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僕の心臓が動いていることと、心があついこと

月影そら

とにかくなんでもやっていく

その日の晩の鍛錬は、小鬼が十人になっていた。僕はすぐに目を閉じる。相手の気配なんかで、動きを捉える練習だと自分に言い訳をする。
 今度は弓を持っている小鬼も三人いた。その小鬼たちが次々に襲い掛かってくる。僕は二度ほど弓での攻撃を受けてしまう。一つは背中を掠めただけだけど、もう一つは右足に刺さる。僕は抜くこともしないで立ち回りながら、小鬼を次々に消滅させていった。
 小鬼たちの呻き声や、叫び声は、人間のそれと似ている。小鬼の体液が僕にかかったりもしたけど、今回は僕も攻撃をやめなかった。そして、一度も目を開けずに、僕は自分の家に戻る。
 家の部屋に戻ると、足に刺さっていたはずの矢も無くなっている。僕にかかった体液ももちろん跡形もない。そういう意味では助かっていた。
 翌日の朝も鍛錬の相手は小鬼だった。いきなり二十人に増えていた。僕は数だけ確認すると目を閉じる。この時は三度ほど攻撃をかわしきれなかったけど、僕は無事家に戻れた。
 
五章
 僕はフェンシングの練習を、本を頼りに一人でやっていた。その練習には、適当な木の棒を削って、それを使っていた。家の中での練習はやりづらかったので、遅めの時間に近所の公園へ行く。
 霊長類の怪物と蛾を一緒に、追加で戦った時以来、一切あの世界での追加の戦いはしなかった。その代わり、結局、今までやってきた合気道と、日曜日の剣道に柔道、それから好きな時に行けるキックボクシングを習っている。
 どれも、注意を払わなければいけないけど、基本の動きから始まって、教えてもらうことは、少しずつ僕の鍛錬に役に立っていっている気がしていた。
 マンションから出ようとしたときに、後ろから後藤に声を掛けられた。
「よう、どっか行くのか?」
 僕は最近、ほとんど階段しか使っていなかったから、エレベーターから出てきただろう後藤に、声を掛けられて驚いた。うっかり気を抜いていた。
「ビックリした。悟こそどこかにいくの?」
「ああ、おれはアイスが食べたくなったからコンビニに行くところだ」
「そっか、それじゃあね」
 コンビニと公園では逆方向だった。
「なんだよ。何処に行くんだよ」
「あ、うん。公園に、その、ちょっとね」
 僕が持っている木の棒を明らかに怪しんでいる。
「もしかして、剣道の練習をやりに行くのか?」
「い、いや、剣道じゃなくて…」
[まいった。どうする]
「なんだよ。教えてくれてもいいだろ?」
 僕は観念した。
「実は、フェンシングにも興味があってさ。だけど、近場で習えるところがないから、本や映像で練習していたんだ。でも、練習はやっぱり広いところの方がやりやすいから」
「なんだか面白そうだな」
[これは付いてくる]
「俺も行ってもいいか?」
「う、うん。まあ」
 結局後藤は付いてくることになった。絶対に僕と打ち合いをやりたがるだろうと僕は確信した。
「しかし、翔平は格闘技に完全に目覚めているな。上達も早いのに、必死さを感じる。なんか、焦っているようにも感じる」
[鋭い]
 僕はドキッとした。一人で抱えているのはきつい。誰かに打ち明けたいけど…でも。
「焦ってはいないよ。ただ、最近格闘技系が面白くて仕方がないんだ」
 僕は適当に言った自分が少し嫌になった。
「そうか」
 公園につくと、後藤は見ていると言った。僕はいつもやっているように、まず、なるべく真っ直ぐな線を、地面にその辺の棒で引いた。街灯の明かりだけが頼りだが、そのラインに沿って動くようにしている。
 それぞれの格闘技で、構え方も足の運び方も皆違ってくる。どれをどう取り入れるのがいいのか、はっきり分からない。ただ、どの格闘技も、バランスは大切なような気がしていた。
「あまり、ジッと見ないでくれよ。見よう見まねなんだから」
「分かったよ」
 僕は足を使いながら、木の枝を真っ直ぐに前に突き出す。突き出す角度を変えて、何度も突き出す。
「それは、何をやっているんだ?」
「基本動作みたいなものだよ」
「ちょっと教えてくれよ」
「いいけど、本当に合っているか分からないからね」
「いいよ」
「本当は、足の運び方をまずできるようにならないといけないんだ」
「じゃあ、それを教えてくれよ」
「この線も僕が書いたものだから、いい加減だけどいいの?」
「いいに決まっているだろ?」
「利き足を、このラインの上に真っ直ぐに置いて、反対の足は横をむける。かかとはライン上でね」
「こうか?」
「そうそう」
 後藤は軽く膝を曲げて、重心を落とした。言わなくても分かるところが流石だ。
「前足だけを半歩前に出して」
 後藤は前足を半歩出した。
「あ、違う。足を戻して」
「戻したぞ」
「つま先を上げて半歩出すんだ。すり足じゃない」
「こうか?」
「そう。だけど、もう一度足を戻して。前足が着地するときに、後ろを引き付けるんだ」
 後藤は言わなくても、足の幅を肩幅のまま維持して動いた。
「うまいよ。そのまま前に何歩か進んでみて」
「よし」
 後藤は勘がいい。運動神経が元々いいんだろう。それだけに、僕が教えていいのかちょっと不安だった。
 後藤に教えているうちに、僕の腕時計が鳴った。
「あ、そろそろ帰ろう」
「もうか?」
 後藤は楽しくなってきているらしい。
「ごめん。でも、僕、朝走っているから」
「え、走り込みまでやっているのか?」
「うん、まあ」
[言わなきゃよかったかな?]
「今度俺も一緒に走らせてくれよ。毎日は眠くて無理だから、また今度な」
「わかったよ」
「結局俺を教えてばかりで、翔の練習が全然できなかったな。悪かったよ」
「いや、割と楽しかったし」
「明日もやるのか?」
「どうかな?」
 明日はキックボクシングに行くか、フェンシングの練習をするか決めかねていた。
「やるとき声かけてくれよ。俺もやりたい」
[だよね。悟はそう言うと思った]
「いいよ。声かけるよ」
「やった」
 後藤は嬉しそうだ。
「だけど、もし警察とかに見つかったら面倒くさそうだな。俺らは未成年だし」
「まあ、大丈夫じゃない」
 公園での練習のときは、辺りの人の気配を十分注意していた。木の棒を放りだして、ジョギングの真似でもすれば怪しまれないだろう。
「でも、ほぼ毎日部活もやって、僕との練習もやったんじゃ大変じゃない?」
「部活は明日から休みだから大丈夫だ」
「あ、そっか、もうすぐ中間テストか」
「嫌なこと言うなよ」
 そう言った後藤の顔が妙に可笑しくて、僕は思わず笑ってしまった。僕が笑ったのを見て後藤も一緒に笑っている。
「ところで、コンビニはいいの?」
 マンション前まで来た時に、僕は訊いた。
「まあ、いいや」
 僕は後藤と一緒にエレベーターに乗って家に向かった。


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