

「…………」

 ニルスが無言のまま立ち尽くす。

「どうしたニルス。黙り込んで」

「あ、いや……」

 兄の態度に落胆を覚えたのは確かだが、そんなことで村への援助を撤回するつもりはない。
 兄だけではなく他の村の者たちのためでもあるし、彼の主であるタカシの厚意を裏切るわけにもいかないからだ。

「ふん。まあいい。それより、さっきの質問に答えろ。お前は逃げてきたのか?」

「いや違う。俺はちゃんと許可を得た上で、この村を訪れたんだ」

「許可だと? 誰の許可を得たというのだ」

「もちろん俺の主だ。そして、ハンナの主でもある」

 ニルスがそう答える。

「なるほど……? 2人で同じ奴に買われたのか。ずいぶんと物好きな奴らしいな」

「物好きだと? どういう意味だ?」

 ニルスとハンナは、元はごく一般的な村人だ。
 特別に優秀なところはなかったものの、逆に何の使い道もない人材というわけでもない。
 奴隷としての価格も適切に設定されているし、彼らを購入したからといって物好きだと判断するのはおかしい。

「そのままの意味だ。恋仲の2人を並べて、いろいろとお楽しみなんだろ? 成金の商人か、貴族のボンボンか……。どうせくだらない男なんだろうな」

 ニルスの兄がそう吐き捨てる。
 恋仲の男女の奴隷を購入し、男が見ている前で女を犯す。
 あるいは、その男女を自分の目の前で絡ませる。
 特殊な趣味を持つ者であれば、確かにそうした用途で奴隷を購入することも考えられる。

「何だと! お館様を侮辱するな!!」

「お、おいおい。急に怒るなよ。ただの冗談じゃないか」

 ニルスが怒鳴り声に、兄が面食らう。
 掴みかからんばかりの勢いのニルスを、ハンナが何とか押し止める。

「お、落ち着いてよ、ニルス。早く本題に入ろう」

「…………そうだな」

 ニルスが何とか落ち着きを取り戻す。
 ハンナはそんな彼の肩に手を置いた。
 それから、ニルスが改めて口を開く。

「兄さん。今日はいい話があって来たんだ」

「ほう。どんな話だ?」

「食料支援だよ」

「食料支援?」

 ニルスの言葉に、兄が首を傾げる。

「ああ。この村は、まだ食料が不足しているんだろう? 見れば分かるよ」

「確かにその通りだ。特にここ最近は、気候が安定していないことに加え、魔物の数も多くてな。1匹1匹はさほど強くなくとも、数が多い。作物がやられちまっている。その上、瘴気に汚染されているせいで食えないタイプの魔物だからな……」

 ニルスの兄が悔しげにそう呟く。
 天候に、魔物の発生。
 田舎の村にとって、それは対処が難しい問題であった。
 領主に陳情もしているのだが、何か事情があるのか、なかなか有効な手を打ってもらえていないのが現状だ。

 ニルスたちが持ってきた大量の食料は、村の窮状をひとまず解決する手助けになるだろう。
 彼はそんな確信を抱きつつ、兄と話を続けていくのだった。



--------------------------------------------------



 いつもお読みいただき、ありがとうございます。
 毎日更新を始めて、早いもので(?)500日が経過しました。
 文字数も200万字を超えました。

 初投稿の本作の他、10万字以上の長編作品だけでも5作、数万字の中編や1万字以下の短編を含めると20作以上投稿してきましたが、やはり本作には特別な思い入れがありますね。
 まだまだ毎日更新を継続していきますので、引き続きお楽しみいただけると幸いです!

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品