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僕の心臓が動いていることと、心があついこと

月影そら

ラウラスが助けてくれた?

一匹ならまだしも、二匹の攻撃を、しかも、もう一匹も加わってくるだろうから、とてもよけきれないと僕は思った。
[こんなとこで死んでしまうのか]
 そう思った時、握っていた剣が光った。特に僕の血が付いている部分の光が強い気がした。
その光は僕には眩しくもなく、温かく感じただけだった。そう、まるで僕を包み込んでいくような感覚になったから…。
[なんて温かくて、優しいぬくもり何だろう…]
 その光は数秒の間輝くと、徐々に消えていった。剣についていた、僕の血痕が消えていた。そして、辺りにいたはずの蛾の姿が何処にもなかった。
「どういうことだ?」
 僕はまるで、夢から覚めたような感覚だった。眩暈も、目の霞みも、すっかり治っていた。
 僕は剣をジッと見つめた。もちろん剣は何も答えてはくれない。
「おい、おまえが倒したのか?僕を助けてくれたのか?」
 剣は沈黙を守っている。
僕は少しの間、剣を見つめていた。もちろん沈黙は破れないけど、頑張れと言われているような気がした。
「三匹、出てこい」
 僕は叫んだ。僕の太ももの傷口は、もうすっかり治っている。体調も万全だ。このままじゃ、引き下がれない。
 さっきと同じように、頭上から蛾が三匹現れた。まるで、僕を取り囲むようにしている。しかし、今度はその分厚い翅を使って僕に強烈な風圧を叩きつけてきた。
別に、それで僕の皮膚が切れるわけではない。ただ、とてもじゃないけど目を開けていることができなかった。おまけに蛾の臭い匂いも漂ってきて、これが本当にきつかった。
 あの翅が直接当たっても、僕は相当なダメージを被るだろうと思った。蛾は徐々に近づいてくる。僕がストローの射程距離に入ったら、すぐに攻撃を開始してくるだろう。
 僕は、どうせ開けていられないならと、敢えて目を閉じた。そして神経を集中した。別に、ストローで攻撃をしてくるのを待つ必要もない。すごい風圧だが、今の僕ならきっと動ける。
 僕の背後にいる蛾がだいぶ近づいてきたところで、僕は、クルリと身体を回転させながら、少し飛び上がった。飛び上がりざまに、下から蛾を突き刺した。すごい風圧でも、目が開けられなくても、蛾の居場所も、どこに何があるかも、なんとなく分かった。気配というのか、そこからは、エネルギーが漏れているのだ。
 蛾は、緑の体液を噴き上げて消滅した。残るは二匹。
 残りの二匹の蛾は、すぐにストローで物凄い連続の攻撃を仕掛けてきた。僕はそれを避けて、横跳びに飛び上がる。そのまま、一匹の蛾の胴体と、その分厚い翅の真ん中より少し下の方を、横に切り離した。また緑の体液があふれ出る。蛾の体液と霊長類の体液の匂いは少し違う。とは言え、両方とも嫌な匂いだ。身体にかかるのは不快だが、元の世界に戻ればそれも消える。
「あと、一匹」
 僕は一回転しながら身を翻して、剣でもう一匹の下の方を切り落とした。蛾は、それでもストローでの攻撃を辞めない。僕はそのストローも切り落とし、軽くジャンプして、蛾の高さまで飛び上がった。そのまま斜めに剣を切り落として最後の一匹を消滅させた。
「よし、頑張った」
 蛾への怖さは乗り越えた気がする。
「元に戻る」
 僕はそう言って、僕の部屋に戻った。
 今日は、沢山汗をかいていたので、まずすぐに風呂に入った。汗をすっかり流してしまうと、さっきあれほどお好み焼きを食べたのに、また空腹感が襲ってきた。しかし、こうなることは予想していたので、僕は帰りがけにスーパーに寄って、食料を大量に買い込んでいた。  
後藤がそれを見て少し驚いていたが、明日の朝食べるものだと適当に言っておいた。即席で食べられる菓子パンやおにぎりなんかを大量に頬張ってから、僕は自分の部屋へ戻ってベッドで横になった。
仰向けに寝転がると、僕は剣を出して握った。改めて眺めてみる。部屋の隅では自分の寝床で、可愛い寝息を立ててミャアが眠っていた。僕は身体を起こして僕の前に剣を置いてみた。
「おい、もしかして何か知っているんじゃないのか?僕は分からないことだらけで困っているんだ。さっきみたいに僕を助けてくれよ」
 剣は当然何も答えない。ただ、蒼い二本の光の線が輝いているだけだ。
「僕は、おまえに名前を付けて見ようと思うんだ。いつも助けてもらっているし、今日は死んでしまうかもしれないところを助けてもらったみたいだから」
 どんなに話しかけても剣は何も答えない。僕は気にしないで続けた。
「さっきは本当にありがとう。すっごく助かった」
 剣は何も答えないが、僕はこの剣が僕の言っていることを、なんとなく理解している様な気がしてならなかった。
「おまえ、話ができないのか?でも、僕の言っていることは理解しているよな?」
 部屋の中にはミャアの小さな寝息しかない。
「アイルランドやスコットランドの言葉で、光の剣という名の神話に出てくる剣があるんだ。僕はおまえの名前をそれに決めたよ。『クラウ・ソラス』だ」
 僅かに蒼い光が強くなったような気がした。僕は、逆にそれを見て、この先の言葉を続けるのが少し躊躇われた。
「カッコいいんだけど、ちょっと長いから、勝手に略すことに決めた。だから、本名は『クラウ・ソラス』だけど、僕は『ラウラス』とおまえを呼ぶことに決めたから。クとソを省略したんだ。こっちの方が、僕には呼びやすいし、カッコいいだろ?」
 だけど、僕はどうしても剣がどう感じたのか、知りたくて堪らなくなった。感じたりするのかどうか定かでもないのだが…。
「じゃあ、もしこの名前が嬉しいなら、その場所から、僕の手の中に移動してくれ」
 すると、剣は次の瞬間に僕の手の中にあって、僕はラウラスを握っていた。しかし、僕はもう一度元の場所に戻して、
「じゃあ、今度は『ラウラス』の名前が嫌だったら僕の手の中には来るなよ」
 僕はちゃんと剣が手の中に来るように意識を向けたが、ラウラスを握ることはなかった。
「じゃあ、今度は嬉しいなら、手の中に」
 ラウラスはちゃんと手に収まっている。
 僕は嬉しくなって、何度もそのやり取りを繰り返してしまった。ラウラスは、根気よくその僕に付き合ってくれた。
 

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