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僕の心臓が動いていることと、心があついこと

月影そら

人により近い相手はまいる……

練習が終わると、こちらも入会申込書を渡された。今度は、当然入会金も必要だった。
 僕は自転車で来ていたので、自転車を引きながら後藤と並んで帰路についた。
「どうだ、柔道は」
「この間の部活は、僕に教えてくれてばかりだったから、よく分からなかったけど、悟は本当に柔道が上手いんだな」
「まあ、小学生になってすぐにやっているからな」
「この間は合気道の練習をついさぼっちゃったけど、やっぱり合気道は続けたいから、部活には入れないかな」
「この前っていつだ?」
「あ、合気道は水曜日なんだ」
「ああ、翔が眠りこけていた日か。ああいう日は仕方がないな」
 あの日は、家に帰るといきなり霊長類の怪物と戦う羽目になった。とてもその後に合気道に行く気力なんてなかった。
「じゃあ、今日のはどうだ?」
後藤はよっぽど僕に柔道を習ってほしいらしい。
「今日の剣道と柔道は、やってみようかなって思う」
 師範に一本とったとは言え、いろんな学べそうなことがあるような気がした。強くならないと、僕は死んでしまうかもしれない。それ以上に水瀬さくらも死ぬかもしれない。
「そうか、習うか。俺も剣道のことを親に話してみる。許してもらえたら一緒にやろうな」
 後藤は嬉しそうだ。何故僕と一緒に習うのがそんなに嬉しいのか全く分からないが、悪い気はしない。
 僕らは真っ直ぐに家に帰って、後藤が暮らしている五階で別れた。僕にはこの後、まだ大変なことが待っている。正直、今日は剣道と柔道の見学をしたから疲れていた。こういう時は、冷凍食品に頼るのが一番だった。
 僕は冷凍食品を次々に温めて、あるいはラーメンを作って食べた。そのまま眠りたかったけど、そうもいかない。そもそも眠っている間に場所を移されたとしたら、僕はちゃんと気がつくのか?気が付かないで、そのまま攻撃されて、痛みで目を開けるのは勘弁だった。
「どうして僕だけが、こんな大変な思いを毎日繰り返さなくちゃいけないんだ…」
 僕は、足元にすり寄ってきたミャアを抱き上げて、頬を摺り寄せながら独り言を言った。
 どんなに嫌でも、勝手にあの世界に連れて行かれて、怪物たちが僕に攻撃してくる。どんなに疲れている日でも、気分が乗らない日でも、関係ない。物凄い強制力だ。
「もう、目立つとかそういう問題でもなくなってきている。僕は普通の人と違ってきている。気が付かれない様にしないと」
 僕は大きくため息を吐いた。だけど、時間が近づいていた。靴を履かないと、裸足で放り出される。僕は急いで靴を履いて備えた。
 今回は蛾ではなかった。また、相手が変わったのだ。今回は小鬼と呼べるような相手だった。最初から三人(三匹?)いる。
 僕の気持ちを悪くさせたのは、一見、人の子と変わらないように見えたからだ。小学校五年生くらいの背丈だろうか?ただ、その目は黄色というよりも、ゴールドの輝きを放ち、角が頭部から生えていた。
ある者は一本、またある者は二本。額の真ん中辺りに一本と若干後ろ気味の左右の横から二本、全部で三本角が生えている者もいた。髪の毛はバサバサで短いが、皆頭部にちゃんと生えている。
そして、手と足の爪は伸びていて、先が尖っていた。靴は履いていなかったが、ヨレヨレのシャツと、ズボンを履いていた。ところどころ穴も開いているような服だった。手には槍やナイフをそれぞれ持っていた。
僕は、こんなに人に似ている相手と戦うのを躊躇った。しかも子どもだ。だが、小鬼は容赦しない。三人で一斉に僕に飛び掛かってきた。
僕はラウラスでナイフをはじいたり、攻撃を避けたりした。しかし、思った以上に素早い攻撃の数々で左肩を切られてしまった。すぐ治ることは知っているけど、どうしたって痛いものは痛い。
小鬼たちは、僕が怪我を負うと、嬉しそうにキャッキャと笑った。そして、すぐにまた攻撃をしかけてくる。
[足をやられなかっただけマシだ]
 足をやられると、どうしても動きが鈍る。攻撃を避けきれなくなるからだ。どちらにせよ、消滅させないと僕はここから出られないのだけど。
 尚も、小鬼たちの猛攻撃が続く。襲い掛かってきた小鬼のナイフを、その手から遠くへラウラスで弾き飛ばした。瞬時にその小鬼は、その鋭い爪で僕の顔から胸の辺りを引っ掻いた。幸い目はやられなかったが、傷口は浅くはなかった。
 残りの二人の小鬼が僕に攻撃をしている隙に、ナイフを飛ばされた小鬼はそれを拾いに行っている。そして、今度はそのナイフを僕に向かって投げつけてきた。僕は、やはりラウラスでそれを弾く。その弾いている瞬間に、別の小鬼の槍で、僕は右足のふくらはぎを刺された。
「うあ」
 僕は思わず叫んでしまった。防衛だけでは、このままやられると思った。霊長類の怪物よりも、蛾の怪物よりも、小鬼の方が動きが早いのだ。
 僕は、僕を刺してきた小鬼をキッと睨みつけた。どうせ、明日も小鬼と戦わなくちゃいけないんだ。そして、今も…。
[仕方がないんだ…やらなきゃやられる]
 僕は攻撃に移ることにした。
[せめて、一瞬で消滅させる]
小鬼の攻撃を受けながら、僕は、一撃で小鬼を消滅させるようなダメージを与えようと必死だった。
 小鬼は飛び上がると、楽に僕の頭上まで飛び上がってくる。僕はそこを逆に真っ二つに切り裂いた。切り裂く瞬間は、思わず目を閉じてしまった。
 あと二人の小鬼は、仲間がやられたこともお構いなしで、僕に攻撃してきた。僕は目を敢えて閉じて、できるだけ無心になり、小鬼の動きだけに集中した。そして、残る二人の小鬼も切り裂いて消滅させた。
 小鬼の血は、僕と同じように赤かった。それも僕を気持ち悪くさせた。
 小鬼が消滅すると、僕はすぐに自分の家に戻った。できるだけ何も考えない様にして、風呂に入り、ヘッドホンをして音楽を聴きながら、必死で目を閉じた。
だが、小鬼を切った時の血しぶきが、閉じた瞼がまるでスクリーンの役割をしているかのように、映像として浮かんでくる。
「どうしようもなかったんだ。どうしようもなかった」
 僕は、何度も自分にそう言い聞かせるようにしながら、眠りについた。
 

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