【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

98話 黒幕登場:センと名乗る女

 兄貴たちと今代六武衆との戦いを止めるため、走る。

 俺、ミティ、アイリス。
国王バルダイン。
姫巫女マリア。
先代六武衆のクラッツ、タニア、ラトラ、セルマ。
総勢9人だ。
マリアはバルダインがおんぶしている。

 遺跡地帯に入る。
兄貴たちと別れた場所に近づいていく。

 無事でいてくれ。
祈りながら、目的地にたどり着く。

 視界に入ってきたのは。
赤。
血だ。
赤い血で辺りが染まっていた。

「な……、これは……!」

『一体何ごとだ……! 六武衆が全滅だと……!』

 今代の六武衆の面々が血だらけで横たわっている。
クレア、ソルダート、ギュスターヴ、セリナ、ディーク、フェイ。
全滅だ。

「潜入組も全滅……? 一人残らず……?」

 俺といっしょにここに潜入した面々も、血だらけで横たわっている。
アドルフの兄貴、レオさん、マクセル、ギルバート、ジルガ、ストラス、ウッディ。
全滅だ。

 俺はアドルフの兄貴に駆け寄る。

「兄貴!!! なぜ!? 兄貴がいてどうしてこんなことに!?」

 脈はある。
気絶しているようだ。

『ぬう……。一体何が起きたいうのだ。相打ちか……?』

『陛下! あそこに人影が!』

 クラッツがそう叫ぶ。

 部屋の奥。
遺跡の壁画の前に、見知らぬ女が立っていた。
壁画が何やら光っている。
なんだ?

「うふふ。これは皆様、お揃いで」

『貴様は……、セン! いったい何のつもりだ!』

 バルダインはこの女を知っているようだ。
名前はセンと言うらしい。

「あら? 闇魔法を解かれてしまったのですね、陛下。闇の水晶が割れたので、そうかもしれないとは思っていましたが。希少なものですのに。残念ですわ」

『闇魔法だと!? ……やはり、貴様が全ての元凶か!』

「その通りですわ。わたくしの手のひらの上で、よく踊ってくれました。お礼を言いますわ」

 このセンという女が黒幕か。
そうとわかれば。

「ただで帰れるとは思わないことです。企んでいることを、洗いざらい話していただきます」

 俺はそう言って、構える。

「あら怖い。でも、わたくしはもう目的を果たしましたの。無駄な戦いは避けたほうがお互いのためですわ」

 女が退却の姿勢を取る。

『ただで返すと思うな! 部下の敵だ! 鬼王痛恨撃!』

 バルダインの必殺技だ。
センがヒラリと躱す。

 まだだ。

「ゲ・ン・コ・ツ! メテオ!」

「炎あれ。我が求むるは豪火球。十本桜!」

 ミティの投石と俺の火魔法が女を襲う。
これは避けきれないだろう。

「やったか!?」

 煙で女の様子は見えない。

「まだだよ! ……そこ!」

 アイリスが、逃げる女を捉える。

「豪・裂空脚!」

 アイリスの強烈な回し蹴りがセンを襲う。

「情報よりもずっと強力な火魔法、投石、そして蹴り……。認識を上方修正しましょう」

 センは、アイリスの回し蹴りを防いだ。
聖闘気を纏ったアイリスの攻撃を防ぐとは。
かなりの力だ。

「せえぃっ!」

 アイリスよりも若干遅れたが、俺も剣術で追撃に加わる。

 センは懐から剣を抜き、俺の剣を防いだ。
剣術レベル4に加え、ステータス強化系のスキルも取得している俺の剣を、あっさり防いだだと……。

「あら? 剣での戦闘も、想定よりもずっとお強いですね……」

 アイリスにせよ俺にせよミティにせよ、事前に何らかの情報が流されていたようだ。
だが、ステータス操作の恩恵により、俺たちの成長速度は尋常ではない。
通常の成長想定範囲を大きく越えていることだろう。

「うふふ。お強い殿方は好きですよ。思わずどきどきしてしまいますわ」

 センはずいぶんと余裕がありそうだ。

『我らを忘れてもらっては困る! 覚悟!』

 クラッツたちもこちらに近づいてくる。

「うふふ。わたくし1人では、さすがにこの人数を相手にするのは無理ですね。不意打ちならばまだしも……」

「それはそうでしょう。1対9で勝てるとは思わないことです!」

 あまり舐めてもらっては困る。

「もう少し楽しみたいところですが、仕方ありませんわね。……エアバースト!」

 女が風魔法を発動させる。
空気の大砲だ。
俺とアイリス、それにクラッツたちは、たまらず弾き飛ばされてしまった。

「では今度こそさようなら」

 女の足元に魔法陣が浮かぶ。
なんだ?
転移魔法か何かか?

 追撃する時間もなく、女の姿が消えた。

「逃げられたか……」

 俺はそう呟く。

『過ぎたことはいい。それよりもこやつらの治療だ! まだ息はある!』

 みんなで、倒れている人たちの介抱を始める。

「……へっへっへ。無事に国王との話はできたみたいだな」

「兄貴! しゃべらないで! 今、治療魔法をかけます!」

 レベル1のキュアを発動する。
何度も重ねがけする。
少しずつ治ってはいるようだが、やはりレベル1は効果が薄い。

 思い切って治療魔法を強化するか。
こういう不測の事態に対応するために、わざわざスキルポイントを余らせておいたのだ。

 スキルポイントを15使用し、治療魔法をレベル1からレベル3に強化する。

 治療魔法レベル2はヒール。
レベル1のキュアの強化版みたいな感じだ。
キュアよりも多少大きな外傷を治療することができる。
また、ちょっとした解毒効果もあるようだ。

 治療魔法レベル3はエリアヒール。
一定範囲内にいる人を同時に治療できる。
回復効果はヒールと同程度。
消費MPと詠唱時間はヒールより大きい。

 魔法関連のスキルをたくさん取得しているため、消費MPも詠唱時間もさほど気にならない。
MP強化レベル3、高速詠唱レベル1、MP消費量減少レベル2、MP回復速度強化レベル1などが役に立っている。

 まずはエリアヒールでみんなを回復しよう。

「……神の御業にてかの者たちを癒やし給え。エリアヒール」

 潜入作戦参加者の、アドルフの兄貴、レオさん、マクセル、ギルバート、ジルガ、ストラス、ウッディ。
六武衆の、クレア、ソルダート、ギュスターヴ、セリナ、ディーク、フェイ。
彼らがエリアヒールにより治療されていく。

 エリアヒールによる回復が一段落した後、重傷者から優先的にヒールで回復していく。
幸い、全員が一命はとりとめたようだ。

「……へっへっへ。まさか中級の治療魔法まで使えるようになっているとはな」

「……期待以上だぜ、タカシ。ギャハハハ」

『まさか人族に助けられるとはな。……バルダイン様、状況をお教えください』

 六武衆の1人が代表してそう言った。
彼女はハーピィのクレアだ。
目の黒いモヤは、なくなっている。
澄んだ瞳だ。

『うむ。どうやら我らは、あの女の闇魔法により洗脳されていたようだ。我も、記憶は残っているが、どこか他人の行いを見ているかのようだ』

『そうですね。……私も、取り返しのつかないことをしてしまいました。クラッツを、この手で……』

 クレアが沈んだ顔でうつむいている。

『ふっ。私を呼んだか?』

 クラッツが決め顔でそう言う。
クレアが顔を上げる。

『クラッ……!? いえ……、お父さん!』 

 クレアがクラッツに抱きつく。

『ごめんなざい! わたし、わたし……』

『仕方がないさ。あの女の闇魔法は強力だった』

 闇魔法。
人を洗脳する力か。
恐ろしい魔法だ。

『でも、でも……』

『それにだ。お父さんは、クレアにはまだまだ負けるつもりはないぞ。あの時は負けたふりをしただけさ。湖の底にある遺跡で、古代遺物を探していたのさ』

 クラッツはそう言って、古めかしいアクセサリーを見せる。
バルダインの闇魔法を解くときに使っていたアクセサリーだ。

 俺たちが潜入してくるより前に、クレアたち今代六武衆と、クラッツたち先代六武衆の戦いがあったようだ。
クラッツたちは一計を案じ、負けたふりをして裏で行動していたというわけか。

「へっへっへ。とにかく、あの女が黒幕で間違いないだろうな。俺たちを戦闘不能に追い込んだ後、壁画を熱心に見てやがったぜ。血が足りず意識を失っちまったから、その後はわからねえが」

『この壁画に何かすることが目的だったのかもしれん。見ろ、壁画が光っている。調査が必要だ』

 バルダインがそう言う。

『しかし、この面々を戦闘不能に追い込むとは、あの女の実力はかなりのものだな……』

 クラッツがそう言う。

『クラッツさん。あれは、不意打ちだったの。今度はこう簡単には負けないの』

 敏捷のセリナがそう言い訳をする。
不意打ちなら仕方がないか。

 実際、兄貴たちとクレアたちとの戦いは接戦だったのだろう。
何人かは既に戦闘不能の者もいたはず。
そこに、センが不意打ちしたのなら、1対多数でセンが勝ってもおかしくはないか。

 とはいえ、その後の俺やバルダインたちの攻勢を防ぎ、まんまと逃げおおせたのは事実だ。
かなりの実力者なのは間違いない。
何か企んでいるようだったし、今後も敵対することがあるかもしれない。
要注意だ。

 何にせよ、死人が出ずに戦いが終わってよかった。
ゾルフ砦での防衛戦では死人が出ている可能性もあるが。
少なくとも、俺たち潜入組や、国王夫妻、六武衆などには死人が出ていない。
とりあえずはヨシとしておこう。

 ふと、空を見上げる。
青く晴れ渡る爽やかな空が広がっていた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品