【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1441話 仏の顔も三度まで

「貴殿はよそ者の侍らしいな。桜花藩の法については、詳しくなかろう?」

「…………」

 俺は沈黙する。
 確かに桜花藩にどのような法があるのか、詳しくは知らない。

「そやつはこれまでに三度、窃盗罪で投獄されている」

「なんだと?」

 初耳だった。
 流華はスリの常習犯だということは知っている。
 何度か捕まって注意されたことぐらいはあると思っていた。
 だが、三度も捕まって投獄されていたとは……。

「この藩には『仏顔三度法』という法がある」

「ぶつがんさんどほー?」

「つまり、『仏の顔も三度まで』ということだ。仏の顔のように三度までは軽い罰で許してやる。だが、それ以上は許さん。そういう法だ」

「……なるほどな」

 俺は納得する。
 ただの窃盗罪で右手首を切断するなんて、明らかにやり過ぎだと思ったが……。
 仏顔三度法とやらにのっとっての処置だったようだ。
 現代アメリカにおける『三振法』――『スリーストライクス・アンド・ユー・アー・アウト法』に近いかもしれない。

「それにしても右手首の切断はやり過ぎだと思うが……。まぁ、過ぎたことはいい。その法に基づいた罰が与えられたんだ。流華にもう罰は必要ない。そうだろう?」

「いや、そうもいかん」

 侍が首を横に振る。
 なぜだ?

「右手首を切り落とした状態で解放し、長く苦しめる。それこそが仏顔三度法だ」

「なんだと?」

「要するに、そやつが野垂れ死にするまでが刑罰ということだ。野垂れ死んだ時点で、法に則り罪人はこの世からいなくなる。罪人をより苦しめるための制度なのだよ」

「な……」

 俺は絶句する。
 明らかに常軌を逸している。
 解放したのは社会復帰させるためではなく、敢えてひもじい思いをさせて衰弱死させるためだったとは……。

 流華が罰を受けたのは仕方がない。
 だが、それで彼を死ぬまで苦しめる?
 冗談ではない。
 そんな悪法を認めていいはずがない。

 俺は侍を睨みつける。
 そんな俺に、侍は言った。

「貴殿がそやつを保護しては、法の主旨に背くことになる」

「……」

「多少の恵みを与える程度は許容される。その方が、そやつは長く苦しむことになるからな。だが、治療妖術でそやつを治療するのはやり過ぎだ。ましてや、こうして宿屋の一室に招くなど……」

 侍は流華を指差す。
 その態度には、侮蔑や嘲笑の感情は込められていない。
 ただただ、法の番人としての役割を果たそうとする者特有の、厳格さと使命感に満ちていた。

「さぁ、そやつを引き渡してもらおう。また裏通りに捨て置くのでな」

「……嫌だと言ったら?」

「……」

 侍が鞘から刀を抜く。
 その刀身が、窓から差し込む光を反射して輝いた。

「よそ者とはいえ、貴殿は侍なのだろう? 手荒な真似はしたくない」

「同感だ。だが、流華を渡すわけにはいかない」

 俺は侍と睨み合う。
 そして……俺たちは同時に動いた。

「うぉおおお!」

「はぁああ!!」

 刀と刀がぶつかり合い、火花が散る。
 俺は侍と激しい打ち合いを演じた。

「くっ! やるな、よそ者!!」

「お前のレベルに合わせてやっているんだ。俺が全力を出すと、あっさり殺してしまうからな」

「ぬかせ!」

 侍は刀を振りかぶる。
 俺はその刀を、自らの刀で受け止めた。

「ふん!!」

「なに!?」

 鍔迫り合いの状態から、俺は一気に押し込む。
 すると、侍はバランスを崩した。

「ぐわっ!?」

 侍が倒れる。
 その隙を見逃すほど甘くはない。
 俺は彼の腹部のすぐ横に、刀を突き立てた。

「くっ!」

 侍がうめく。
 そんな彼に、俺は言った。

「もう一度言う。流華を引き渡すつもりはない」

「ぐぬ……」

 侍が歯噛みする。
 その気になれば、彼を殺してこの街から逃亡するのも可能だが……。
 その場合、城下町を含めた周辺に俺や流華の手配書が出されるかもしれない。
 今さら感はあるが、何とか穏便に済ませたいところだ。
 実力差を理解して引き下がってくれるといいのだが……。

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