【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1566話 甘い男

「さぁて……。どうしたものかね?」

 俺は刀を構え、景春と対峙する。
 彼は傷を負っている。
 右手にそこそこの切り傷。
 そして、腹に深い刺し傷だ。
 だが、その目に宿った闘志は消えていない。

「まだやるのか? お前じゃ俺には勝てんよ」

「余を……舐めるな!!」

 景春は叫び、桜の花びらを舞わせた。
 その妖力の密度から察するに、彼の全力であることが分かる。

「桜花家伝来……【乱舞・千本桜】!!」

 景春が叫ぶ。
 千本桜……か。
 俺の必殺技と同じ名前だな。
 ちょっと親近感が湧いてくる。

「でも、実際の数は1000もないだろ。見掛け倒しだな」

 俺は言う。
 彼の周囲に舞っている花びらは、せいぜい500枚といったところか?
 1000には遠く及んでいない。

「そういった技の弱点は知っている」

 俺は花びらに構わず、突っ込む。
 ビビって下手に距離を取るより、接近した方が意外に安全なのだ。

「なっ!?」

 景春が驚愕の表情を浮かべた。
 だが、もう遅い。
 俺の振るった刀は、彼の左腕を切り裂いた。

「うがぁぁっ! ……あ?」

 景春は大声を上げる。
 だが、すぐにその声を止めた。
 切り落とされた左腕が、桜の花びらに変化したのだ。
 彼にダメージはない。

「ちっ! 手加減しすぎたか……」

 俺は舌打ちする。
 魔力や闘気の調整が難しい。
 出力を大きくしすぎると、攻撃力が過剰になる。
 俺の身体制御も大雑把となるため、頭部や心臓をうっかり吹き飛ばしてしまう可能性すらある。
 しかし一方で、出力を抑えすぎると今回のように『散り桜』で無効化されてしまう。

「なぜだ……? 貴様ほどの能力があれば、余を害することなど容易いはず……」

「……ふん」

「そうか……。そういうことか」

 景春は察したようだ。
 俺が手加減した理由を。

「貴様は……余のことを藩主として不適格だと考えているようだが……。貴様も同じらしいな」

「……何が言いたい?」

「敵であっても、殺したくはないのだろう? 『無闇な殺生は避けたい』『投降した敵には情をかける』などと考える者は桜花七侍にもいるが……。貴様ほどに甘い男は、見たことがない。乗っ取ろうとしている藩の主を目の前に、手を抜くとは」

「甘い男……か」

 俺は呟く。
 確かに甘いのかもしれない。
 俺は記憶喪失だが、誰かを殺した経験はなかったと思う。
 人を殺す……それは本当に最後の手段だ。
 闇に染まって思考がクリアになった今も、それだけは変わらない。

 違いがあるとすれば、生死以外への頓着だろうか。
 以前の俺は、肉体的な傷や精神的なダメージにすら気を遣っていたように思う。
 だが、闇の素晴らしさを受け入れた今は、そういった配慮を捨てた。

「俺が甘い……それがどうした? どちらにせよ、お前に勝機はない」

「持久戦に持ち込めば、階下の侍が駆けつけてくる」

「それまで持ち堪えられるのか? お前に教えてやろうか……世の中には、死ぬより辛いことがあるんだぜ?」

「……」

「例えば……【豪熱球】」

 俺は手のひらを上に向ける。
 そこから火球が放たれた。

「っ!?」

「これは特殊な技でな……。攻撃範囲も射程も持続力も、大したことがない」

 俺は言う。
 豪熱球は、俺が調整した独自の火魔法だ。
 諸々の性能が低く、とても使いにくい。
 普段の戦闘では出番がなかった。
 しかし、この局面では活用方法がある。
 それは……

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