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僕の心臓が動いていることと、心があついこと

月影そら

一緒に唐揚げ作ります

放課後、僕らはスーパーへ寄ってから、僕の家に向かっていた。驚きだったが、後藤はこの夏休みに引っ越しをしたらしくて、最寄りの駅が同じだった。しかも、それだけではなく、なんと同じマンションの二つ下の階にいたのだった。
 このマンションは、僕が二歳の時に親が購入して引っ越してきたものだった。当時はまだ新築だった。
後藤のとこは、たまたま安く売りに出ていたのを、親が見つけて購入したらしかった。今朝までの僕は、同じ学校の奴が同じマンションだなんて知ったら、本当に嫌な気持ちになっていただろう。でも、今は後藤と同じマンションだと聞いても、嫌な気持ちにまるでならなかった。後藤だからかもしれない。
「おおー、俺のとこと、作りが全く一緒だ」
 中に入ると、後藤は、凄く当たり前のことを言った。
「だけど、俺のとこは家族四人で暮らしているからな。いいなー独りで自由に使えて」
 後藤はそう言ってから、ハッとしたような顔をして僕を見てきた。
「別にいいよ。確かに誰も気にしないでいいから楽だよ」
 三つある部屋は、一つは僕の部屋で、一つはお祖母ちゃんの部屋だった。その部屋は、今もそのままにしてある。
もう一つは、両親の部屋だったところで、一番大きな部屋だけど、そこはベッドが二つに箪笥が置いてあるものの、他は何も置いてない。僕の母親のものは、一部がお祖母ちゃんの部屋にまとめてしまってあるが、他はどうなったのかまるで知る由もなかった。
 僕が帰って来たことに気が付いて、ミャアが足元にまとわりついてきた。
「お、猫飼っているのか。マンションで猫飼ってもいいのか?」
「賃貸じゃなくて、分譲だから、猫くらいはいいと思うけど」
「あ、そうなんだ。分譲だと許されるんだ。てか、分譲って購入したマンションってことだよな」
「うん。そうだよ」
 僕はミャアを抱き上げながらそう言った。後藤はミャアを見つめている。
「猫、好きなの? 」
「動物は基本的になんでも好きだ」
「抱っこしてみる?」
「いいのか? 」
 ミャアはこの家に来てから、僕以外の人に関わったことはなかった。だけど、後藤の腕に抱かれて頭を撫でられると、気持ちよさそうにしていた。安定感は抜群だったろう。
「じゃあ、ミャアは置いて手を洗ってきてよ」
 こんな風に指図しても、後藤は不愉快な顔をしない。後藤に何か言うとき、不安が全くないわけではないが、いつの間にか僕は普通に話している。
 後藤はミャアをソファに置くと、洗面所へ手を洗いに行った。僕は、台所で手を洗って、買ってきたものを閉まったり、必要なものを出したりして、準備を始めた。
「じゃあ、何からすればいいんだ? 」
「制服が汚れるから、これ付けて」
 僕は、大きめのエプロンを後藤につけた。後藤にエプロンは、ひどくアンバランスな感じだったが、僕はとりあえず堪えることにした。
「じゃあ、まず味を染み込ませる為に、鶏肉をボールに入れて」
「了解」
 後藤は、買ってきた、唐揚げ用の大きさに切れている鶏もも肉を、僕が用意したボウルに入れた。僕は、後藤に生姜をすらせた。僕は長ネギをみじん切りにしていて、それを全部ボウルに入れる。
「はい、ニンニクの皮を剥いて」
 後藤は僕の言うことに素直に従っている。以外に器用だった。
 僕は、ニンニク潰し器を出してニンニクを潰しだした。
「それ、なんだよ」
 後藤は物珍しそうに言ってくる。
「知らない? ニンニクを潰すやつだよ」
「俺にもやらせてくれよ」
 僕は後藤にニンニク潰し気を渡した。後藤は楽しそうにニンニクを潰していく。
[子どもみたいだな』
 その間に、僕は醤油と料理酒とごま油を同じ量ずつ入れていった。
「へえーごま油も入れるんだな。ネギも入れていたし、俺のとこと違う気がする」
「これはお祖母ちゃんの作っていた奴だよ。でも、僕はこれが一番好きなんだ」
 こんなことを話していると、お祖母ちゃんを思い出して悲しい気持ちになってくる。僕のことを凄く心配してくれていた唯一の人だった。
「じゃあ、これをよく揉んで」
 後藤は僕の指示に従って、肉と調味料が合わさったものを揉んでいった。
「もう、それくらいでいいよ」
 味を染み込ませる間に、僕たちはポテトサラダを作り始めた。後藤は凄く遅いが、丁寧にジャガイモの皮を剥いていった。
「家でも少し手伝いをしているの? 」
 僕は後藤の手つきが、そこまで悪くないのを見て、思ったことを口にしてみた。
「いや、全く。俺がやったことがあるのは、家庭科の調理実習くらいだな。でも、俺こう見えて意外に器用なんだ」
「確かに意外」
言ってみてハッとなった。流石に今のは言い過ぎた気がした。いつの間にか調子に乗りすぎていたのかもしれない。
「神崎も言うようになったな」
 後藤はそう言ってアハハと笑った。全然気が付いていなかったが、そう言えば、後藤も僕を嫌な目で見たりしたことがなかった様に思う。
 ただ、今まで全く関わってこなかっただけだった。それに、後藤が僕にゴミを投げてくる奴を一喝して以来、誰かが僕に変なちょっかいをしてくることはなかった。そういう意味では、中学のときよりも随分過ごしやすかった。誰も、僕に話しかけてこないだけだったから。
「よし、じゃあいよいよ揚げるんだな」
 さっきから後藤の腹が何度か鳴っていた。だけど、僕の腹も鳴っていた。そんな中、唐揚げを揚げると、まず、最初に揚がったものは、全てそのまま僕らのお腹に収まった。
「すっげー上手い。俺んちのより旨いんだけど。おまえ天才だな」
「確かに、今日は上手くできたかも」
 その後も、僕らは食べつつ唐揚げを揚げていった。揚げ終わる少し前にご飯も炊けたので、僕らは既に沢山食べているのだけど、それぞれの皿に唐揚げを盛って食卓に就いた。
 たった二人なのに、相当な量の唐揚げを僕らは平らげた。あわよくば、明日の昼に弁当を持っていけるかもと思ったが、全く残らなかった。
「食った、食った。神崎もほんとよく食うな。柔道部の俺と変わらないぞ。痩せの大食いってやつか」
 後藤が言い終わらないうちに、僕の携帯が鳴った。僕はハッとした。時間は午後七時十分前だった。あと十分後には、僕は何処かへ飛ばされる。僕は携帯のアラームを消してから、後藤に言った。

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