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僕の心臓が動いていることと、心があついこと

月影そら

前髪がないと落ち着かない

カットが終わってから、僕はシャンプーをしてもらった。これはかなり気持ちが良かった。そして乾かしてもらうと、元の僕とは随分違う男が鏡の前に座っていた。
 切っている最中から、少しずつその変化に、僕もどこか楽しくなっていたし、不安でもあった。なんだかイメージが違いすぎて、学校で目立ってしまいそうだなと思ったから。でも、目立つのを嫌がってばかりいられないと、腹を括ったばかりだったはずだ。だから僕は、その考えを頑張って払拭した。
「いやー結構なイケメンに大変身じゃないか。やっぱり可愛い顔しているよ。でも、男の子に可愛いは誉め言葉にならないな。もちろん、かっこいいんだよ。切っていて楽しかったよ」
 僕はなんて返答していいか分からなかった。そんな僕を尻目に、美容師は僕の会計までをスムーズに済ませた。
 美容院を後にしての帰り道、僕は周りに見られているような気がしてならなかった。僕の前髪が切られてしまって、視界が開けたことも関係していたのかもしれない。
とにかく慣れない髪型に、周りが可笑しいがっているんじゃないかと、思わずにはいられなかったのだ。
 
次の日の日曜日、僕は剣道の見学に行こうかと思っていた。だけど、後藤からレールで連絡があった。
<俺、毎週日曜日に柔道の道場に通っているけど、一度来てみないか?>
 後藤は、相当に僕に柔道をやらせたいらしい。
<時間は何時から?>
<僕、今日は剣道の見学にも行くんだけど>
<夕方だ。四時から六時まで>
 剣道はその前の二時から三時半までだった。場所も同じ市民センター内だったので、僕は後藤の誘いに乗った。だけど剣道の見学に、何故か後藤も行くことになった。僕らはその前に会って、一緒にご飯を食べることに何故かなってしまった。
 後藤との昼は、市民センター近くのファミレスになった。後藤はその前の午前中は部活があるらしく、ファミレスで待ち合わせになった。
 僕は正午近くなると、空腹を感じたので先に家でいろいろ食べた。後藤との待ち合わせは一時だった。
 一時近くになると、僕は自転車で待ち合わせのファミレスに行った。後藤はまだ来ていないようだった。僕は先に席に座って、後藤を待っていた。
たいして待つこともなく、後藤はやってきた。キョロキョロしている後藤に対して、僕は軽く手を振った。後藤と目線が合うと、後藤は驚いた顔をしていた。意味不明だったが、瞬時に、昨日僕が髪の毛を切ったことを思い出した。
[やっぱり可笑しいのか?]
 僕は慌てて顔を伏せた。
「よう、誰だか全然分からなかった」
「や、やあ…」
 僕は長い前髪が恋しくなった。
 後藤は僕の向かい側の席に座ると、僕のことをマジマジと見て来た。
「なんか注文したか?」
「いや、まだなんだ」
「俺、腹減ったから、とにかく何か頼もう」
 僕たちは、ぞれぞれの食べたいものを注文した。僕はマグロのたたき丼に唐揚げを頼んだ。後藤はかつ丼定食を頼んだ。
「しっかし、本当に見違えた。おまえ、こんなにかっこよかったんだな。これじゃあ女子が放っておかないだろうな」
「いやー」
 僕は苦笑いをする。
「チックショウ、羨ましいぜ」
 僕はなんて返答していいか分からない。
「だけど、隣のクラスの相田佳代子だけは駄目だからな」
「えっ?…もしかして…その相田さんのことが好きなの?」
 自分から言ったのに、後藤は照れ臭そうに頭をかいた。
「へへ、まあ、そういうことだな」
「ごめん、僕、相田さんが誰かもよくわかっていない。隣のクラスっていうとB組?」
「いや、反対側のD組だ」
 僕は内心少しホッとしていた。水瀬さくらはとても人気があったし、後藤ともよく話をしていた。だけど、僕は彼女の為に戦わなくてはいけないから…。
「そういう翔はどうなんだよ。誰か気になる女子はいないのか?」
「いやー…だいたい、僕になんか好かれたら、その相手が可哀そうだよ」
「はあ!」
 後藤は少し大きめの声を出した。しかし、その時に頼んでいたものが運ばれてきたので、後藤は黙った。店員が行ってしまうと、後藤は口を開いた。
「おまえ、自分のことよく見てみろよ」
 後藤はなんと、鏡を持ち歩いているらしく、僕に鏡を見せてきた。確かに髪を切った後では、モッサリ感も、暗い雰囲気も、あまり感じられないように思える。
「俺がおまえの顔だったら、とっくに相田に告白しているよ」
「本気で言ってるの?」
[…意味不明…]
「翔がクラスの中で、いや、学校の中で一番かっこいいんじゃないか?」
 僕は思わず、吹き出して笑ってしまった。
「それはないよー」
「いや、マジだって。そう言えば、翔は女の姉妹はいないんだっけか?」
「兄弟自体がいない」
「すげえ、残念だな。もしいたら、絶対、すっごく可愛い子だったろうに」
 後藤は本当に残念そうにした。
「まあ、じゃあそういうことにしておく。でも、別に、僕に好きな子はいないよ」
「じゃあ、今後できたら一番に俺に教えてくれよ。俺だって教えたんだし」
「分かったよ」
 食事を平らげると、僕らは店を出て市民センターへ向かった。時間の頃合いもちょうど良かった。
 
剣道は、高校生から大人までが練習している時間だった。練習場の隅の方に、僕らは正座をして座っていた。
 軽く準備体操をしてから、皆で素振りをやっていた。その後は二組に分かれて、掛かり稽古を始めた。結構激しく片方が打ち込んでいく。しばらくすると、交代でやっていた。
「結構激しいのな」
 後藤が僕に小さな声で言った。
「そうだね、でも、結構動きがゆっくりなのかな?」
「えっそうか?」
[しまった…]
僕は、ここ数日は、死闘とも言える戦いを繰り返していた。だから、普通の感覚とは違うようになっていたのだ。
 しばらく様子を見ていると、師範らしき人が話かけてきた。
「どうだね。少し竹刀を持ってみるかね?」
 後藤はすぐに反応を示した。

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