【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

290話 闇の瘴気

「……ん? ここは……?」

 俺は目を覚ます。
頭には柔らかい感触がある。
何をしていたところだったか。

 …………。
……。

 そうだ。
盗掘団の面々と交戦していたのだった。
俺たち先遣隊が優位に戦いを進めていたが、”光の乙女騎士団”の乱入により狂いが生じた。
彼女たちの睡眠魔法”ララバイ”の合同魔法で、俺たち先遣隊は眠らされてしまったのだ。

 直接的な戦闘能力では俺たちに分があると思って油断していた、俺の判断ミスだ。
……なんだか、俺は毎回のように油断してしまっているな。
もう少し気を引き締めないといけない。

 でも仕方のない面もある。
いつも気を張りっぱなしではいられない。
人間だもの。
たかし。

 ……おっと。
詩を詠んでいる場合じゃない。

「あ。起きた? タカシ」
「お、おはようございます。タカシさん」

 モニカとニムがそう言う。
俺の頭にある柔らかい感触は、モニカの太ももだったようだ。

 俺は体を起こす。

「俺は盗掘団に負けたような気がするが……。モニカとニムはなぜここに?」

 彼女たちは後発隊だ。
俺やミティとは別行動だったはず。

 そうだ。
ミティだ。
それにアイリス。
彼女たちは無事か!?

 俺は周囲を見回す。

「「ZZZ……」」

 ミティとアイリスは、俺のすぐ近くで寝ていた。
かわいい寝顔だ。
それに、衣服の乱れなどもない。
盗掘団の面々に乱暴されたりしていなくて一安心だ。

 俺は、周囲の状況を改めて確認する。
ミティとアイリスは、俺の近くで寝ている。
マクセルとギルバートも少し離れたところで寝ている。
どうやら、先遣隊の中では俺が最初に目覚めたようだ。

 俺のすぐそばには、モニカとニム。
それにユナもいる。
これで、ミリオンズは全員が揃っている。

 マクセルの近くには、カトレア、ストラス、セリナ、カイル、レベッカ。
疾風迅雷の面々が集合している。
ちなみにマクセルはカトレアに膝枕されている。
お熱いことだ。

 ギルバートの近くには、漢の拳の面々が集合している。
むさ苦しい。

 その他、冒険者ギルドのギルドマスターであるマリーや、他の後発隊のメンバーも揃っている。
俺たち先遣隊がソフィアの睡眠魔法により眠らされ、それを後発隊の面々が助けてくれたといったところか。

 ふむ……。
よく見ると、盗掘団の面々もこの場にはたくさんいる。
ブギー頭領とジョー副頭領、それに下っ端戦闘員の多くは縄で拘束されている。

 一方で、ナディアやパルムス、それに下っ端戦闘員の一部は拘束されていない。
また、ソフィアたち”光の乙女騎士団”も拘束されていない。
盗掘団に通じていたのだから、同罪だと思うのだが。
なぜだろう。

 そんな感じで俺が情報を自分なりに整理しているうちに、ミティ、アイリス、マクセル、ギルバートも目覚めた。

「ふあぁ。おはようございます?」

 ミティは少し寝起きが悪い。
まだ寝ぼけているようだ。
普段から、朝に少し弱いところがある。
俺も朝に弱いので、親近感が湧く。

「うーん。よく寝たー。って、あれ? どういう状況?」 

 アイリスはそこそこ寝起きがいい。
起きてすぐに、状況把握に努めている。

「くっ。俺としたことが……。睡眠魔法対策はしていなかったな……」

 マクセルは、起きてすぐに戦闘の反省を始めた。
さすがだ。
今回の件で、睡眠魔法のような搦め手に対する対策も一考していくことだろう。

 俺も他人事ではない。
状態異常系の魔法や罠対策など、何らかの対策を考えておく必要がある。

「ガハハ! 気分爽快だ! さあ、敵はどこだ!?」

 ギルバートは、寝起きがいいのか悪いのか。
起きてすぐに臨戦態勢なのはさすがだが。
今は戦闘中ではないぞ。

 そんな感じで、眠っていた先遣隊の5人が無事に目覚めた。
それぞれが周囲の状況をある程度把握し、落ち着く。
それを見て、マリーが口を開く。

「よし。全員が起きたな。特に、タカシとアイリスの目覚めを待っていたぞ」
「俺とアイリスですか?」
「へえ。なんでまた?」

 俺とアイリスがそう問う。
ミティ、マクセル、ギルバートになくて、俺とアイリスにあるもの。
そう考えると……。

「治療魔法だよ。盗掘団の人に、記憶喪失の人がたくさんいてね」

 ソフィアがそう言う。

「記憶喪失? 確かに、俺が戦った人もそんなことを言っていたな。確か、ナディアとパルムスとか言ったか」

 そうだ。
ナディアだ。
彼女の顔は、モニカにそっくりだったのだ。
そのせいで、俺は戦闘中に棒立ちになってしまった。
そして、ソフィアたち”光の乙女騎士団”の睡眠魔法により眠らされてしまったのである。

「ナディアじゃなくて、本当の名前はナーティアだよ。私のお母さんなの」
「そ、それに、パルムスではなくてパームスです。わたしのパパです」

 モニカとニムがそう言う。

「むっ。そうだったのか……。ナーティアさんとパームスさんか」

 俺は彼女たちに向けて、とりあえず会釈だけしておく。

 まさか、モニカとニムの親御さんが盗掘団に紛れ込んでいたとはな。
ダリウスやマムの口ぶりから、てっきり死別してしまっていると思っていたが。
何らかの事件に巻き込まれて死亡したと思われていたが、実は生きていたといったところだろうか。
そして記憶が失われているから、ラーグの街に戻ってくることもなかったと。

 火魔法や剣術など、殺傷能力の高い攻撃をしないでおいて正解だ。
いくら相手が記憶喪失だったという事情があるとはいえ、将来の妻の親を殺したりしたら、取り返しがつかないところだ。

「なるほどね。ボクたちが、みんなのケガを治療すればいいんだね。任せておいてよ」

 アイリスがそう言う。
今回の戦闘で、みんなが大小様々なキズを負っているはずだ。

 しかし、記憶喪失だったとはいえ、盗掘団に与していた罪はどうなるのだろう?
せめてモニカやニムの親御さんだけでも、無罪とかにならないかな。

「ケガを治療してくれるのはありがたいけど、それは僕たち”光の乙女騎士団”でもできるよ。僕たちは、広範囲の人を同時に癒やすのが得意なんだ。まだ中級だけどね」

 ソフィアがそう言う。
俺と彼女がラーグの街で模擬戦をしたときも、試合後にソフィアに治療魔法がかけられていた。
彼女たちのパーティには、治療魔法の使い手が存在する。
また、この口ぶりから判断すると、複数人が治療魔法を使えるようだ。
そして、広範囲の人を同時に癒すのが得意ということは、中級のエリアヒールが使えるということだろう。

「あ、そうそう。僕たちは聖魔法も使えるんだ。君たち、闇の瘴気に汚染されていたよ。僕たちが浄化しておいたから。特にタカシ君とミティちゃんだね。それに他のメンバーも少し」

 ソフィアがそう言う。

「闇の瘴気だと? 俺たちがか?」

 闇の瘴気は、人の負の感情を増幅させる。
オーガの族長バルダイン、ミティの幼なじみカトレア、ウォルフ村に手を出したディルム子爵。
いずれも根はいい人たちだが、闇の瘴気により正気を失って暴走してしまっていた。
俺たちミリオンズの活躍などにより、それぞれ一件落着となったことがある。

「あ、やっぱり自分では気づいていなかったんだね。ラーグの街でムチャクチャな絡まれ方をしたときから、少し気になってはいたんだよ」

 ソフィアがそう言う。
ううむ。
霧蛇竜ヘルザムとの戦闘やディルム子爵領での一件などを通じて、少しずつ闇の瘴気に汚染されてしまっていたのだろうか。
自分が闇の瘴気に汚染されていた自覚は、まったくない。

 しかし振り返ってみれば、心当たりがないこともない。

 確かにソフィアの言う通り、俺の彼女への絡み方はムチャクチャだった。
彼女が出るところに出れば、俺は逮捕されていてもおかしくなかった。
傷害罪や暴行罪だ。
この国の法体制は結構きっちりしている。

 そして、ブギー盗掘団の宝を力づくで奪おうとしたこともある。
冷静に考えれば、いくら相手が無法者でも、所有物を強引に奪うのはマズいかもしれない。
少なくとも、現代日本の法体制ではマズいことは確かだ。
この国ではどうかはわからないが、おそらくグレーゾーンぐらいだったのではなかろうか。

 それに、今思い返せばミティやアイリスの言動にも違和感がある。

 ミティは、心優しい女性だ。
しかしここ最近は、力に物を言わせて強引に物事を進める傾向が目立った。
ラーグの街の酒場で力づくで先客を押しのけて席を確保したり、ブギー頭領をボコボコにして宝を奪ったり。
てっきり、俺のステータス操作による急成長で少し増長気味だったり、俺の叙爵に向けて気がはやっているだけかと思っていたが。
まさか、闇の瘴気の影響だったとはな。

 アイリスは闇の瘴気の影響下でも、さほど無体なことはしていなかった。
しかし、本来の彼女であれば、俺やミティの暴走を止めたはずだ。
これも闇の瘴気による影響だと考えると合点がいく。

 カトレアの父親や、ディルム子爵の側近であるシエスタ。
彼らは、闇の瘴気に汚染されたカトレアやディルム子爵の暴走を止めることができなかった。
彼ら自身も少し闇の瘴気に汚染されていたため、正常な判断能力を失ってしまっていたのだ。
俺やミティの暴走を止められなかったアイリスと、ポジションは同じである。

「そ、そうか。闇の瘴気か。思い返せば、ソフィアさんにはずいぶんとひどいことをしてしまった。申し訳ない」

 俺はそう言って、頭を下げる。
飲み物を飲もうとしているところを、不意打ちで顔面ごとカウンターに叩きつけたわけだからな。
それも、コップどころかカウンターが粉砕されるぐらいの勢いでだ。

 ソフィアは特別表彰者だけあって頑丈だったため、大事にはならなかったが。
一般人であれば、大ケガをしていてもおかしくなかった。

「まあ、闇の瘴気のせいだから仕方ないよ。僕たちは、今までにも何人か見てきたし。それに、そういう人たちを救うのが勇sy……ゲフン! ”光の乙女騎士団”の使命だからね」

 ソフィアがそう言う。
彼女は言葉の途中で、”光の乙女騎士団”のメンバーに脇をどつかれて言葉を修正していた。

 何を言おうとしていたのだろう?
少し気になるが、追及するほどでもないか。
何にせよ、俺たちミリオンズの暴走が咎められなくてよかった。

 闇の瘴気の影響だから仕方ないとはいえ、完全に別人格となっていたわけではない。
記憶も鮮明に残っている。
俺の感覚としては、自分自身の失敗のように感じられる。
まったくのお咎めなしだと、それはそれで気持ち悪い。
バルダイン、カトレア、ディルム子爵たちも今の俺のような気持ちだったのだろうか。

「さて。和解したところで、話を元に戻そう。ソフィアたちは、中級の治療魔法までしか使えない。上級の、しかも合同魔法を使えるタカシとアイリスの力を借りたいのだ」

 マリーがそう言う。

「わかりました。それで、患者はどこです? 上級の合同魔法が必要なレベルとなりますと、相当な重体かと思いますが……」

 俺は、人が死ぬところは見たくない。
それに、今回盗掘団をボコボコにしたのは俺たちだ。
特に俺やミティは、闇の瘴気の影響もあるとはいえ、過剰な攻撃を加えてしまった。

 ただでさえ人が死ぬのは大嫌いなのに、それが自分たちのせいだとしたら。
俺の精神力では耐えきれないかもしれない。

 どうか、俺とアイリスの治療魔法が成功しますように。

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