【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

415話 ドラちゃんのテイム

 俺がファイアードラゴンを討伐すべきかどうか悩んでいたところ、新たなミッションが追加された。
 『ファイアードラゴンをテイムせよ』という内容だ。
 行くべき道を示してくれるのは非常にありがたい。

「ファイアードラゴンよ。少し待っていてくれ」

「ぐすっ。わかった。勝手にいなくならないでね」

 彼女は寂しがりやのようだ。
 実の母親であるフレイムドラゴンは行方不明。
 そして、彼女の言葉を解する人間も俺以外にはいない。
 やっと出会った意思疎通できる人間は、簡単には手放さないだろう。

 俺がこっそり帰ろうものなら、地の果てまで追ってくるかもしれない。
 ここはダンジョン最奥の封印の間である。
 しかし、経年劣化により封印は緩んでいる様子だ。
 先ほどの戦闘の余波により、天井が大きく崩れている。

 頭上には、空が見える。
 今にも降り出しそうな曇り空だ。

 ファイアードラゴンがその気になれば、空を飛んでここから出ることも可能だろう。
 場合によっては、ルクアージュの町民などに被害が出る恐れがある。
 何とかテイムを成功させ、落ち着かせたいところだ。

「ユナ。ちょっと来てくれ」

「ふふん。何かしら? って、おおかた予想はつくけど……」

「このファイアードラゴンのテイムに挑戦してもらいたい。できるか?」

 ユナのテイム術のスキルレベルは4。
 かなり上級の魔物を手懐けることができるはずだ。

「わからないけど……。試してみる価値はあるわね」

 ファイアードラゴンの戦闘能力はかなり高い。
 手懐ければ頼りになる。

 一応、現状でも俺と意思疎通できているので、連れ帰るぐらいは可能だろう。
 しかし、意思疎通できるのが俺1人というのは心もとない。
 ユナがテイムに成功すれば、意思疎通できるのが2人になる。

 加えて、テイムの場合は単なる言語により意思疎通ではなく、魂の繋がりによる意思疎通が可能となる。
 言語による意思疎通と一長一短の関係ではあるが、俺では気づけないような心の機微にも気を配れるだろう。
 ファイアードラゴンの制御には細心の注意を払う必要がある。
 突然機嫌を損ねて、街中などで暴れだしたら一大事だからな。

 ユナがファイアードラゴンの前に立ち、視線を合わせる。

「汝。我が盟友となり、ともに歩むことを望むか? 望むならば、我らの魂の紐付けに同意せよ」

「え? なに? 聞き取りづらい……」

 ファイアードラゴンが聞き返す。
 ユナの言葉は、ファイアードラゴンに一定程度通じているようだ。
 テイム術レベル4の恩恵だろう。
 しかし、やや聞き取りづらいと。

「つまり、俺たちの友としていっしょに付いてくるか? ……ということだ」

「いいね、それ! 付いてく!」

 ファイアードラゴンが嬉しそうにそう言う。
 そして、ユナの魔力とファイアードラゴンの魔力が交差し、結びつこうとする。
 しかしーー。

「うっ! 魂の存在力が強すぎる……。テイムは厳しいかも……」

 ユナがそうつぶやく。
 テイムの難易度は、対象の魔物との友好度や、格に応じて上下する。

「人間ー。がんばって!」

 ファイアードラゴンがそう応援する。
 彼女は、ユナにテイムされることに前向きだ。
 それにも関わらずテイムが難航しているということは、ファイアードラゴンの格が凄まじく高いということである。

「(ユナ。テイム術をレベル5にするか? これまでの戦いでレベルアップしていたから、上げられるぞ)」

 俺はユナにそう耳打ちする。
 ダンジョン攻略中のゴタゴタで後回しにしていたが、みんながそれぞれレベルアップしている。

「(そうね。いい機会だわ。思い切って上げちゃってちょうだい)」

 ユナが即断即決をする。
 判断が早い。
 俺ならもっと迷うかもしれない。
 まあ、普段からある程度は考えていたのだろうが。

 俺はステータス操作で、ユナのテイム術をレベル5にする。

「ふふん。これならいけそうだわ!」

「人間ー。仲良しになろう!」

 ピカッ。
 ユナとファイアードラゴンの魔力が結合し、光が発生する。
 無事にテイムに成功したようだ。
 一方的な主従関係ではなく、パートナーといったところだろうか。

「これからよろしくね。ファイアードラゴン……いえ、ドラちゃん」

 ユナがファイアードラゴンをそう名付ける。
 こんにちは、ぼくドラちゃんです。

「よろしくー。人間たち」

 ファイアードラゴンがそう返す。

「ふふん。私の名前は、ユナよ」

「俺はタカシだ。他にも大切な家族たちがいる。後で紹介しよう」

「わかった。よろしく、ユナ、タカシ」

 俺、ユナ、ファイアードラゴン。
 2人と1匹で手を重ね、友好の証とする。

「す、すげえ……。竜種をテイムしちまった」

「まるで、おとぎ話の主人公みたいだ!」

「いいものを見せてもらった。これは、一生自慢できるな」

 トミーたちがそう言う。
 竜種をテイムするなど、普通はムリだろう。

 今回の場合は、好条件が重なった。
 俺たちミリオンズの抜群の戦闘能力により、ファイアードラゴンを戦闘不能にまで追い詰められたこと。
 俺の異世界言語のスキルにより、正確な意思疎通ができたこと。
 ユナのテイム術のレベルがステータス操作によって5に達したこと。
 ファイアードラゴンが寂しさにより、テイム契約を結ぶことに前向きだったことだ。

 どれか1つでも欠ければ厳しかったことだろう。
 現に、ユナのテイム術がレベル4のままでは、難しかったようだし。
 テイムに成功したのはギリギリだった。

「おめでとうございます! タカシ様!」

「すばらしいですわ。我がラスターレイン伯爵領の民たちも、これで平和に暮らせるでしょう」

 リーゼロッテがそう言う。
 ファイアードラゴンは、寂しさから暴れまわり、その轟音がルクアージュにまで届いていた。
 実害こそまだ出ていなかったものの、領民たちは不安に思っていたそうだ。
 ファイアードラゴンが俺たちに付いてくることにより、それが解消される。

 あたりに少し気の緩んだ空気が漂う。
 ポトリ。
 空から雨が降ってきた。
 先ほどまでの戦闘の余波により崩れた天井から、雨粒が落ちてきたようだ。
 
「雨か……」

「水は嫌い。だれか塞いでよ」

 ドラちゃんがそう言う。
 炎の竜なだけあって、水が苦手なようだ。
 もう少し早く降ってくれていたら、俺たちは戦闘をもっと有利に進められたかもしれない。
 今さら振られても、もう遅い。

「わ、わたしが雨除けを作りましょう」

 ニムがそう言う。
 彼女の卓越した土魔法なら、それも可能だろう。
 さすがに、広範囲にわたって崩落した天井自体を修復するのは難しいか。

「いろいろありましたが、めでたしめでたし、ですわね」

「そうだね。ドラちゃんが住む場所は考えなければいけないけど……」

 リーゼロッテとアイリスがそう言う。
 諸問題は残っているものの、大きな問題は解決したと言っていい。

 これでひと安心だ。
 俺が気を抜いた、そのときーー。

 ピュンッ!
 俺たちの背後から、謎の物体が高速で通り過ぎていく。
 それはファイアードラゴンの腹に直撃した。

「うわああぁっ! い、痛いよぉ……」

 ファイアードラゴンが倒れ込む。
 彼女の腹から血が出ている。

「めでたしめでたし、だと? 考えが甘過ぎる」

「無能のリーゼロッテはこれだから困りますね。危険な竜を放置しておく理由がどこにあるのです?」

 ラスターレイン伯爵家当主のリールバッハに、長男のリカルロイゼだ。
 当主の妻マルセラ、次男リルクヴィスト、次女シャルレーヌもいる。
 先ほどの物体は、おそらくリールバッハあたりが放った水魔法か。

 しかし……。
 何だか彼らが纏う雰囲気が変わっているような気がする。
 剣呑な空気だ。

 そして、彼らの傍らにはーー。

「うふふ。ダンジョン攻略に、ファイアードラゴンの無力化。わたくしの想定以上のご活躍でしたわ。お礼を言わせていただきますね、タカシさん」

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