４８０話　久々の我が家

　ラーグの街の近郊にて、ファイティングドッグ狩りをしているキリヤたちと遭遇した。
　彼らと軽くあいさつをしてから、俺たちは街へと馬車を進める。
　街へ入り、領主邸の前までやってきた。

　俺たちミリオンズは、馬車を降りる。
　トミーや雪月花たちも同じく下車している。

「トミー、それに雪月花。ここが領主邸だ。この街を拠点に活動する上で何か困ったことや気づいたことがあれば、いつでも来てくれ」

「了解しやした！」

　トミーがそう返答する。

「ふん。成り上がり貴族にしてはずいぶんとまともな邸宅じゃないの」

「大きいね～。ハナちゃんのお部屋はあるかな～？」

「……確かに大きい……」

　ツキ、ハナ、ユキがそう言う。
　大きい？
　俺の屋敷は一般人としてはとても大きい。
　しかし、貴族家としてはやや物足りないぐらいと思っていたが。
　俺は改めて屋敷のほうを注視する。

「……む？　おお、別館が完成しているじゃないか！」

　俺はそう言う。
　３か月ほど前に俺たちがこの街を出発した時点で、俺の屋敷の敷地内には建物が３つあった。

　俺たちミリオンズが住む本館、キリヤやクリスティたちが住む仮設住宅、そして建設中の別館だ。
　その別館が無事に完成している。
　ここで、俺の屋敷の敷地内のレイアウトを整理しておこう

＋ーーーーーーーーー＋
筋○○○○○○○弓
○○○○○○○○○
仮○○館館館○○別
仮○○館館館○○別
仮○○○○○○○別
仮○○畑○畑○○別
○○○畑○畑○○○
○○○○○○○○馬
＋ーーーー門ーーーー＋
道道道道道道道道道道道
　　　　現在地

　別館が無事に完成したことにより、外から見たときの屋敷の迫力はひと回り増した。
　さすがに伯爵家であるラスターレイン邸には及ばないが、ハルク男爵邸にはかなり近づいた。

「ふふふ。俺も、騎士爵として胸を張れる屋敷を構えられたことになるな。どうだ？　せっかくだし、見学していくか？」

「そうさせてもらおうかな～」

「……貴族の屋敷に招かれたとなると、箔がつく……」

「伯爵家に続き、騎士爵家ね！」

　ハナ、ユキ、ツキがそう言う。
　うーん。
　やはり、彼女たちは俺の金と地位が目的だな。
　忠義度も微増している程度にとどまる。
　加護（小）を付与できる日はまだまだ先になりそうだ。

　俺たちミリオンズ、そして雪月花とトミーたちで、屋敷の正門から入ろうとする。
　門の前には、２人の警備兵が立っている。

「おお、タカシ殿！　無事に帰ってきたか！」

　２人組の片割れであるネスターがそう言う。
　彼は３０代の男性だ。

「ずいぶんと同行者が多いみたいだけど……。奥方さんたちも全員元気そうね」

　もう片割れのシェリーがそう言う。
　彼女は３０代の女性である。

　ネスターとシェリーは、両者とも元冒険者の借金奴隷である。
　高価な品物を運ぶ依頼で失敗してしまい、多額の借金を背負ったのだ。
　俺が彼らを購入し、今は屋敷の警備兵として働いてもらっている。
　待遇としては、先ほど街の郊外でファイティングドッグ狩りをしていたクリスティと同様である。

　彼らは奴隷落ちした後に肺の病を患ってしまっていた。
　そのため、やや割安で購入することができた。
　俺とアイリスの治療魔法により治療したことにより、その病も完治した。
　そのおかげで、忠義度も３０を超えている。
　ずいぶんと割安で良質な配下を増やすことができたことになる。

「きちんと警備をしてくれていたようですね。ご苦労様です」

　ミティが彼らをねぎらう。
　彼女は俺の第一夫人なので、俺の配下であるネスターとシェリーはミティの配下でもあると言っていい。
　目下の者をねぎらうのも大切な仕事だ。

　ネスターとシェリーが門を開ける。
　俺たちは屋敷の敷地内へと足を踏み入れる。
　入ってすぐ、目の前には緑が広がった。
　庭一面の芝生と、その中央にある家庭菜園だ。

「おお、こりゃあすげえ！」

「ひろ～い」

「……これは壮観……」

「なかなかやるじゃない」

　トミー、ハナ、ユキ、ツキが感嘆の声を上げる。
　俺の屋敷の庭の中央にある家庭菜園は、ニムが管理しているものだ。
　ニムは幼少より畑仕事の経験があり、さらにステータス操作により栽培術をレベル３にまで伸ばしている。
　そんな彼女が管理している畑は、見事な彩りで野菜や果実が実っている。

　ちょうど、２人組が畑の手入れをしているところだったようだ。
　彼らがこちらに気づき、佇まいを正す。

「お館様！　お帰りなさいませ！」

「ご創建で何よりです！」

　ニルスとハンナだ。
　ニルスは１０代の少年で、ハンナは１０代の少女。
　両者とも、遠方の村にて口減らしのために売られてしまった奴隷である。
　俺が彼らを購入したので、今は俺の配下だ。

　最初は俺はハンナに手を出そうと思っていたのだが、購入の前にニルスとハンナがもともと恋仲であることが発覚した。
　将来を誓い合っていた２人を引き裂くのも悪いかと思い、俺は彼女に手を出すことをやめ、２人セットで購入した。
　そこそこいい待遇で働いてもらっているため、忠義度もなかなかである。

「うむ。よく働いてくれているようだな」

「そ、そうですね。畑の状態も悪くないです。教えた管理方法を、きっちりとやっていたようです。評価しましょう」

　ニムがそう言う。
　彼女は俺の婚約者であり、第四夫人になる見込みだ。
　ミティと同様のイメージで、俺の配下はニムの配下であると言える。
　きちんと仕事をした者はきちんと評価する必要があるだろう。

「ありがとうございます！」

「これからも頑張ります！」

　２人は頭を下げる。
　と、そんなやり取りをしている間に、屋敷の中から数人の者が出てきた。
　よく知った顔ばかりだ。
　彼らとも、再会のあいさつをしておかないとな。