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僕の心臓が動いていることと、心があついこと

月影そら

剣道の見学でやりすぎてしまった……

「はい、お願いします」
 僕は後藤に続いて頭を下げた。
 僕らの相手は師範が務めた。
「好きなようにかかってきてみたまえ。一太刀でも当てたら入会金を免除にしよう」
 最初に竹刀を握った後藤は、師範にその大きな身体でかかっていく。面は付けていないものの、胴体の防具を師範は付けていた。後藤の身体が大きいせいで、師範が飛ばされてしまうように見える。
しかし、師範は後藤の攻撃を巧みに避ける。結局後藤の打ち込みは、竹刀ではじき返されたり、簡単に避けられたりして、一度も当たることがなかった。
「脇がしまっていてなかなか良かったよ。もしかして、何か武道をやっているのかい?」
「はい、幼い頃から柔道をやっています」
「なるほど、で、剣道にも興味を示したのか?」
「はい。今日、稽古を見て凄いと思いました」
 後藤は、背筋をシャンと伸ばしていて礼儀正しい。師範はそれに対して、好印象を持っているようだ。
 次は僕の番になった。竹刀の握り方だけは教えてもらった。僕は見様見真似で構えてみる。ラウラスを握っているときは、こんな風に構えたことはなかった。
「いきます」
 師範は僕の言葉に頷いた。僕はまず正面から向かっていった。師範の動きはきっと遅くもないけど、早くもまるでない。でも、ある程度合わせないと、僕は異常な人間になる気がする。
 師範は竹刀で僕の攻撃を防いできた。足の動きは分からないけど、合気道のすり足で動いてみている。
竹刀がかち合って、バーンと音を立てた瞬間に、僕はすかさず横に身体をずらし、師範の胴を打ち込んだ。師範は、よろけて後方に数歩下がった。一応、力はかなり抑えたつもりだった。
 辺りがシーンと静まりかえった。さっきまで竹刀のかち合う音で響いていたのに、皆がこちらに注目している。
[しまった。やりすぎた]
 そう思っても後の祭りだ。僕は竹刀がかち合った瞬間、殆ど反射的に体が動いてしまったのだ。
「いや、かなり強い一撃だったよ。剣道の動きとは違うが、凄かった。まさか、この俺が一本取られるとは思わなかった」
「すっげえ!」
 後藤が喜々として僕に駆け寄ってきた。
「なんか、おまえは普通じゃないって気がしたんだ」
[普通じゃないって?]
 僕は軽くショックを受ける。
「君は、確か神崎君だったね。いや、凄かったよ。確かに普通じゃない。何かやっているのか」
「翔は、合気道を小さい時からやっているんです」
「なるほどな。合気道は、木刀を使ったりするものもあるから」
 ちなみに、合気道で僕が木刀を握ったことはない。先生が木刀を使って、それを避ける練習はしたことが何度かあった。
「もしよかったら、君たち二人とも入会しないか?二人ともなかなかいいと思う。特別に、二人とも入会金はなしでいいから」
 僕らは師範に入会申込書を渡された。僕らはお礼を言って、練習場を後にした。
 僕と後藤は、次に更衣室で道着に着替えた。さっきは私服で見学していたのだ。
「しっかし、さっきは凄かったな!動きが早くてビックリした」
 後藤は楽しそうだ。
「…まあ、偶然だよ…」
[上手い誤魔化し方が見つからない…]
「偶然なんてもんがあるか。もしかして、翔は喧嘩慣れしているとか?実は木刀で中学の頃暴れまわっていた?」
「そんなことあるわけないよ」
「まあ、そうか」
 後藤は少し残念そうだ。いったい僕に何を期待しているんだか?
 鍛錬をするようになってから、僕は明らかにおかしくなっているようだ。そうならないと、やってくる敵を倒せないということなのかもしれない。僕の身体能力の上がり方は、とても普通とは言えなかった。
 柔道の方へ行くと、後藤の表情はさっきよりも引き締まっているように思えた。僕はそこでは(せっかく道着を着たのに)見学だけをした。僕は練習の全部を見たけど、殆ど後藤の動きを見ていた。
 後藤が、中学の柔道の大会で、いい成績を取ったのがよく分かる。後藤の動きには無駄がないように思えた。
[本当に柔道が似合っている]
 僕はそう思わずにはいられなかった。

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