１３４３話　岩陰で現状把握

「……よし。とりあえず、浅瀬に到着だ。ここで少し休もう」

　俺は海から上がると、岩陰で休憩することにした。
　特殊な結界魔法を通過した際に、終えrの存在を気取られていないかだけは心配だが……。
　少し休むぐらいなら、大きな問題はないだろう。

「ふぅ……。さすがに疲れたな……」

　俺はアイテムボックスから水筒を取り出すと、水分補給をする。
　スキル『体力強化』や『ＭＰ強化』があるとはいえ、精神的な疲れまではどうにもならない。
　俺は小さな岩の上に腰掛けて一息ついた。

「それにしても……ミティたちは無事なのだろうか……」

　先ほど、共鳴水晶が光って彼女たちの位置を知らせてくれた。
　見事にバラバラの方角だった。
　多少は近しい方角の者同士もいたが……。
　実際に同じ地点にいるかどうかは微妙なところだ。
　共鳴水晶は所有者の方角を照らしてくれるが、距離については情報を持っていない。

「この短期間で、別々に行動することにしたのだろうか？　……いや、光り方から読み取れる情報によると、予期せぬアクシデントか」

　事前に決めていた共鳴水晶の光り方によって、俺たちは簡易的な意思伝達ができる。
　ただ、文字を表示する機能はない上、一度にたくさんの回数を光らせることはできない。
　過剰に使用すると、再使用が可能となるまでの時間が伸びてしまう。
　あくまで簡易的なモールス信号みたいなものと考えた方がいい。
　その共鳴水晶からの情報によると、『不測の事態』『自分は無事、救助不要』などのメッセージが読み取れた。

「不測の事態というのが、具体的に何なのかは分からないんだよな。まぁ、水晶の点滅だけで全ての情報を伝達することはできないし仕方ないのだが……」

　俺は考える。
　ミティたちは現地の侍や忍者に敗北し、捕縛されてしまったのだろうか？
　そして、リスクを分散させるために各地の収容所とかにバラけて移送されたとか……。

「いや、それはないか」

　ミティたちは強者である。
　簡単に負けるとは思えない。
　それに、共鳴水晶の『自分は無事、救助不要』という情報にも合致しない。

「となると……特殊な空間魔法とかか？」

　俺は空間魔法のスキルを伸ばしており、ある程度の知識や経験もある。
　俺は主にアイテムボックスやテレポートを使っていたが……。
　慣れれば、レインのように戦闘中に使うことも可能だ。
　彼女は素早く自分を短距離転移させ、戦闘中に敵を翻弄する。

　そして、空間魔法には他の使い方もある。
　それは、敵対相手を強制的に転移させることだ。

「相手を転移させたところで、通常はあまり意味を持たないが……」

　危険な場所に転移させようとすると強いレジストを受けることになる。
　よって、転移先は比較的安全な場所になる。
　擬似的な攻撃手段としては意味を持たない。

「使えるとすれば、時間稼ぎか……？　難易度に似合った成果を得られるかは微妙だが……」

　安全な場所への転移であったとしても、それなりのレジストはある。
　それを突破するには、大量の魔力が必要となるはずだ。
　苦労して転移させたところで、相手が自分に強い執着を持っていた場合はいずれまた戻ってきてしまうだろう。
　戦闘回避や時間稼ぎの手段としては、基本的にコスパが合わない。

　だが、ヤマト連邦がミティたちにとって見知らぬ土地であることを考えれば、一定の成果は得られるか。
　土地勘がなければ、転移させた者のところへ戻るのは大変だからな。
　ひょっとすると、異国の侵入者への対策として大量の魔石や緻密な魔法陣でも用意していたのかもしれない。

「そういった可能性を考えきれていなかったな……。動き出す前に、改めて現状の把握と分析をしておこう」

　俺は岩陰で休憩しつつ、考え込んでいくのだった。