【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
245話 くくく。すばらしい。最高の化け物じゃないか!
ミリオンズや村の戦士たちが東門を突破した頃。
伝令の男がディルム子爵邸に駆け込んでいった。
「報告します! 東門、突破されました! やつらはこの屋敷へ向かってきています!」
男は息を切らせながらそう言う。
今この場にいるのは、主に5人だ。
ディルム子爵、側近のシエスタ、護衛奴隷のジャンベス。
謎の女のセン、そして伝令の男。
あとは、護衛兵や屋敷の使用人が少し離れたところに控えている。
「ぐっ! バカな! 早すぎる」
ディルム子爵がそう言って狼狽する。
迫撃砲に使用許可は出したし、そもそも地の利はこちらにある。
そうやすやすと突破されるとは、想定外だ。
「落ち着いてください。ディルム様。……他の方面の警備兵たちを援軍として向かわせる件はどうなっていますか?」
シエスタがディルム子爵をなだめつつ、伝令の男にそう確認する。
「そ、それが……。各隊の副隊長たちが指示に従いません。なんだかんだと理由を付けて、それぞれの持ち場を離れようとしないのです」
「ちっ。ことが終われば、責任を追求して降格させてやる!」
ディルム子爵がそう息巻く。
貴族の指示を無視するとは、いい度胸だ。
「ディルム様。それよりも、差し迫ったやつらの攻勢をどう防ぐかです」
シエスタがそう言う。
彼が言葉を続ける。
「こちらの手札はもうほとんどありません。隊長たちはウォルフ村で捕虜として捕らえられています。そして、東門以外の副隊長や一般兵たちは、指示に従わないとなりますと……」
「ぐぬぬ。それに、ウィリアムの姿も見えん。やつはどこで何をしているのか……」
先ほどまではこの領主邸にいたのだが。
いつの間にか、姿を消していた。
「ここは1つ、和平の交渉をされてはいかがでしょうか。アカツキ総隊長など捕虜をたくさんとられていますし、このままでは被害は甚大です」
「黙れ! 一度手にした宝を、そうやすやすと手放してたまるか!」
シエスタの提案を、ディルム子爵が一蹴する。
「うふふ。それならば、”あれ”を使うしかないでしょう」
「……そうだ! オレにはまだあれがあったな。あれを解き放ってやるぞ! ふはははは! ミリオンズどもの快進撃もここまでだ」
センの提案を受けて、ディルム子爵がそう言う。
彼の目には黒いモヤがかかっていた。
●●●
領主邸の離れにある研究所に、ディルム子爵たちがやってきた。
ディルム子爵、ジャンベス。
それにセンだ。
ここは、表向きは通常の研究所である。
ディルム子爵直轄の研究所として、様々な研究が行われている。
魔道具の開発や、効率的な魔法の修練方法など。
領民の生活や安全に役立つような、合法で健全な研究だ。
しかし同時に、ここでは非合法な研究も行われていた。
キメラの製造だ。
キメラの製造は、ウェンティア王国法により禁じられている。
ここでそれが行われていることはトップシークレットである。
限られた職員のみが、地下室でひっそりとキメラの製造に関する研究開発を行っていた。
ディルム子爵が地下室へと足早に歩みを進めていく。
「ディ、ディルム様。ご指示をいただいておりましたキメラの件ですが、実用化は時期尚早かと」
「第一の試験はクリアしているのだろう? なら大きな問題はない。ここらで実戦テストといこうではないか!」
職員はそう制止の声をかけるが、ディルム子爵が気にした様子はない。
ディルム子爵がキメラの前にまでやってくる。
キメラの体長は3メートル以上はある。
虎、熊、鳥、蛇、狼。
いろいろな生物の特徴が混ざったような外見をしている。
キメラは厳重な拘束を施された上、檻に入れられている。
さらに鎮静剤を定期的に付与されている。
今はおとなしく眠っているところだ。
「くくく。このボタンを押せば、こやつが覚醒し、解放されるのだな?」
「そ、その通りですが……。まだデータが足りません。暴走の危険があります。解放はおやめになったほうが……」
職員の懸念の声は、ディルム子爵には届かなかった。
ポチッとな。
ディルム子爵がボタンを押す。
キメラが眠りから目覚める。
そして、拘束が解かれ、檻の扉が開かれる。
「オオォ……」
キメラが唸り声をあげ、檻から出てくる。
なかなかの威圧感だ。
「くくく。すばらしい。最高の化け物じゃないか!」
ディルム子爵は、目の前のキメラを見て満足気にそう笑う。
「このキメラがいれば、あの憎きミリオンズなど敵ではない! ふはははは!」
「オオォ……」
「行け、キメラよ! そのパワーですべてをやきつくすのだ! ふはははは! ……は?」
ドンガラガッシャーン!
キメラが腕を一振りし、ディルム子爵を殴り飛ばした。
ディルム子爵は壁に激突し、意識を失った。
「だ、だから言ったじゃないか。まだ本テストには早いって……。う、うわあああ。俺は逃げるぞ!」
職員は、そう言って部屋を大急ぎで去っていった。
少し無責任なようにも思えるが、仕方のないことだろう。
自身の命の危険が目の前に迫っているのだから。
「ぐるる。ぐるあああああ!」
キメラが大きなうなり声をあげる。
気絶しているディルム子爵や、護衛のジャンベスには目もくれず、部屋の壁を壊しながら移動していった。
センは、それを見て満足気な笑みを浮かべる。
「(うふふ。ディルム子爵は気絶したようですね。キメラのおかげで、街は大混乱に陥るでしょう。”あれ”の警備も手薄になるはず……)」
センがそうつぶやく。
彼女は、これから起きる混乱を機に何かを盗み出す心づもりのようだ。
彼女は静かに闇の中へと姿を消した。
ジャンベスはディルム子爵に近寄り、容態を確認している。
彼はディルム子爵の護衛である。
キメラが街で暴れようとしていることや、センが何かを企んでいることなどは彼が気にすることではない。
彼にとっては、あくまでディルム子爵の安全が第一である。
キメラの不意打ちにを防げなかったことは悔やまれるが。
「……脈はある。このポーションを使えばなんとかなるか……」
ジャンベスは、手持ちのポーションをディルム子爵に使う。
こんなときのために持ち歩いていたのである。
これでディルム子爵も一命はとりとめるだろう。
後は、事態が落ち着きディルム子爵が目覚めるまで彼の安全を確保するのみである。
そして、もう1人の人影がある。
「ふん。ひと足遅かったか。あれが、宰相が懸念していたキメラか。本当に手を出してやがったとはな」
ウィリアムだ。
彼は、ウェンティア王国の宰相の指示により、ディルム子爵に接近していた。
違法なキメラの研究をしているという情報の真偽の確認。
それに、とある村へ法外な利息による借金の取り立てを行っている疑いもあった。
たまたまシエスタを介してディルム子爵のほうから彼に接触してきたのを好機として、懐に潜り込んでいたのである。
ディルム子爵の信用を得るために、シトニやクトナの誘拐にも積極的に手を貸した。
「あのキメラを俺やニューだけで止めるのは骨が折れそうだが……。やるしかないか」
ウィリアムが宰相から受けた依頼には、キメラの討伐や鎮圧は含まれていない。
だが、あのキメラを放っておけば、領民や家屋に多大な被害が出るだろう。
それを良しとする彼ではなかった。
いくら特別表彰者の彼とはいえ、あのキメラを鎮圧するのは簡単ではないだろう。
彼は気を引き締めつつ、キメラを追うべく一歩を踏み出した。
「いや、待てよ。……ちょうど強そうな戦力がいるな」
ウィリアムはいいことを思いついたというように、ジャンベスに近づいていく。
「おい。ジャンベスといったな? 俺とともに来い。あのキメラを止めるのを手伝え」
「……俺はディルム様の奴隷だ。主人の命令なしに勝手な行動はできない……」
通常の奴隷はある程度の自由はある。
しかしジャンベスの奴隷契約は、やや縛りの強い契約となっていた。
ディルム子爵が気絶している以上、ジャンベスはここにとどまって彼の安全を確保する必要がある。
「ふん。奴隷契約か。くだらん。俺の”支配”の力の前ではな」
ウィリアムはそう言って、ジャンベスの首輪に手をかざす。
手のひらから不思議な色の光が発生し、首輪を照らす。
数十秒の後。
ジャンベスの首輪が外れた。
「ふん。これでいいだろう。俺ともに来い。ジャンベス」
「……いや、それでもダメだ。俺はディルム様に救ってもらった恩義がある。今でこそこんなことに手を染めてしまってはいるが……」
ジャンベスがそう言う。
もともと彼は劣悪な環境で奴隷として働いていた。
それを見兼ねたディルム子爵が、ジャンベスを買い上げて自身の護衛として採用したのだ。
ディルム子爵は、かつては民衆思いの良き領主であった。
変わってしまったのは、いつの頃からだったか……。
とうとう、借金の取り立てという名目で誘拐にまで手を出した上、暴走状態のキメラを街に解き放ってしまった。
しかし、最近のディルム子爵の行動に正義がないとしても、それでジャンベスの恩義がなくなるわけではない。
彼はあくまで、ディルム子爵に忠誠を誓っているのだ。
「ふん。ディルムが心配か? それならなおのこと、俺を手伝うべきだ。あのキメラが領民に被害を出してしまうと、いよいよやつをかばうことは難しくなるぞ」
ウィリアムは、冒険者として駆け出しの頃にディルム子爵に世話になったことがある。
ジャンベスほどの強い忠義こそないものの、できればディルム子爵にはかつての心を取り戻してほしいという気持ちはあるのだ。
領民に被害が出ないうちにあのキメラを鎮圧できれば、王家からディルム子爵への処分も軽くなるかもしれない。
「……しかし。気を失ったディルム様を置いていくわけには……」
「ふん。そのことなら心配ない。……イル!」
「はっ! ここに」
ウィリアムに呼ばれ、少女が物陰から現れる。
彼女の名前はイル。
10日ほど前に、ウィリアムによって拾われた痩せぎすの少女だ。
ニューたちによる世話もあり、今では健康体になっている。
そして、ウィリアムの”支配”の恩恵により、戦闘能力なども増している。
キメラを相手取るにはやや力不足だが、低級の魔物や一般人などに比べればはるかに強い。
ディルム子爵のしばしの安全を確保するぐらいであれば、彼女でも問題なく全うできるだろう。
「ディルムを守っていてくれ。目を離すなよ」
「ははっ! ご主人さまのご命令とあらば!」
イルがそう言って、ウィリアムの命令を了承する。
「ふん。そういうわけだ。ジャンベス、俺についてこい」
「……わかった。その少女は、確かな戦闘能力を持つようだな。くれぐれもよろしく頼むぞ……」
「ふん。さあ、キメラを止めに行くぜ!」
ウィリアムとジャンベス。
2人が、キメラを止めるべく駆け出す。
はたして彼らは、キメラの暴走を無事に止めることができるのか。
伝令の男がディルム子爵邸に駆け込んでいった。
「報告します! 東門、突破されました! やつらはこの屋敷へ向かってきています!」
男は息を切らせながらそう言う。
今この場にいるのは、主に5人だ。
ディルム子爵、側近のシエスタ、護衛奴隷のジャンベス。
謎の女のセン、そして伝令の男。
あとは、護衛兵や屋敷の使用人が少し離れたところに控えている。
「ぐっ! バカな! 早すぎる」
ディルム子爵がそう言って狼狽する。
迫撃砲に使用許可は出したし、そもそも地の利はこちらにある。
そうやすやすと突破されるとは、想定外だ。
「落ち着いてください。ディルム様。……他の方面の警備兵たちを援軍として向かわせる件はどうなっていますか?」
シエスタがディルム子爵をなだめつつ、伝令の男にそう確認する。
「そ、それが……。各隊の副隊長たちが指示に従いません。なんだかんだと理由を付けて、それぞれの持ち場を離れようとしないのです」
「ちっ。ことが終われば、責任を追求して降格させてやる!」
ディルム子爵がそう息巻く。
貴族の指示を無視するとは、いい度胸だ。
「ディルム様。それよりも、差し迫ったやつらの攻勢をどう防ぐかです」
シエスタがそう言う。
彼が言葉を続ける。
「こちらの手札はもうほとんどありません。隊長たちはウォルフ村で捕虜として捕らえられています。そして、東門以外の副隊長や一般兵たちは、指示に従わないとなりますと……」
「ぐぬぬ。それに、ウィリアムの姿も見えん。やつはどこで何をしているのか……」
先ほどまではこの領主邸にいたのだが。
いつの間にか、姿を消していた。
「ここは1つ、和平の交渉をされてはいかがでしょうか。アカツキ総隊長など捕虜をたくさんとられていますし、このままでは被害は甚大です」
「黙れ! 一度手にした宝を、そうやすやすと手放してたまるか!」
シエスタの提案を、ディルム子爵が一蹴する。
「うふふ。それならば、”あれ”を使うしかないでしょう」
「……そうだ! オレにはまだあれがあったな。あれを解き放ってやるぞ! ふはははは! ミリオンズどもの快進撃もここまでだ」
センの提案を受けて、ディルム子爵がそう言う。
彼の目には黒いモヤがかかっていた。
●●●
領主邸の離れにある研究所に、ディルム子爵たちがやってきた。
ディルム子爵、ジャンベス。
それにセンだ。
ここは、表向きは通常の研究所である。
ディルム子爵直轄の研究所として、様々な研究が行われている。
魔道具の開発や、効率的な魔法の修練方法など。
領民の生活や安全に役立つような、合法で健全な研究だ。
しかし同時に、ここでは非合法な研究も行われていた。
キメラの製造だ。
キメラの製造は、ウェンティア王国法により禁じられている。
ここでそれが行われていることはトップシークレットである。
限られた職員のみが、地下室でひっそりとキメラの製造に関する研究開発を行っていた。
ディルム子爵が地下室へと足早に歩みを進めていく。
「ディ、ディルム様。ご指示をいただいておりましたキメラの件ですが、実用化は時期尚早かと」
「第一の試験はクリアしているのだろう? なら大きな問題はない。ここらで実戦テストといこうではないか!」
職員はそう制止の声をかけるが、ディルム子爵が気にした様子はない。
ディルム子爵がキメラの前にまでやってくる。
キメラの体長は3メートル以上はある。
虎、熊、鳥、蛇、狼。
いろいろな生物の特徴が混ざったような外見をしている。
キメラは厳重な拘束を施された上、檻に入れられている。
さらに鎮静剤を定期的に付与されている。
今はおとなしく眠っているところだ。
「くくく。このボタンを押せば、こやつが覚醒し、解放されるのだな?」
「そ、その通りですが……。まだデータが足りません。暴走の危険があります。解放はおやめになったほうが……」
職員の懸念の声は、ディルム子爵には届かなかった。
ポチッとな。
ディルム子爵がボタンを押す。
キメラが眠りから目覚める。
そして、拘束が解かれ、檻の扉が開かれる。
「オオォ……」
キメラが唸り声をあげ、檻から出てくる。
なかなかの威圧感だ。
「くくく。すばらしい。最高の化け物じゃないか!」
ディルム子爵は、目の前のキメラを見て満足気にそう笑う。
「このキメラがいれば、あの憎きミリオンズなど敵ではない! ふはははは!」
「オオォ……」
「行け、キメラよ! そのパワーですべてをやきつくすのだ! ふはははは! ……は?」
ドンガラガッシャーン!
キメラが腕を一振りし、ディルム子爵を殴り飛ばした。
ディルム子爵は壁に激突し、意識を失った。
「だ、だから言ったじゃないか。まだ本テストには早いって……。う、うわあああ。俺は逃げるぞ!」
職員は、そう言って部屋を大急ぎで去っていった。
少し無責任なようにも思えるが、仕方のないことだろう。
自身の命の危険が目の前に迫っているのだから。
「ぐるる。ぐるあああああ!」
キメラが大きなうなり声をあげる。
気絶しているディルム子爵や、護衛のジャンベスには目もくれず、部屋の壁を壊しながら移動していった。
センは、それを見て満足気な笑みを浮かべる。
「(うふふ。ディルム子爵は気絶したようですね。キメラのおかげで、街は大混乱に陥るでしょう。”あれ”の警備も手薄になるはず……)」
センがそうつぶやく。
彼女は、これから起きる混乱を機に何かを盗み出す心づもりのようだ。
彼女は静かに闇の中へと姿を消した。
ジャンベスはディルム子爵に近寄り、容態を確認している。
彼はディルム子爵の護衛である。
キメラが街で暴れようとしていることや、センが何かを企んでいることなどは彼が気にすることではない。
彼にとっては、あくまでディルム子爵の安全が第一である。
キメラの不意打ちにを防げなかったことは悔やまれるが。
「……脈はある。このポーションを使えばなんとかなるか……」
ジャンベスは、手持ちのポーションをディルム子爵に使う。
こんなときのために持ち歩いていたのである。
これでディルム子爵も一命はとりとめるだろう。
後は、事態が落ち着きディルム子爵が目覚めるまで彼の安全を確保するのみである。
そして、もう1人の人影がある。
「ふん。ひと足遅かったか。あれが、宰相が懸念していたキメラか。本当に手を出してやがったとはな」
ウィリアムだ。
彼は、ウェンティア王国の宰相の指示により、ディルム子爵に接近していた。
違法なキメラの研究をしているという情報の真偽の確認。
それに、とある村へ法外な利息による借金の取り立てを行っている疑いもあった。
たまたまシエスタを介してディルム子爵のほうから彼に接触してきたのを好機として、懐に潜り込んでいたのである。
ディルム子爵の信用を得るために、シトニやクトナの誘拐にも積極的に手を貸した。
「あのキメラを俺やニューだけで止めるのは骨が折れそうだが……。やるしかないか」
ウィリアムが宰相から受けた依頼には、キメラの討伐や鎮圧は含まれていない。
だが、あのキメラを放っておけば、領民や家屋に多大な被害が出るだろう。
それを良しとする彼ではなかった。
いくら特別表彰者の彼とはいえ、あのキメラを鎮圧するのは簡単ではないだろう。
彼は気を引き締めつつ、キメラを追うべく一歩を踏み出した。
「いや、待てよ。……ちょうど強そうな戦力がいるな」
ウィリアムはいいことを思いついたというように、ジャンベスに近づいていく。
「おい。ジャンベスといったな? 俺とともに来い。あのキメラを止めるのを手伝え」
「……俺はディルム様の奴隷だ。主人の命令なしに勝手な行動はできない……」
通常の奴隷はある程度の自由はある。
しかしジャンベスの奴隷契約は、やや縛りの強い契約となっていた。
ディルム子爵が気絶している以上、ジャンベスはここにとどまって彼の安全を確保する必要がある。
「ふん。奴隷契約か。くだらん。俺の”支配”の力の前ではな」
ウィリアムはそう言って、ジャンベスの首輪に手をかざす。
手のひらから不思議な色の光が発生し、首輪を照らす。
数十秒の後。
ジャンベスの首輪が外れた。
「ふん。これでいいだろう。俺ともに来い。ジャンベス」
「……いや、それでもダメだ。俺はディルム様に救ってもらった恩義がある。今でこそこんなことに手を染めてしまってはいるが……」
ジャンベスがそう言う。
もともと彼は劣悪な環境で奴隷として働いていた。
それを見兼ねたディルム子爵が、ジャンベスを買い上げて自身の護衛として採用したのだ。
ディルム子爵は、かつては民衆思いの良き領主であった。
変わってしまったのは、いつの頃からだったか……。
とうとう、借金の取り立てという名目で誘拐にまで手を出した上、暴走状態のキメラを街に解き放ってしまった。
しかし、最近のディルム子爵の行動に正義がないとしても、それでジャンベスの恩義がなくなるわけではない。
彼はあくまで、ディルム子爵に忠誠を誓っているのだ。
「ふん。ディルムが心配か? それならなおのこと、俺を手伝うべきだ。あのキメラが領民に被害を出してしまうと、いよいよやつをかばうことは難しくなるぞ」
ウィリアムは、冒険者として駆け出しの頃にディルム子爵に世話になったことがある。
ジャンベスほどの強い忠義こそないものの、できればディルム子爵にはかつての心を取り戻してほしいという気持ちはあるのだ。
領民に被害が出ないうちにあのキメラを鎮圧できれば、王家からディルム子爵への処分も軽くなるかもしれない。
「……しかし。気を失ったディルム様を置いていくわけには……」
「ふん。そのことなら心配ない。……イル!」
「はっ! ここに」
ウィリアムに呼ばれ、少女が物陰から現れる。
彼女の名前はイル。
10日ほど前に、ウィリアムによって拾われた痩せぎすの少女だ。
ニューたちによる世話もあり、今では健康体になっている。
そして、ウィリアムの”支配”の恩恵により、戦闘能力なども増している。
キメラを相手取るにはやや力不足だが、低級の魔物や一般人などに比べればはるかに強い。
ディルム子爵のしばしの安全を確保するぐらいであれば、彼女でも問題なく全うできるだろう。
「ディルムを守っていてくれ。目を離すなよ」
「ははっ! ご主人さまのご命令とあらば!」
イルがそう言って、ウィリアムの命令を了承する。
「ふん。そういうわけだ。ジャンベス、俺についてこい」
「……わかった。その少女は、確かな戦闘能力を持つようだな。くれぐれもよろしく頼むぞ……」
「ふん。さあ、キメラを止めに行くぜ!」
ウィリアムとジャンベス。
2人が、キメラを止めるべく駆け出す。
はたして彼らは、キメラの暴走を無事に止めることができるのか。
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