【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

508話 ヴィルナvsセバス

 ハイブリッジ家のトーナメントが開催されている。
 今で一回戦の半分が消化された。
 勝ち残っているのは、ミティ、ニム、キリヤ、蓮華だ。

「さあ、次も注目の試合です! ハイブリッジ家の執事にて重鎮、セバス選手! 対するは、ハイブリッジ家の一般警備兵ヴィルナ選手! この二人がどのような戦いを繰り広げるのか、目が離せません!」

 実況のネリーが盛り上げるように言う。

「一回戦の相手はセバスさんですか。がんばれば勝てそうですね」

 ヴィルナはDランク冒険者だ。
 兎獣人としての超聴覚を駆使して安定した活躍を見せていたそうだ。
 ちなみに元パーティメンバーたちは他の街に活動拠点を移したらしい。
 俺が領主に就任する少し前のことである。

「ほほ。まだまだ若い者には負けませんよ。どれ、少し稽古を付けてあげましょう」

 セバスがそう言う。
 彼は初老の執事だ。
 年齢的にも本職的にも、戦闘には向いていないように思われるが……。
 本人やレインの様子から察するに、一定以上の戦闘の心得があるようだ。
 どれくらい強いのか、見ものである。

「それでは試合開始!!」

 司会のネリーがそう叫ぶ。
 そして、試合が始まった直後。

「ふっ!」

 先に仕掛けたのはセバスの方だ。
 懐に手を入れたと思ったら、何かを取り出して投げた。

「なんだ? あれは?」

 俺は首を傾げる。
 ブーメランのような形状をしている。

「…………? そんなもの、いくら私でも躱せますよ!」

 ヴィルナが軽く回避する。
 彼女は直接の戦闘能力よりも、索敵能力や回避能力に優れている。
 ただのブーメランに当たることはない。

「ほほ。ここからです」

 バッ!
 彼が懐からさらに2つのブーメランを取り出した。
 それらを投げる。
 そして、最初に投げた2つのブーメランが戻ってきたのでキャッチする。
 
「無限四刀流!! くらいなさい!!」

 ギュン、ギュン!!
 ブーメランがヴィルナを襲う。

「くっ!」

 彼女がそれを避ける。
 しかし、動きを読んでいたセバスが先回りしていた。
 彼が手にしたブーメランでヴィルナを攻撃する。

「ほほ。上下左右、正面背後。あらゆる角度から無数の刃があなたを切り刻みます!!」

 セバスが得意顔でそう言う。

「この無限攻撃をかわすのは不可能!! さあ、どうしますか!?」

 彼がさらなる攻撃を仕掛けていく。
 飛び道具としての2つのブーメランに、彼が手に持った2つのブーメラン。
 合計4つの刃がヴィルナを襲う。
 彼女が徐々にダメージを負っていく。

「うう……。強すぎます……。私がこんな場に出るなんて、不相応だったのですね……」

 ヴィルナが諦めたような表情を浮かべる。

「ヴィルナさん! 諦めないで!」

 観客席から同僚のヒナが声援を送る。
 彼女たちは普段からそこそこ仲がいい。

「でも……」

 ヴィルナはなおも弱気だ。
 セバスという格上の実力者を相手に、心が折られそうになっている。

「ふっ。ヴィルナ! 俺はお前を信じているぞ! お前ならできる!」

 キリヤがガラにもなく大声を出して声援を送る。

「…………! は、はい! がんばります!」

 彼の激励を受けて奮起したのか、ヴィルナが再び構えた。

「その意気やよし。どこまで耐えられるか、楽しみですね」

 セバスの顔から笑みが消える。

「そろそろ本気でいきましょう。はあああぁ……」

 彼が闘気を高めていく。

「私も奥の手を出します! まだ不安定だけど、これに賭けるしかない! はああっ!!」

 ヴィルナも負けじと闘気を高めていく。
 二人のオーラが最高潮に達する。
 ゴクリ。
 会場中が息を呑む。

「青竜族竜化」

 セバスの体表に青い鱗が出現し、彼を包み込む。
 彼が半竜人とでも呼ぶべき状態になったのだ。

「銀兎族獣化」

 ヴィルナの周りにも銀色の毛皮が出現する。
 獣化術か。
 赤狼族のユナの獣化術と、おおよそのイメージは似たようなものだろう。
 身体能力や、特定の魔法の適正が一時的に向上しているのだと思われる。

「おおっと! これはすごいことになりました!! 解説のお二方、これはどうしたことでしょうか!?」

 ネリーが興奮気味に話を振る。

「セバスは、ハルク男爵家に代々使える戦闘執事の家系です。先祖に竜人の血が混じっていて、血が濃い者は竜化の技を使えるのです。私も見るのは始めてですが」

 サリエがそう解説する。
 竜人は、このあたりでは珍しい種族だ。
 しかし、激レアというほどではない。

 1年前のガルハード杯にも1人出場していたはず。
 ええと、確か名前はラゴラスだったか。
 竜人の里は、ここから北北西のウェンティア王国からさらに西部に向かった方面にあると聞いたことがある。
 機会があれば訪れてみてもいいかもしれない。

「ふふん。ヴィルナちゃんは、銀兎族だったのね。赤狼族ほどじゃないけど、あまり数は多くない種族だわ」

 ユナがそう言う。

「なるほど! 解説ありがとうございました! さあ、お互いに奥の手を出して、勝負はどうなるのか!? 注目しましょう!!」

 ネリーが興奮気味にそう叫ぶ。

「はっ!」

 先に動いたのはセバスの方だった。
 4つ全てのブーメランを投げつつ、自身は上空へと高くジャンプする。
 そして、滑空するかのように勢いをつけてヴィルナに向かい始めた。

「秘技! 竜星飛翔!!!」

 4つのブーメランとセバス自身のタックル。
 波状攻撃がヴィルナを襲う。

「……全てを照らす光よ。我が敵を撃て! ソーラーッ! レイッ!!!」

 ヴィルナの魔法が発動した。
 彼女の手から光線が放たれ、4つのブーメランとセバスを包み込む。

「なっ!?」

 ブーメランは勢いを失い落下する。
 そしてセバスは……。

「眩しい!! 目がっ!!!」

 ヴィルナが放った光の奔流によって目を焼かれていた。
 彼の滑空が勢いを失う。
 その隙を逃さず、ヴィルナはセバスの懐に飛び込んだ。

「銀・裂空脚!!!」

 そのまま回し蹴りを叩き込む。

「ぐはぁ!?」

 セバスが吹き飛ばされる。
 かなりのダメージが入っているはずだ。

「おおっとぉ! セバス選手、場外だ! 時間内に復帰できるか!?」

 ネリーがそう叫ぶ。
 試合の終了条件は、気絶、降参、ダウン10カウント、場外10カウントなどである。
 10秒以内にセバスが戻ってこれるかだが……。

「…………ほほ。かなりの威力でしたね」

「うそっ……。まだ立てるの……?」

 ヴィルナが驚いたように目を見開く。

「はあ、はあ……。私、もう……」

 彼女の息が上がっている。
 闘気や魔力切れの症状だ。
 獣化の技は練習中だと言っていたし、まだ未完成で不安定なのだろう。
 彼女のリタイアで決着か?
 俺はそう思ったが……。

「ここまでですね。私の負けですよ」

 セバスが降参を宣言した。
 まあ、彼も相当にボロボロだしな。

「しょ、勝者! ヴィルナ選手!!」

 ネリーが試合終了を宣言する。
 ヴィルナとセバスが健闘を称え合う。
 2人とも、想像以上の戦闘能力だった。
 今後にも大いに期待できるな。

 そしてキリヤがヴィルナを控え席で出迎え、労う。
 この2人も進展しそうで進展しない関係性なんだよな。
 ヒナとトリスタみたいに、スキがあればくっつけてしまおうか。
 二回戦以降でタイミングをうかがうことにしよう。

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