【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

368話 ソーマとミサの過去

 10年以上前ーー。
1人の男の子と1人の女の子が仲良く遊んでいた。

「ミサひめ。ここはおれにおまかせください! あなたはわたしがまもりぬきます!」

 男の子が木の枝を剣に見立てて構え、そう言う。

「せいきしソーマよ。あなたをしんじています。たのみましたよ」

 女の子が神妙な顔をしてそう言う。

 彼らは、おままごとの最中だ。
領軍の不在のスキを突いた盗賊の襲撃を受けて、騎士が姫を守るというシーンである。
ソーマが騎士役で、ミサが姫役だ。

「はああ! くらえ! こおりの剣!」

 ソーマがそう叫びながら、木の枝で虚空を斬りつける。

「きゃー! ソーマちゃん、カッコいい!」

 ミサがそう歓声を送る。
自分の役どころを忘れている様子だが、子どものごっこ遊びなので仕方ないだろう。
彼らは、楽しそうに遊び続けていった。 


●●●


 その数年後ーー。
ソーマが冒険者として功績を挙げ、”聖騎士”の二つ名とともに騎士爵を授かった頃の話だ。

 ソーマが街を駆けていく。
とある飯屋のドアを開ける。

「ミサちゃん! 俺は、とうとう騎士爵を授かったぞ! これで俺も貴族の仲間入りだ」

 彼が入るなり、大きな声で言う。
その声に反応して、1人の少女が奥から出てくる。

「へえ、よかったじゃない。ソーマっち。……いや、ソーマ様とでも呼んだほうがいいかな? もしくは、マイロードとか?」

 少女が冗談めかしてそう言う。

「寄してくれ。ミサちゃんからそんなふうに言われたら落ち着かない。今まで通り呼んでくれ。……いや」

 ソーマが言葉を途中で止めて、考えるそぶりをする。

「これからは、ファーストネームのシュタインで呼んでほしい」
「え? それって……」

 ソーマの突然の申し出に、ミサが戸惑いの表情を浮かべる。

「……ミサ。俺と結婚してくれ!」

 ソーマがミサの前にひざまづき、騎士の礼を取る。

「ええ!? でも、私なんかじゃ貴族になったソーマっちに釣り合わないよ……」

 ミサとソーマは幼なじみである。
ミサは飯屋の娘。
対するソーマは、冒険者。
数年前までであれば、釣り合いは取れていた。

 しかし、ここ数年でソーマは目まぐるしい功績を挙げた。
そしてとうとう今回、騎士爵を授かるまでに至った。
こうなると、明確に平民と貴族として身分差が生じてしまう。

「そんなこと気にするな。そもそも、俺ががんばってきたのはミサを幸せにするためだぞ! なかなか踏ん切りがつかなかったが……。この叙爵はいい機会だ。結婚しよう、ミサ」

 ソーマがそう言う。
彼はミサへ幼少期よりずっと思いを寄せていたが、勇気が湧かなかったのだ。

「……う、うん! 喜んで!」

 ミサが顔を真っ赤にして快諾する。
ソーマとミサは抱きしめ合い、幸せを噛みしめる。

 そして、そんな彼らを見つめている目がたくさんあった。

「かああー! この店の看板娘のミサちゃんが、とうとう結婚しちまうのかー」
「ちっ。よりによって、ソーマのボウズかよ!」

 この飯屋の常連客たちである。

「まあ、ソーマの小僧はずいぶんとがんばっているみたいだしな……」
「ついに、貴族様になったそうだな。いつまでもガキ扱いはできねえ。仕方ねえから、祝福してやるとするか」

 常連客たちが口々にそう言う。
ソーマが偉くなったとはいえ、彼らはソーマやミサが子どものときから知っている。
彼らにとっては、半ば自分の子どものような存在である。

「ミサちゃんを幸せにしろよ! ソーマのボウズ!」
「おめでとう! だが、泣かしたら承知しねえからな!」

 常連客たちがそう祝福する。

「ああ。ありがとう、オッチャンたち! 俺とミサで、幸せな家庭を築くと誓うよ! なあ? ミサ」
「うん! 私も、がんばってソーマっちを支えるからね。騎士爵の妻として、いろいろと勉強しないと」

 ミサが嬉しそうにそう言う。

「おいおい。これからは、ミサ=ソーマになるんだぞ。名前で呼んでくれよ!」

 ソーマがそう言う。
ソーマは、ファミリーネームである。
ミサは昔の名残でずっとソーマ呼びをしていたが、結婚して姓が同じになる以上は、名前で呼ばなければ不都合がある。

「え、えっと……。シュタイン……くん。これからもよろしくね。えへへ。なんだか、照れくさいなぁ」

 ミサが顔を真っ赤にしてそう言う。
シュタイン=ソーマは、それを幸せそうな顔でそれを聞き届けた。
彼らはみんなに祝福されつつ、新婚生活を送っていくことになる。


●●●


 さらに数年後ーー。
現在からは数年前。

 シュタインは、領主として領内の高ランクの魔物討伐を請け負っている。
内政の知識がない彼が騎士爵を授けられたのは、彼が戦闘能力に秀でているからだ。
こういった魔物討伐は、彼の貴族としての責務である。
彼自身そのことに何の不満もなかった。
ただし、今までは、だが。

 シュタインが、遠征先から早馬で自邸へ急ぐ。
屋敷に着くなり馬から飛び降り、屋敷内へ駆けていく。
目的地は、彼の最愛の妻であるミサの部屋だ。

 バアン!
彼がミサの部屋のトビラを勢いよく開け放つ。

「はあ、はあ……。ミサは!? ミサの容態は!?」

 彼が息を切らせながらそう問う。
ベッドでは、ミサが横たわっていた。
その傍らには、医者や執事、メイドたちが集まっている。
医者が口を開く。

「幸いなことに、命に別状はありません。ただ……」
「よ、よかった……! 俺のミサに何かあれば、どうしようかと……」

 シュタインが安堵の声を漏らす。
彼が魔物討伐の遠征に赴いている間に、ミサが突然倒れ込んだとの連絡があったのだ。
原因は不明である。
不審な女性の目撃証言もあるが、彼女が原因である証拠はない。

「……ううん……」

 シュタインの声がうるさかったのか、ミサが目を覚ます。

「起きたか、ミサ。心配させやがって……」

 シュタインがそう声を掛ける。
しかしーー。

「ええと。あなたはどちら様でしょうか?」

 ミサが無表情にそう問う。

「ミ、ミサ? 何を言っている?」

 シュタインが声を震わせながらそう言う。
彼が1つの可能性に思い当たるが、それを信じたくない気持ちがあった。

 そんな彼の様子を見て、医者が口を挟む。

「シュタイン様。ミサ様は、記憶を失っておられるのです」
「な、何だと!? ……原因は? 治るのか!?」

 シュタインが医者にそう詰め寄る。

「原因は不明です。魔力波を受けたときの症状と似ておりますが、症状はより深刻ですな。記憶だけでなく、人格にも影響が出ております。治療のあても、残念ながら……」

 医者がそう言って、首を振る。

「バ、バカな……。嘘だ。俺は信じないぞ。ミサ、俺は君の夫のシュタイン=ソーマだ。君のために騎士爵としてがんばっているんだ。もちろん覚えているよな?」

 シュタインが一縷の望みをかけてそう言葉を発する。

「申し訳ありません。覚えておりません。しかし、私が貴族であるあなたの妻であるのならば、役割はまっとうしましょう。何でもお申し付けください、マイロード」

 ミサが無表情にそう言う。

「…………っ!」

 シュタインが愕然とした表情で、膝を折る。
彼の精神に大きな動揺が見られる。

 そうして生じた心の隙間に、どこからか小さな闇の瘴気が入り込んだ。
聖騎士ソーマの異変は、この日を境に始まった。

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