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僕の心臓が動いていることと、心があついこと

月影そら

なんかグイグイ近づいてくるんですけど!

昼休みになると、またまた不可思議というか、少し辛いことが起こった。
「よう、一緒に食おう」
 そう言って、既に他の席に移動している、僕の前の席の奴の椅子を僕の方に向けて、後藤がそこにドカッと座った。
「はあ…」
 僕は戸惑いを隠せなかった。
「なんだよ!俺と食べるの嫌か? 」
 僕は慌てて首を横にブンブン振った。そもそもこのクラスで、僕に拒否権なんてあるはずもないだろう。
「神崎は、いっつも独りで食べているから、そういうのはダメなんだよ」
[えっと、急に同情ですか? ]
「せっかく、何かの縁で同じクラスになったんだから、楽しくやった方がいいに決まっている」
[自分の価値観押し付けないでもらいたい]
 後藤は自分の大きな弁当を広げて食べ始めた。仕方がなく、僕は学校へ来る途中に買ってきた、コンビニのパンとおにぎりを鞄から取り出す。今朝から、やたらにお腹が空くから、かなり多めに買ってきた。後藤の弁当は大きいが、僕の買って来た量もすごいものだった。
「そんな細い体で、沢山食べるんだな!でも、沢山食べるのはいいことだ」
 少し驚いた声を出してから、後藤はアハハと笑う。躁病か?と思うほど明るい奴だ。きっと、悩みなんて全くないだろう。本当に僕とは対照的だ。
「だけどおまえ、いっつもコンビニだろう? 親は弁当作ってくれないのか?」
[面倒な質問してきた。そもそも、もしかして僕を観察してた? ]
「育ち盛りの息子の為なんだから、作ってやればいいのにな」
[結構、ズカズカと土足で入り込むのが好きな奴か…]
「さっきから俺ばっかりで何も話さないな」
 まあ、そうなるだろうなと僕は諦めたように口を開いた。
「僕は、独りで暮らしているから。母親は僕が小さい頃に死んだし、父親は仕事の都合で家には帰ってこない」
 もっと適当な嘘をついてもいいけど、それも思いつかなかったから、本当のことを言った。
 僕の父親は、本当は、仕事の都合ではなく、僕の顔を見るのが嫌みたいだ。中学二年まで育ててくれた、母方のお祖母ちゃんが死んだとき以来会ってない。
でも、毎月僕が生活するには多すぎる額の振り込みがあるし、分譲マンションだから家賃も掛からない。光熱費は父親の口座から引き落とされる。お祖母ちゃんが僕を思ったのか、仮にその振り込みが途絶えても、大学もその上の院に行っても、生活に全く困らないほどの預金が僕にはあった。
その預金は、お祖母ちゃんが、僕の父親に作らせたらしかった。更に、その預金がなくても、毎月余ったお金が自動的に貯まっていった。その額もはっきり把握していないけど、結構な額になっていた。そういう意味では、僕は恵まれていたのかもしれない。感謝も一応している。
「そ、そうか。なんか勝手なこと言って悪かった」
[案外単純な奴だ]
「じゃあ、普段のご飯はどうしてるんだ? 掃除は?洗濯は? 」
[好奇心旺盛か? ]
 正直、これまでこんな事を誰かに話したことはなかった。中学と高校の先生にだけは、状況を説明してある。
どうしても保護者のサインが必要なものは、父親がどっかの女と暮らしてる場所へ郵送する。すると割と早めにサインして却ってくるから、そこまで困るものではなかった。三者面談とかが面倒だが、中学とかでも、先生が諦める形になった。そうして、僕には同情が集まった。
 僕は、こんな風に突っ込まれると思っていなかった。正直、こんな話をするのは面倒だし、煩わしくて仕方がない。だけど、僕の立場がそれを許してくれなかった。
[くそ、昨日眠り込んでさえいなければ]
 僕はついため息を吐いてしまってから、口を開いた。
「自分でやっている」
 僕はボソッと言った。
「そうなのか? それはそれですげえー」
 後藤の予想外の反応に、僕は、顔が少し熱くなるのを感じた。後藤はそれに気が付いたのか、笑顔で僕を見ている。
「同じ年の神崎がそんな風にできるなら、俺だって親に甘えてばかりいたらダメだな」
[案外真面目だ]
「まあ、甘えられる親がいるんだから、甘えていていいんじゃないかな?」
 言ってから、僕はハッとした。僕なんかが偉そうに意見してしまったのだから、怒りだすかもしれない。
 恐る恐る顔色を窺うと、ワハハと笑ってきた。
[流石躁病! 助かった]
「おまえ、ほんっと偉いな。今まで関わってこなくて損した気分だよ」
 僕はついポカンと口を開けてしまった。
「なに、呆けてんだよ」
「だって、意味わからないから」
「いいか、人間は嫉妬の塊でできている。神崎が苦労しているのは分かった。しかもこの年でだ。他の奴らを本当なら妬むとこだ。でも、そうでないからな」
 後藤はただの筋肉馬鹿ではなくて、本当に純粋でいい奴なのかもしれない…と僕は不覚にも少し思ってしまった。僕に関わってくるのは、凄く面倒臭くて迷惑でしかないけど、悪い気はしないかもしれない。
「そうだ、今日俺、部活休みなんだ。だから神崎の家に行ってもいいだろ! なんか料理教えてくれよ」
 そう言われて、僕は後藤が家に来るのを少し思い浮かべてしまった。しかし、それは悪い気がしなかった。
[こ、断った方が面倒になるかもしれないし…]
「べ、別にいいけど」
「じゃあ、何を作るかだな。神崎は何が作れる?」
「作れないものもあるけど、逆に何がいいか言ってくれる方がありがたいよ」
「そうか、男の料理だから何がいいかな? 」
 男の料理というフレーズが、なんだか無性に可笑しかったが、後藤に似合っている気がして思わず笑ってしまった。
「あれ? 俺、なんか変なこと言ったか? 」
「あ、ごめん。男の料理とか言うからなんだか可笑しくて」
「そうか? だって俺たち男じゃないか」
 後藤はそう言いながら豪快にワハハと笑った。僕も一緒に声を出して笑った。クラスの奴らが僕らをチラチラ見ていたのだが、僕は何だかあまり気にならなかった。
 きっと、凄く目立ってしまっていたのだけど、後藤が醸し出す空気は豪快で、細かい事を気にしなくなる効果があるのかもしれない。
「じゃあ、唐揚げはどうだ」
「うん、いいよ。帰りに材料を買っていこう」
 こうして後藤は僕の家に来ることになった。

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