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僕の心臓が動いていることと、心があついこと

月影そら

携帯の活用

僕がそんなことをしていると、携帯が鳴った。レールが来た音だった。
<明日の予約とれたぞ。午後三時からだ>
 それは後藤からのチャットメールだった。
<ありがとう>
 僕の携帯電話は、カタログの中から選んだものだった。高校生になってから、父親がカタログを送ってきたのだ。そろそろ携帯を持ちたい時期だろうと、メモ書きのような手紙と一緒に、カタログは送られてきた。
父親がそんなことに気を回していたから、物凄く驚いたが、契約を必要とする種のものは、お金があっても、僕が未成年である以上購入は難しかった。だから、僕はその中から選んだのだった。今年の四月の話だ。
 それでも、僕は携帯をまあまあ気にいっていた。パソコンもノートを持っているが、ちょっとした調べものは、ほとんどスマホで調べることができて、とても楽だった。ただ、僕のアドレス帳には、連絡をほぼ取りあわない父親のアドレスと、学校と合気道の番号が入っているくらいだった。
同年代の奴の連絡先も、やり取りも、後藤が初めてだった。だから、こんなやり取りに僕は少し緊張をした。
 後藤からは、いわゆるスタンプが返ってきた。ヘンテコなゴリラの絵で、<楽しみだ>と書いてあった。
「これが、スタンプか…」
 僕は携帯で目覚ましをセットすると、携帯を机に放り投げた。明日は朝八時から鍛錬が始まる。学校がないから少し遅めなのだろう。でも、僕は今朝と同じ様に、明日も朝走ることを決めていた。

四章
 翌朝目を覚ますと、僕はすぐに外へ走りに出かけた。日中はまだ暑いけど、早朝と夜中は幾分かマシになっていた。
 昨日と同じコースを、昨日より少しスピードを上げて走る。すると、すぐに走り終えてしまいそうだったから、僕は回り道をすることにした。
今日は、急な坂道がある場所を選んだ。昨日は平坦な道ばかりだった。流石に急な上り坂は、結構きつかった。走るペースを少しも落とさずに走ったせいかもしれない。
 坂の頂上まで来ると、町の景色を眺めることができた。まだ六時半にもなっていない。でも、何台か車が走っている。今日は土曜日だから、家族とどこかへ出かけるのかもしれない。
 僕には家族と出かけた覚えなんてなかった。お祖母ちゃんが、小学生の時に電車でそう遠く離れていない、都内の動物園に何回か連れていってくれたことはあった。
僕が、水族館や遊園地も行きたいとせがんだこともある。でも、距離があるとの理由で連れて行ってはもらえなかった。だから、僕は学校の遠足ぐらいでしか、山も言ったことがないし、海も行ったことがなかった。
 お祖母ちゃんは優しい人だったけど、あまり外出を好む人ではなかった。近所の散歩くらいはよく行っていたが、それ以上は足をあまり伸ばさない。
最も、僕の母親が死んでしまうまで違う県にいた人が、僕の面倒を見る為に、引っ越しをしてきてくれたのだ。長く暮らしていた家は結局売り払い、ずっと僕の側にいてくれた。母親の記憶は全然無いが、お祖母ちゃんには凄く感謝している。
 僕は、高台の上にある住宅街をグルリと回ってくると、上ってきた坂を今度は下りだした。調子に乗って少し加速しすぎた。カーブが曲がれない。ガードレールに突っ込みそうになったところで、僕は足を踏み切った。
 坂道はカーブで、コの字を描いている場所だった。少し低くなった前方に、ガードレールに守られて坂道が続いているのだ。その距離は十メートル近くあるだろうか?でも、僕は何となく飛べるような気がしてしまったのだ。
 僕の身体は、手前のガードレールに全くぶつからずに、宙を浮いた。そして、その下の崖のようになっているところを、見事に飛び越していく。その滞空時間は心地よかった。まるで、漫画やゲームの世界だ。そのまま僕の身体は、対面側の道のガードレールも難なく越えて着地を決める。
 僕は少しドキドキした。飛び越せた爽快感と、こんなことを、しかも僕が生活をしている世界でやってのけたことに、少し興奮していた。が、そこでハッとなって僕は辺りを見渡した。
 辺りには人はいない。近くに人らしき気配も感じない。もしも、今の姿を見られていたら、いいとこオリンピックに出場させられるか、悪くて実験材料になるかだと僕は思った。おそらくこの幅は、常人が越えられるものではないはずだ。でも、人の気配は感じない。仮に離れていた場所から見ていた人がいても、僕の顔までは識別できないはずだ。僕は念のために、この坂は当分来ないでおこうと思った。

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