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僕の心臓が動いていることと、心があついこと

月影そら

蛾の鍛錬が続く

家に着くと、僕は、今度は昨日もやった筋トレをやった。だけど、昨日の倍の数はこなした。
「やっぱり、今の僕の身体は普通じゃない。体力の付き方が異常だ」
 僕は少し怖くなったが、空腹に耐えかねて、昨日買ってきた残りを食べた。
[いったい、今は一日何食くらい食べているんだろう? ]
 確かに体をよく動かしてはいるが、日々の空腹感が半端なかった。今月はいつもより食費にすごくお金も使っていた。ずっと家に寄り付かない父親だけど、お金だけは必ずたっぷり振り込んでくれることに、少しありがたみを感じた。
 僕は汗も凄くかいていたけど、八時になったら再び汗をかくと知っているから、食べたものを片付けると、久しぶりにミャアと遊んだ。
 前に買ってきてあった、新しい猫のおもちゃを開けて見る。ミャアはそれをジッと見ている。僕が手に持って動かすと、前足でそれを捕まえようと必死にじゃれてきた。
 ミャアは白をベースに、黒と少しの茶色が入っている三毛猫だ。小柄なメスだけど、去年避妊手術をしている。人間の都合で避妊手術をしたわけだ。傲慢な人間の中に、僕もすっかり仲間入りしている。
 ミャアと遊んでいると、すぐに八時が近づいて来た。ミャアも少し退屈してきていたところだったから、ちょうど良かったと僕は思った。また、昨日の蛾なのかと思うとちょっと辛かったけれど、どうせ逃げることは叶わないと既に僕は諦めていた。
 僕は自分の部屋で靴を履き、ラウラスを握った。
「ラウラス、今日もよろしく」
 僕がそう言った途端に僕は草原の中にいた。
目の前の少し高い位置には、やっぱり昨日と同じ蛾がいた。今度は五匹。僕は三匹なのではと思っていたから、ちょっとうんざりした。
「何匹になろうと、絶対に血を吸わせないからな」
 僕は蛾に向かってそう宣言した。太ももをストローで刺された感覚は、もう二度と味わいたくなかったし、あの後の身体のだるさは生命の危機を感じる。
 五匹の蛾は容赦なかった。明らかに僕を囲もうとしているのが分かったから、まずは攻撃を避けるのと同時に、飛び上がりながら、下から一匹目を斜めに切り裂いた。 
 蛾は、緑色の液体だけを残して消えていく。しかし、僕が着地する間もなく、他の蛾が攻撃をしかけてきた。一匹はストローで、もう一匹はその分厚い翅で。
 ストローで攻撃して来た蛾のストローを、僕は着地と同時に剣で切り落とした。しかし、翅で攻撃して来た方の、その分厚い翅が、思いっきり僕にぶち当たった。まるで分厚い板で、思いっきり殴られているようだ。下手したら、意識が飛ぶのではないかと思った。
 地面に転がった僕を、他の蛾がストローで攻撃してくる。当たったが最後、血を吸われてお終いだ。
 僕は、身体を地面の上で回転させながら、攻撃をかわした。他の蛾もその攻撃にすかさず加わろうとした時に、僕はストローを切り落とした。
 攻撃に加わろうとしていた蛾は、そんなこともお構いなしに、僕を攻撃してきた。僕は半身だけ起こした状態で、ラウラスをそいつに投げつけた。まるで僕の意志を受けているかのように、ラウラスは蛾の胴体を見事に貫いた。
 ラウラスは蛾が消滅すると、下へ落ちていく。
「ラウラス」
 僕が呼ぶと、ラウラスは次の瞬間には、僕の手の中にあった。僕は急いで立ち上がり、他の蛾の攻撃に備える。ストローの先の方を僕に切られているとは言え、まだ三匹も蛾が残っているのだ。
「ラウラス行くぞ」
 僕は両手でラウラスを握ると、蛾の攻撃をかわしつつ、まだ何も傷を負っていない蛾の背後から飛び上がって、上から真っ二つに切り裂いた。
「あと、二匹」
 さっきの翅での攻撃で、口の中が切れていた。鉄臭さが、僕の鼻腔にいやな刺激を与える。腫れていた頬がもう痛くない。だから、口の中の傷自体は治っているはずなのに、それはまだ残っているのだ。
 僕は、足を止めることを許される状況ではなかった。霊長類の怪物よりも、蛾の方がしつこい。僕に吸血する為なのかもしれない。残りの二匹の蛾は、ストローで連続攻撃をしてきた。少しずつ 短くなっていて、緑の体液も流していたのに、まだ吸血を諦めないでいる。
 だけど、僕はこの怪物の攻撃にもだいぶ慣れてきていた。僕は攻撃を避けながらその憎らしいストローを、かなり根本近くから切り落とした。二匹とも立て続けに切り落とした。すると、蛾の黒かった目が赤く染まりだした。しかも点滅している。
 二匹の蛾は、今まで大して取れてもいなかった連携を取るかのように、一匹が翅で僕を後ろから叩いて、前に吹っ飛ばした。今回もかなりの打撃だ。もう一匹は、僕の前で僕を待ち構える様に、口吻を開いて食らいついてこようとした。 
 僕はその瞬間に、口吻にラウラスを突き付ける。ラウラスはそのまま蛾の背中まで突き抜けた。蛾はもちろん消え去った。
「最後だ」
 僕は叩かれたダメージが消えていなかったので、身体全体がズキズキと痛んだが、最後の一匹へラウラスを振り上げた。ラウラスは蛾の左翅の部分を半分落とした。蛾のバランスが崩れて地面に落ちた。こうなっては、もう攻撃もできないだろう。
 僕はこれ以上、この蛾を切ることをしたくなくなった。逃げることも、攻撃をすることもできないのだから。
「このまま放っておいたらどうなるのだろう? 」
 手当をしてやることもできない。でも、動けない弱っているモノに、攻撃をするのも気が引けて仕方がない。

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