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僕の心臓が動いていることと、心があついこと

月影そら

身長が伸びていた?

学校はいつもと変わらない。だけど、少しだけ景色が違って見える気がした。でも、それは僕の背筋が、自然と伸びているせいだとすぐに気が付いた。
 今までは確実に下を向いて歩いていた。でも、自然と前を向いていた。と、言うのも、周りをいろいろ見渡しているからだ。一か月後に何かが起こるかもしれない。そう考えるといろんなことに目がいった。やっぱりできるだけ目立ちたくないけど、もう、どうせなら水瀬さくらを守ってみせると僕は思い始めていた。
[僕って、意外に順応力があるんだな]
 少し自虐的な気分になった時に、後ろからバンと叩かれた。
「よお、おはよう」
 教室目前の廊下だった。相手は後藤。朝から力が強い。
「おはよう」
 僕は後藤の顔を見ないで少し下の方を見て言った。
「道着は持ってきたか? 」
「うん」
 ガラッと後藤が教室の扉を開けた。
「おはよう」
 後藤は大きな声でいつものように挨拶した。クラスにいる何人かはそれに応える。
 後藤は、中央より少し窓よりの自分の席へそのまま行ってしまった。僕は自分の席に着くと、後藤がクラスの奴と会話しているのを少し眺めた。だけど、そのうちの一人と目が合いそうになったから、慌てて下を向いた。
 すぐ近くでは、三人組でいつもいる女子たちがふざけ合っていた。そのうちの一人が、僕の後ろからぶつかってきた。僕は微動だにしないで、それを背中で受けた。こういう時は、今までと同じで、ぶつかって来た相手に少しも反応を見せない様にする。
「あ、やだー。神崎にぶつかっちゃったよ」
 ぶつかって来た女子は、僕に謝りもしない。僕に触れたであろう場所を手で払ってから、何事もなかったように、他の二人と僕の側から離れていった。以前なら、僕もそれくらいのことには、ただただ無感覚でいるように努めていた。
 そもそも、多少毛嫌いされても、悪口を言われても、存在を無視されても、それくらいのことではあまり何も感じなくなっていた。でも、今は何だか少しホッとした。あんなにひどい死に方をするよりも、僕を虫けら扱いしている方がずっとましに思えたのだ。
 僕は、机を見つめながら、辺りの気配に感覚を澄ませた。すぐに朝のホームルームが始まり、授業も始まったが、これは、とても平凡な状況なんだと、改めて実感した。感覚を澄ます、すると、直接見なくても、なんとなく皆の動きが分かるようだった。
 昼休み、昨日と同じ様に後藤が僕の前の席の椅子を僕の方に向けて、ドカッと座ってきた。一昨日まで、後藤と一緒に食べていた奴らは、平気なのだろうかと少し気になった。
「よう、今日もやっぱりいっぱい食べるのか?」
 昨日と同じ、大きな弁当を後藤は出した。昨日は、後藤が来たことに驚いて何も思わなかったが、こうして当たり前の様に、親が作ってきたものを広げているのが、少し羨ましく感じた。
 僕は、自分が買ってきたものを鞄から取り出した。
「うわっ!そんなに食べるのか?」
 確かに、今日の量は多かった気がする。だけど、最近の空腹感はすごいものがあった。
「なんか、お腹が空くんだ」
「翔平は背も特別高くないけど、案外これからもっと伸びたりしてな。まあ、俺は越されないと思うけどな」
[後藤の背を抜きたいとも思わない]
「つーか、さっき背が少し高くなっているように感じたぞ。流石に昨日の今日でそれはないかって思ったけど…」
「そりゃ、そうだよ」
「でも、分からないぞ。ちょっと立ってみな」
 僕は仕方がなく、椅子から立ち上がった。後藤も僕の横に立った。
「あ、やっぱり高くなっている気がする。急に育ちざかり発揮しているみたいだな」
 後藤の身長は一八五センチもあるらしい。確かに、その後藤の背に、前よりも追いついている気が僕もした。
「俺との慎重の差は十センチちょっとって感じか?翔の親は、背はどうなの? 」
 言ってから後藤は少しハッとなった様だった。僕はそんな後藤の様子に淡々と答えた。
「母親は知らない。父親は後藤よりは低いと思うけど、結構高かったと思う」
「じゃあ、やっぱり伸びているんだな」
[なんで僕よりも後藤の方が嬉しそうなんだ?僕の親じゃあるまいし! ]
でも、背が伸びるのは悪い気がしなかった。

 五時間目の授業中に、昨日に引き続き、水瀬さくらと目があった。英語の訳で水瀬が先生に指されたのだ。そして、席に着くときに、僕の方をチラリと見た水瀬と目が合った。
 水瀬は笑顔を僕に向けてきた。
[昨日はなんだったんだろう?たまたまか?]
 僕は、昨日は水瀬が、たまたま虫の居所でも悪かったのだろうと思った。いくら水瀬でも、四六時中、誰に対しても、いい顔はできない。と、いうものだと思って、一人で勝手に納得した。
[それにしても、水瀬を襲う輩って?やっぱり僕が倒しているような怪物なのか?それとも人間だったり?]
 人間と思うと、剣を使うのが嫌だなと思った。どんな奴が襲ってくるのか、はっきりいつなのか…あの白い奴が、僕に何も情報を与えていってないことに、今更腹立だしく思えた。
『僕も訊いていれば良かった。だけど、そこまで頭が回る状況でもなかった。あいつの要求に応じた後、僕はすぐに意識がなくなった(眠ってしまった)みたいだし』
 六時間目の授業が終わると、後藤が意気揚々と僕の元へやってきた。
「さあ、行くぞ」
「うん、行くよ」
 僕たちは、教室から少し離れた場所にある格技棟まで足を運んだ。体育館の隣にあって、板間や畳の間がある。柔道部は畳の間で行われる。

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