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僕の心臓が動いていることと、心があついこと

月影そら

見世物になっているようで居心地が悪い

昼休みになると、後藤が僕の席にやってきた。
「ああ、お腹が空いた」
 後藤はそう言いながら、大きな弁当を広げ始める。そこで気が付いたが、僕は昼を調達してくるのをうっかり忘れていた。
「あれ?昼飯は?」
「あ、なんか朝ボーっとしていて、忘れちゃったみたい」
 僕は頭をかきながら言った。
「よし、じゃあ、購買に行こう」
 後藤はサッと立ち上がると、僕を引っ張るようにして走り出した。僕は学校の購買を利用したことがない。何処にあるかすら知らない。
 購買の場所に着くと、何故後藤が走っていったのか分かった気がした。そこはバーゲンセールに群がるおばちゃん達が、高校生の男女の姿に扮したかの様に群がっていたから。
確か入学した当初に、並んで購入するように注意を先生から受けたはずだったが、全く意味を成していなかった。
 僕はもちろんこんなのに慣れていない。昼食を忘れたときに、自分の空腹感に気が付きはした。本当は何か食べたくて仕方がないけれど、ここに混ざるよりは我慢する方がましだと思った。
「おい、上に置いてあるものが書いてあるだろ?何がいい?」
 早口で後藤が言う。
「え?い、いや…なんでも」
「なんでもってなんだよ」
 こんな風に話している間にドンドン無くなっていくのだろう。
「ああ、もういいや。おまえここで待っていろ」
 後藤は果敢にその群れに挑んでいった。その姿は尊敬に値する。しかも、僕の為だ。他の人の声に交じって、後藤の声が聞こえてくる。後藤は逞しく強いと、僕は改めて思った。
 少しすると、後藤がその群れから抜け出してきた。来た時よりはその群れの大きさは小さくなっていた。
「とりあえず、四つゲットした!この二つは俺のお薦めだ。両方とも最後の一個だったんだぞ」
 後藤は誇らしげに言った。
「ありがとう。本当にありがとう」
「まあ、いいってことよ」
 僕は後藤に代金を払うと、二人で教室へ歩いて向かった。
 途中、またしても好奇の目が僕に降り注いだ。
「あれ、誰?見たことない」
「凄くかっこよくない」
「キャーこっちチラッと見たよ」
 等々、僕にはどうしていいのか分からないものばかり。
「やだー、赤くなってない?可愛い」
 正直、走って逃げたくなっていた。
「翔はこういうのに慣れないんだな。まあ、お前らしいっちゃお前らしいか」
「僕は動物園の動物にでもなった気分だよ」
「ワハハ、面白い例えだな。でも、羨ましくないっていったら嘘になるけど、なんでか、悔しくないんだよな」
 ひたすらこの数年間、目立たないように過ごしてきた僕にとっては、試練になっている。
「ほら、背筋が曲がってるぞ。顔もあげろ」
 後藤は時々子どもを心配する親の様だ。
「悪いことしている訳でもないし、俺って実はイケてるくらいに思っておけばいいんだよ。堂々としてろ」
 後藤の言うことは最もだ。
「それでも、いたたまれないなら俺が一喝してやろうか?」
「いや、それはいい」
 僕は顔を上げて背筋を伸ばした。
[悟、ありがとう]
 言葉を口にできなかったけど、僕はそう思った。
 教室へ戻ると、僕らは昼を食べ始めた。僕はなんだか勿体ない気がしたけど、ありがたく食べた。
後藤お薦めのものは、一つは大きなピザパンで、もう一つは中にアンコが入った揚げパンだった。他の二つも含めて全部美味しかった。ただ、これだけの量じゃ全然足りなかった。そう言えば、今日は鍛錬の後も、何も食べていないことを思い出した。
 午後の授業では、水瀬さくらと何度か目が合った。最も、今日は他の女子とも目が合って、凄く困ってしまった。
 放課後になって僕が帰ろうとすると、柔道部の小池が僕らのクラスに顔を出した。
「神崎君?本当に神崎君なの?」
小池は目をまん丸くしている。
「まあ、一応」
「君、凄く話題になっているよ。C組の神崎が実はイケメンだったって」
 僕は苦笑いをした。
「いいなあ、羨ましい。神崎君は背も高いしさ」
「ほら、小池、部活行くぞ」
 いつの間にかやって来ていた後藤が、小池を連れて行こうとする。
「あれ?神崎君は?柔道部には入らないの?」
「翔は他にもやることがあるから、部活には入らないんだよ。ほら、行くぞ」
 後藤は半ば強引に小池を連れて出ていった。僕はホッとして教室を出た。
 

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